第八回 春宵

 遂に宴の当日がやって来ました。宝燈は当日、日も登らぬうちから起き出して、邸中を回って仕事の進み具合を調べます。

「料理の手筈は問題無いか」

「はい」

「催し物は」

「すでに設え始めております」

「よかろう」

 私室に王府の官吏を呼び出して、全て問題無しとの回答を得ると、宝燈は服を着替えて韋黯の部屋に行き、眠っている彼を叩き起こしました。

「起きろ、起きろ賢弟!」

「んぁ…殿下、勘弁して下さい…馬には乗れません…」

「こら!夢を見ている場合ではないぞ!起きろ!」

「ん…殿下?殿下!?」

「酷いお寝坊さんだな。起きろ。今日が当日だ」

「当日、当日って…」

「宴だ阿呆!!」

 怒鳴りつけてやるも、韋黯はああっ!と声をあげて飛び起き、慌てて支度を始めました。

「とっとと着替えて居間に来い。朝ご飯は用意してやる」

 言い捨てて宝燈は部屋から出て、扉を閉めます。既に暖かな風が吹き渡り、満開の花々の香りが邸中を満たしていました。


 日が登り辺りが明るくなると、門前にがらがらと車の音が聞こえて来ます。早くもお客が何人かやってきたのです。見れば、車の他、八人かきの駕籠に乗っている者、その前後に旗持ちなどを連れている者もあります。

「殿下、既にご到着のお客様もいらっしゃいます」

「お通ししてくれ。一先ず西の方にてご休息を。扱いに差を設けてはならぬ」

「はい」

 王府の官吏達が続々と注進に参上し、それを聞き取って宝燈は的確に命令を下します。他方韋黯も邸内を駆け回り、招待客へのもてなしを監督します。

 今回は無礼講ですから、身分毎に格差は設けないとはいえ、皆貴族、或いは位の高い士大夫ですから、礼儀を失するわけにはいきません。それぞれの客に専属の使用人をつけ、宴の開始まで世話を焼かせます。

 そして、時間がやってきました。宝燈は合図をして客全員を政庁の大広間へ通し、自身も正装して主人の座に着き、客達が来るのを待ちました。


 最初に広間に入って来たのは、左散騎常侍の陳景勝と諌議大夫の項文若です。陳景勝は代々安国公を世襲する門閥貴族の一員で、項文若は科挙を通じて出世をした士大夫層の筆頭格です。

 彼らの後に続いて、貴族と士大夫が列を成し、差し向かいで席に着きました。向こう側を見る彼らの視線は険しく、ひりつく様な感情を帯びています。

 元より古い貴族達と新興の士大夫層の仲は大変に悪く、貴族達は成り上がりの下賤、士大夫は先祖の功を誇るばかりの愚昧と互いに侮蔑し合っていたわけですが、この様に顔を合わせると嫌悪の炎も勢いを増します。

 宝燈が敢えてこの様に手配したのは、貴族も士大夫も言うなれば国家の両輪であり、互いに手を取り合って忠勤に励んで貰いたいとの意思があったからですが、そう分かってもなおといったところでしょう。

「郡王殿下、この度はお招き、誠にありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

「いや、そう堅苦しい礼儀は不要です。先祖よりの世交の誼、また共に天子に忠誠を尽くす同輩。本日は身分の上下、立場の違いを忘れてお楽しみ頂ければと存じます」

 そうして挨拶を交わすと、今度は諸親王達が入ってきます。寿王李瑁殿下、永王李琳殿下を筆頭に天子の皇子達が現れると、宝燈は一時的に上座を降りて拝礼し、他の来賓もそれに倣います。

