第12話 桜、堕つ(二)

「いたっ!」


 新幹線も通る、十二線のホームを持った大きな静海駅。そのアーチ状の屋根で、人型の魔物がぼんやりと佇んでいた。

 フルールを構える。魔法陣を展開する。このかん、二秒。狙いは定まった。あとは想いを込めるだけ。


「……?」


 何か、おかしい。。それは、狙撃手であるわたしの直感で――。


「きゃぁっ!」


 上方から飛来した青紫の光弾が、すぐそばをかすめていった。避けなかったら、当たっていた。確実に……。


「――!」


 安心している場合じゃない!

 上を見れば、もう追撃がやって来ていた。光の群れを振り切りながら、たまらず後退する。結果、駅からは遠ざかる格好になってしまった。

 それにしても、間違いない! この力は魔法少女のものだ。振り返れば、夜の闇に溶けそうな黒ずくめが追ってきている。これが、魔法少女に敵対する者……闇の組織の一員なの……!?


「っ!」


 でも、どうして? 後ろから追われるばかりで、反撃できない……! きっと、戦闘経験は、向こうの方が豊富なのだと思う。このままじゃダメだ! そう思って強引に反転した。迫る五つの軌道を慎重に予測する。大丈夫だ。これは当たらない。わたしの周りを通り過ぎて行くだけだ……!

 魔力を充填する。相手の攻撃が過ぎ去った直後に、反撃する……!


「――え?」


 

 虚空に消え去っていくはずの五つの弾丸は、わたしの周りで止まっていた。


「ま、ず……っ」


 爆裂――。

 とっさに魔法陣たてを展開したものの、衝撃までは殺せなかった。


「えほっ、げほっ……!」


 にじむ視界に追撃の光がきらめく。それから逃れるように、上昇を続けた。街の灯りは、どんどん小さくなっていく。

 もうっ……どうして!?


「どうして!? どうしてこんなことするの!? わたしたち、おんなじ魔法少女なんだよ!?」


 心からの疑問が口から飛び出した。どうして魔物をかばうのか。魔法少女に攻撃するのか。まったく理解できない。

 あれほど激しかった攻撃がんで、わたしたちは、空の上で向かい合った。


「あなた――」


 女の子だ。涼しげで、凛とした女の子の声。その黒ずくめからは、まったく想像できない声だった。


「疑問に思ったことは、ある? 魔法少女とは何なのか。魔物がどうして存在するのか。それから――世の中で言われていることは、本当に正しいことなのか」

「え……? な、なんの、こと?」

「思ったこと、ないんでしょう?」


 魔法少女とは何なのか? 魔物がどうして存在するのか?

 そんなこと、あらためて考えたこと、ない……。

 世の中で言われていることは、本当に正しいのか?

 正しい、んじゃあないの……? たとえば、テレビで言われていること、だよね。それが正しくないなんて、そんなこと、あり得ないよ。だってそんな、わたしたちをおとしめるようなこと、するはずないでしょ? でも、どうして? どうしてそんなこと、聞くの?


「ぜんぶ思い込みで片付ける」


 魔物は、全部悪いものだ。


「言われたことを鵜呑みにする」


 バーチャル・ニュースキャスターは、いつも社会の実情を知らせてくれる。


「世の中のことは、なんにも疑問に思わない」


 みんな一生懸命行動した結果が、今の世の中だ。


「それはね」

「それ、は……?」

「――あく、と言うのよ」


 ――え?

 悪? わたしが? みんなに悪いこと、してるの……?

 そんなこと、初めて言われた。

 突然のことに、身体が動かない。青紫の閃光が迫っている。

 わたしは……罰を受け入れるように、呆然と、次の衝撃を待つことしかできなかった。

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