第四話【信用】

「テール様が驚かれるのも無理がありません。このことは、私以外、正確に申し上げますと私の信用した者以外知りません」

「そんな重要なことを会っても間もない俺に伝えるってことは……」


 テールは冷や汗をかきながら、アナスタシアの言葉の真意を読みとった。

 もしアナスタシアの提案を断れば、口封じをされるだろうと。


 しかし、アナスタシアは見るものを魅了するような満面の笑みを作り発した言葉は、テールの考えに反していた。


「ええ。私はテール様のことを信用しています」


 アナスタシアの表情も、声色も、そして身体の仕草からも、言葉に悪意を感じさせない純粋さをテールは感じた。

 もしこれで偽っていたとしたら、それこそテールがどう逆立ちしても勝てない相手だろう。


 アナスタシアはさらに言葉を続ける。


「テール様の高難易度ダンジョン踏破への熱意は現役のどの探索者より高いと、私の直感が伝えてきますの。そして、そのためには並々ならぬ努力を惜しまぬ方だと。それに失礼ですが、先日――」

「そこまで知っているのか。ああ。俺は【黄金の鷲】から追放されたよ。仲間だと思ってたヤツにコテンパンにやられてな。わかった。そこまで言ってくれるなら、話を受けよう。どうせ当てはなかったんだ。ただし、条件が一つだけある。俺も成長したダンジョンに潜らせろ」


 降って湧いてきたような話だったが、テールには既にアナスタシアの提案を受ける以外に道がないように感じられた。

 ここで断ったとしても、ダンテのダンジョンに再び挑戦できる可能性は低い。


 それならばたとえ遠回りだとしても、開拓でもなんでもやって、成長したダンジョンに挑ませてもらう方が良い。

 テールは腹を括って、アナスタシアの返事を待った。


 すると突然アナスタシアが立ち上がった勢いのまま、テールに抱きついてきた。

 ターニャの突進ならまだしも、探索者でもないアナスタシアの抱きつきにはビクともしないが、テールは驚きのあまり固まってしまった。


 嗅いだことのない良い香りと、女性特有の柔らかさがテールを襲う。

 ゆったりとしたローブの上からはわからないが、アナスタシアはその幼さの残る顔に似合わぬ体型の持ち主だった。


 パーティには異性もいたが、ダンジョン攻略しか幼い頃から頭になかったテールは、どう対応すればいいのかさえわからない。


「嬉しい! お受けいただき本当にありがとうございます!! ダンジョン探索の件ももちろんですわ! 他の三人のメンバーも、テール様のお眼鏡に適う人物を用意させていただきます!」

「アナスタシア様!! お戯れを!! 貴様ァ!! すぐにその汚い身体をどけろ!! 切り刻むぞ!!」


 アナスタシアの言葉と被せるように、女性の怒声が飛んだ。

 声の主は、先ほどからテールに視線を投げかけていた人物。


 今は発せられた言葉を体現するように、テールに向けられた視線には殺意が込められていた。

 いつの間に姿を現したのかテールにはわからなかったが、腰に吊るした剣の柄にかけられた手を見て、本気だと悟った。


「まぁ! パメラ!! 失礼ですよ! 下がりなさい!」

「はっ! アナスタシア様。しかし、第二王女たる貴女と、そのような下賎な者が密着することは、極刑に値するかと」

「私がしたことです! 異があるなら私を罰しなさい!!」

「おい、姫様。ひとまず離れてくれないか? そうしないと冗談じゃなく、俺はあいつに殺されるぞ?」


 テールは本心からアナスタシアにそう伝える。

 それを聞いたアナスタシアは慌てた様子でテールから身を離した。


 パメラはアナスタシアとテールが距離をとったことを確認して、ひとまず剣から手を離した。

 あと少し遅れていれば、その白刃がテールを襲っていたかもしれない。


「とにかく……承諾したものの、未だにわからないことだらけなんだ。詳しい説明を頼む」

「ふんっ! やはり探索者というのは阿呆の集まりだな。アナスタシア様が貴様のためにこれだけ丁寧に説明してくださったというのに、まだ理解が及ばんとは」

「パメラ。どうしてあなたはいつもそうなの? そんな口ばかりきいてると、婚期を逃しますよ?」

「なっ! アナスタシア様! まさか……それは才能ギフトの力で!?」

「さぁ……どうでしょう? テール様。目的のダンジョンまで馬車でもかなりの日数を要しますの。説明はその道中に」

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