「これはこれは江夏王殿、その様な堅苦しい国礼は無しにしようではないか。今日の宴は其方が主人、さ、上座に戻られよ」

 寿王は言葉遣いこそ少々荒いですが、態度は豪放にして寛大、親しく言葉をかけて礼を免じ、上座に戻る様宝燈に促しました。

「ありがとうございます」

 立ち上がって上座に就くと、既に来賓は一人を除いて揃っていました。

「丞相殿のお姿が見えませぬが…」

 陳景勝がそう口を開いた時、息を弾ませて王府の役人が駆け込んで言いました。

「殿下、来賓の方々に申し上げまする。たった今、李丞相のお車が門前に参りました」

「すぐにお通しする様に」

 そう命じつつ、宝燈は内心苦々しく舌打ちしました。他の来賓ーその中には親王さえいるーよりも遥かに遅れて来ることで、自身の権勢を誇示しようとでもするつもりか。

「丞相がいらっしゃいます」

 程なく、李乾坤が副丞相の陳義烈と共に政庁へ入ります。彼の姿を見るや、門閥貴族も士大夫も一斉に頭を垂れ、まるで主人を迎える様な恭しい礼をしました。

「遅参を深くお詫び致します、郡王殿下」

「お気になさいますな、丞相。あなたの様な社稷の重鎮には、日々様々なお仕事があることでしょう。むしろ、お忙しい中ご足労頂き、感謝に堪えませぬ」

「おお、これは。皇族ともあろうお方が。ささ、顔を上げられませ」

 李乾坤は一応は謙譲の心深いように見せてはいますが、内心誇り高い宝燈に頭を垂れさせた事にほくそ笑んでいました。他方宝燈も、節をねじ曲げて頭を下げた事に心中で怒りを沸騰させ、激しい屈辱に苛まれます。

「それでは、皆々様お揃いの様ですから、宴を始めましょうか」

 苦虫を噛み潰した表情で宝燈は席に戻り、用意された盃を掲げます。

「それでは乾杯」

「乾杯、随意!」

 中身には、普通ならば強い酒を入れるのですが、彼の物には水が入れられています。

 全員が一息に盃を干し、盆の上に伏せれば、いよいよ宴の始まりです。


 さて、宴といってもやれる事が沢山ありますから、先ずは何からという事も思案のしどころです。

 宝燈は、客達にこう言いました。

「昔の詩に曰く、花は宵に楽しむもの、月の影と共に香りを楽しむものと申します。一先ずは、中庭に催しとお料理、酒を用意しておりますので其方をお楽しみいただければと存じます」

 反対する者は誰も無かったので、一行は邸の中庭に移ります。

 そこには舞台と幾つものテーブルが設られ、贅沢極まる料理に、楽隊や芸人達が控えていました。

「それでは、最初の催し物に参りましょうか」

「郡王殿下が歌劇をお好みとは知りませんでしたな」

「催しは小王わたくしも大いに好むところでございますので…」

 宝燈が合図をすると、楽隊が音楽を奏で、芸人が合わせて踊り出します。

「最初の演目は、『楊家将』より『楊四郎探母』の段でございます」

「おお」

 客達は囃し立てながら、酒と料理を楽しみ始めました。後は夜までの間、各々勝手におしゃべりに興じ、酒を酌み交わして過ごす訳ですが、一々述べる必要は無いでしょう。

 宝燈は催し物の演目や料理の内容まで、大変細かく目を通して、宴の題に合うか、単なる珍味ではなく美味であるかを長い時間かけて確かめてきたので、こうしてお客様方が楽しんでいるのを見ると、喜びで涙が出そうになります。

 一方客達も、若い彼が宴の為に必死で支度をしてきた事を知っていますから、楽しむ事でその心意気に報いようとします。

 その結果、宝燈はあちこちに引っ張りだこになって、休むこともままなりません。日が暮れるまで、彼はお偉方の話し相手を務める事になったのでした。


 さて、韋黯はといえば王猛共々邸の警備をする傍ら、許されて宴の食事の余りやお酒のおこぼれを頂いて、それなりに楽しんでいます。

 休憩の間は観劇や、お客様方からお小遣いを集めることも出来るので、単に苦しい仕事というわけではありません。

 ですが、彼の場合は劇よりもお小遣いよりも、宝燈のことが何より心配でした。なんといっても、まだ十四歳の少年なのですから。何処かで強すぎる酒を飲まされでもしたら、倒れてそのままという事もあり得るのです。

