第14話 闇の素顔(二)

 静海に接する内陸の県、長白ながしらにて。


 小高い丘の上に、立派な洋館があった。この地方の夜は暗い。昼間は誰もが羨む館も、今は不気味な雰囲気を醸し出していた。これなら吸血鬼のようなものが現れたとしても、まったくおかしくない。その洋館の二階の一室。灯りひとつない真っ暗な部屋が、闇の組織の集会場であった……。


「総帥。は、上手くやっているでしょうか」


 背伸びをしたような、幼い少女の声だった。

 彼女の目線の先。両肘を机に乗せ、組んだ手に顎を乗せていた少女は、ゆったりと口を開いた。


「同士よ……。信じて待つのです。彼女は我々の中でも、ひときわ優秀な同士。今頃、光の者に闇の制裁を科していることでしょう……。ふ、ふふっ……」

「ごくっ……」


 場が緊張に支配される――。

 その緊張をぶち破るように、ガチャっと扉が開かれた。


「あらあら、こんな真っ暗な部屋で、どうしたの?」


 パチッ


「あうぅ、まぶしいよぉ~っ」


 急な光に対応できなかった小柄な少女が、目を><ばつにしている。年のほどは、十二歳ほどだろうか。

 さて、高校生ほどの大人びた赤毛の少女そうすいは、部屋にやってきた母に向かって、簡潔に答えた。


「闇の組織ごっこ」

「あらまあ、楽しそうね。お菓子もって来たのよ。茅衣理ちえりちゃん、よかったらどうぞ」

「わーっ、ありがとう、紗久さくちゃんのお母さん!」

「ふふっ、どういたしまして。ゆっくりしていってね」


 御樫みかしの母は笑顔で出ていった。娘のかわいい友達の一人なのだ。無理もないだろう。

 部屋に残ったのは二人だけ。闇の組織が、いかに少人数で構成されているかが見てとれるだろう。中部地方にいる魔法少女は、およそ百人。その百人のうち、たった五人しかいないのだ。比率にして、二十分の一。彼女たちは、正真正銘の変わり者だった。唯一救いがあるとすれば、紗久を筆頭に、彼女たちはみな極めて能力の高い魔法少女だったということだろう。それも必然のことだったのだが。

 

 ピロン♪


「あ! 璃衣ちゃんからだ!」


 自分の端末とにらめっこしていた、茅衣理と呼ばれた少女が声を上げた。嬉しそうにポニーテールが揺れている。メッセージには、新しい魔法少女と接触したことが、簡潔に書かれてあった。


(サク:お疲れさま。感触はどうだった?)

(リー:悪くは、なかったです。珍しく、素直な子でした)

(チエ:仲間になってくれそう?)

(リー:どうかな。あの子次第だけど。もう少し様子を見るつもり)


 いかに、この世の悪を減らすか――。

 それが、の目的である。その活動のひとつが、魔法少女に協力を呼びかけることであった。その成功率は、決して高くない。人は、その思い込みから抜け出すことは、まったく容易ではないのだ。しかし、だからと言って諦める訳にもいくまい。その先には、大いなるが口を開けて待っているのだから。そして、その勧誘が失敗した場合には、魔法少女の活動を妨害することになる。それが、彼女たちから反感を買うものだとしても……。


「璃衣はしっかりしてるね。頼りになる」

「うんっ」

「さ、せっかくだしお菓子食べましょうか。茅衣理、どっちにする? 好きな方選んで」

「う~んとぉ……」


 むむむ、と茅衣理は眉を寄せた。

 しかしまあ、闇の組織とは、なんとも矛盾した組織名ではないか。

 明かりのついた洋館の窓からは、楽しげな声が聞こえていた。



 ****



 某メッセージアプリにて。


(もういい加減頭に来た。ちょっと対策立てない?)

(賛成。一回ぎゃふんと言わせてやろうよ)

(でも、仲間内で争うなんて……)

(何言ってんの。最初から仲間じゃないでしょ)

(グループ作りました)

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