 彼は食事やお酒も程々に、宴に紛れて宝燈の様子を伺っていました。


 「時に江夏王」

「おや、なんでしょうか寿王殿下。何か気になる事でも…」

「いやいや、まことに素晴らしいもてなしだ。宵の花見もますます楽しみになったとも。実はな、江夏殿、貴公に一つ聞きたいことがあってだな…」

「何でしょう」

「貴公は、まだ女を知らんか?」

「は?」

「つまり、貴公はまだ童貞かと訊いているのだ」

「な、何を…!」

 宝燈は真っ赤になって飛び退きます。

「そ、その様な事を訊かれるなど…」

「初心な反応だのう。それを見るに、やはりそういう事か」

「か、揶揄わないでください!」

「男の道とは、若ければ若いほど良いと思うがな」

 寿王はけらけらと笑うと、また盃を干して近くの瓶から酒を注ぎます。

「まあ江夏殿ほどの見目麗しいお方なら、女子など向こうのほうからやってくるだろうて」

「…そうですな」

 その言葉に対する宝燈の反応はどこか投げやりです。

「(所詮、まともな結婚など出来はしないのだ。どう考えたところで、それは揺らがぬ)」

「いかがなされた」

「いえ、何でもございませぬ」

 美しい顔にほんの少し影が差します。それは、自分の身の上を嘆いてのことでしょうか、それとも…。


 さて、宴もたけなわと言った様子で、気が付けば日は沈み、間も無く夜の闇が京都を覆おうとしていました。

「では、そろそろ頃合いでしょうな。皆様はこちらへどうぞ」

 宝燈は自ら先頭に立ち、客らを庭を望む回廊を通り、夜の宴席へと案内します。回廊の灯りは外の風景と月明かりを映えさせる為に弱められ、薄ぼんやりと照らす程度にされていましたが、これは見事な気配りというべきでしょう。

 何しろ、見事に客達は庭園に目を奪われたのですから。

「これは、なんと見事な!」

「梅、牡丹、海棠、桃が一処に咲くなど見たことがございませぬぞ」

「今年は気温が妙に上がり下がりしましたので。花が春か冬か計りかねたのでしょう」

 王府の庭園の美しさたるやなんと表現したら良いでしょう。池を囲む様に植えられた牡丹や海棠、梅の花は見事に咲き誇り、庭の灯籠と月明かりに照らされて色香を振り撒いています。また、池の合間に作られた浮島の桃も花開き、見事な様を水鏡に映して、この仙界に欠く事の出来ない色香を添えていました。

「灯籠は月が登りましたら灯を消します。明かりの色が異なるのも、また風情のあるものでございましょう」

 宝燈はそう言って、席に着いた彼らに対して酒や夜用の膳を持ってこさせます。また、新しく歌舞音曲を披露させる為に妓女も呼び入れて、再び宴を始めました。

「時に郡王殿下、此度は舟遊びは無いのですかな」

「申し訳ありませんが、ございませぬ。その代わり、その代わりに、この通り歌舞音曲を用意しておりますので」

 彼が盃を干すと、妓女達が琵琶や琴をを掻き鳴らして曲を奏で、和して歌いながら舞い始めます。

「ほほ、この景色を背景に、美しき妓女が舞うとは…此処の方々は、正しく仙界とそこに住う天女ですな」

「その通りその通り!」

 と、その様に誰もが宴の優美さに目を奪われている間、宝燈は韋黯を側へ呼んで囁きました。

「のう、本当にこれで良いのか」

「と、言いますと?」

「いや、皆が楽しんでいるのは良いのだが、どうも品が無い様な気がしてならぬ」

「『衆人皆酔我独醒みんな酔ってるのに、自分だけシラフ』というわけですか」

 韋黯が古い詩を敢えて持ち出して答えると、宝燈はその意図を察し、嫌そうな顔をして、

「『衆人皆酔皆が酔っているのなら…』というのだな。ふん、教養の裏に隠しても悪意というのは露見するのだぞ」

 暗に「気にせず場に合わせた方が良い」、という諫言を受けた彼は、それが分かってもなお少々疑問を心に抱かざるを得ません。客が楽しめているのならそれでも良かろうが、どうも俗っぽくはないだろうか…、と。


 さて、その様に過ごしていると、段々宴もたけなわという頃になって来ます。月も間も無く中天へ至ろうとしており、そろそろ散会おひらきにも良い時間でしょう。

 その様に宝燈が考えた時、俄に門前が騒がしくなって、幾人かの官吏が慌てて部屋に飛び込んできました。

「こ、これは郡王殿下、並びにお客様の方々には誠にご無礼仕りました。ですが、火急の事にて、罪は後のことと致しまして、まずはわたくしめの報告をお聞き願います」

「許す。何事か」

「ちょ、勅使が参られてございます。聖上おかみより、殿下に賜わす御品物をとのことで」

「すぐにお迎えしよう!門前まで寡人が出る」

「我々も、お供いたします」

 勅使の到来ともなれば、いかに客と言えども臣下の分を弁えなくてはいけません。皆宝燈に続き、こぞって門前へと向かいます。

「江夏王李宝燈、これへ」

臣在ここにおります

 国礼に従って拝跪すると、勅使は聖旨を解いて朗々と読み上げました。

「『李宝燈に対し、王位継承を祝し記念の品を与える。欽此』」

「ありがたき幸せ、聖上のご厚恩に感謝の言葉もございませぬ」

「『折角の晴れ舞台に、参る事叶わぬのは誠に心苦しく思っておる。ついては詫びと代わりとして、これを受け取って欲しい』との仰せでございました」

「なんと…!」

 覚えておいでの方はいるでしょうか、少し前に宝燈は天子に宛てて謹んで臨御を乞う手紙を書き、太監を通じて上奏したのですが、これは言わば歴代に渡って続く形式の上でのことであって、本人は無論の事、勅使の下向さえも異例のことです。

 今までは「功臣からの申し出は嬉しいが、所用あって叶わぬ」というごく簡単な返事で却下されるくらいのことでしたから、彼を含めこの場の全員の驚きは相当なものです。

「此方を」

「これは、鉢植えですか」

「黄梅の苗木でございます。美央宮にて、江夏王殿下御即位の折に陛下が植えられ、大切に育ててこられたものです。『清明節の宴の折にこれを渡し、朕からの祝儀としたい。願わくば自慢の庭の春の先触れの名誉を与えてやって欲しい』と」

 震える手で宝燈は苗木を受け取り、側に控えている韋黯に手渡します。そして、涙を溜めながらもう一度額を擦り付け、心からの感謝を申し述べました。

「真に、斯くの如き過大の皇恩を賜り、報いる道も有りませぬ。かたじけなき叡慮、江夏王家ある限り子々孫々の名誉と存じます」

「「おめでとうございます」」

 宝燈に対し、客達は次々にお祝いの言葉を述べ、早速庭に苗木を植える様にと促しました。彼はそれに従い、急いで臣下達に手配をさせ、庭の最も目立つところに穴を掘らせます。

「勅使殿御臨席の下、恩賜の黄梅をこちらへ」

 そうして掘られた穴に、彼自らが苗木を掴んで中へ植え、手づから土を盛ります。それを終えると、見ていた者は拍手を贈り、その名誉と幸福を寿いだのでした。

「いやはや、これはおめでとうござる」

「天子様より格別のお計らい、真に羨ましゅうござる」

「やはり、郡王殿下の才幹は、高く評価されている様でございますな」

「いやはや左様な事はございませぬ。小王は未だ未熟の青二歳、忝い叡慮に応える事もままなりませぬ。何卒、方々のご指導ご鞭撻賜ります様」

「さあさあ、堅苦しい儀礼はもう良いでしょう。勅使殿と共に、最後の乾杯をしようではありませぬか」

 宝燈は照れ笑いを浮かべながら、共々広間へと戻って行きます。その様子を幸福げに見ていた韋黯でしたが、勅使のお出迎えの指図をとっていた王猛が意味ありげに袖を引っ張るのを感じ、その見る方に目を向けると、李乾坤がただならぬ視線を宝燈に送っているのが分かります。

「あれは…」

「嫉妬か、更に警戒を強められたか」

 無論向けられている彼の方は嬉しさの極ですから、当然それには気が付いてはいません。機嫌良く広間に着座した者達に向けて酒を準備してやっています。

「では、皆々様に行き渡りましたかな」

 さて、宝燈がそう見回すと、唐突に李乾坤がこう言い出しました。

「恐れながら、乾杯の音頭を取るの名誉を、臣に与えては頂けませぬか」

 この申し出に宝燈は面喰らい、にわかに意図を測りかねます。よもや向こうからその様な申し出をしてくる理由はあるまい、腹に一物あってもおかしくはなかろうと、喜びも多少冷めてしまいます。

 どうするべきかと視線を左右すると、王猛と韋黯が共に、この場はお受けあれ、と目で言っているのが分かりました。

「では、宰相殿に願います」

「謹んで。…それでは!江夏王殿下の栄誉と、益々のご発展を願いまして!乾杯!」

「「乾杯!」」


 「ゔ、ゔゔゔ〜」 

「殿下!」

 万事恙無く済み、客が門から帰っていくのを見届けると、宝燈はその場で力が抜けて崩れ落ちました。韋黯はそれを急いで支え、奥の方へと彼を連れて行きます。

「殿下、大丈夫ですか!?」

「つ、疲れた…」

 まさしく死に体の体で苦しげに息を漏らす宝燈を、急いで奥付きの者に引き渡すと、韋黯は取り急ぎ薬湯の類を用意させると共に、宴の後を片付けさせました。

 少しして、平服に着替えさせられた宝燈がえっちらおっちらとやってきて、韋黯の側に座り込んで言いました。

「…食べ過ぎた」

「薬湯を用意させておりますので」

「んぐっ、んぐっ…ふぅ、腹に染みるな。ごちそうばかり食べていたから、こういうものが良い」

「では、明日もそうさせます」

「頼んだ」

 彼はゆるゆると寝転がり、ぼんやりと庭を眺めます。ついさっきまでの喧騒が嘘の様に、邸の中は静まり返り、庭の灯籠も消えて月の玲瓏とした光だけが花々を照らしていました。

「ふう…宴の間にはゆっくり見ている暇が無かったからな…」

「確かにそうですね」

「…そうか、この庭はこんなにも美しかったのだな。気が付かなんだよ」

「左様で」  

「…む。お前、ついさっきからはいはいとばかり申しておるが、そうすれば寡人をだまくらかせるとでも思うておるのかの」

「いいえ、その様なことはありませぬ。ただ…」

「ただ?」

「殿下の仰る事が、皆真でございますゆえ。…本当に、綺麗なお庭でございますな」

「ふん。口が上手いのう。…ところで、賢弟よ」

「はい」

「寡人は、その、うまくやれたであろうか」

「宴ですか」

「そうだ。寡人は、新しい王に相応しいと示せたであろうか」

「…殿下」

 韋黯は優しい声で宝燈を呼び、彼が振り向くとその頭をゆっくりと撫でました。

「なっ、無礼だぞ!」

「殿下、今日の殿下はご立派でした。…本当に、貴方様は一角の主君でいらっしゃいます」

「……誤魔化されんからな」

「罰は後でお受けしますよ」

「…よかろう。では、懲役刑だ。今少し、これを続けてもらおうか」

 そう言うと彼は満足げに微笑み、目を閉じました。


 かくして春の宴は終わり、季節は夏へ向けて流れていくのです。一体宝燈を何が待ち受けているのでしょうか。

 続きは次回にて


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