第14話 「お願いね。それじゃあ」 なんだからしくない。

「そうだ、かえでちゃん、さっきの手品、琴羽ことはにも見せてあげてよ」

「手品?」


 上手くマジックという言葉をかわして話のきっかけを作っていく。

 これでうららがマジックという言葉に引っかかったりすればいいんだけど。


 俺はとりあえず、自爆だけはしないように気をつける。


「さっき楓が手品を見せてくれたのよ」

「ほうほう」


 どうやら琴羽は仕掛けた側の味方をしてくれるようだ。

 麗の方に疑問をぶつけた。

 しかし、俺が先に手品という言葉を使ってしまったせいか、マジックと言うことはなかった。


 下手だったかなぁ……。


「それでは琴羽お姉さま、ここになんの変哲もないトランプがあります。確認してもらっても大丈夫です」

「どれどれ……」


 言われた琴羽はじっくりとトランプを確認していく。

 そういえば、トランプって何語なんだろうか。


「それでは、この中から好きなカードを一枚選んで、こちらに見えないように確認してください。楓は後ろを向きます」

「それじゃあこれにしようかな。いいよ~」

「はい。それではそのカードをもらいます」


 俺も種が気になるのでじっくりと楓ちゃんの動きを見てみる。


「ここに魔法をかけます」

「魔法」

「はい。すると……」

「えっ!」


 やはり先ほどと同じようにカードが全部表向きになっていた。

 よく見ていたつもりだったけどさっぱりわからなかった。


 一体どういうやり方なんだろうか……。


「この中にある、一つだけ裏のカード。これが、選ばれたカード、クローバーの九です」

「すご……」

「えっへん」


 楓ちゃん渾身のドヤ顔が決まった。


 麗も「う~ん」という感じになっているところを見ると、麗もどうやっているのかわからなかったのだろう。


「このマジックすごいね……。てっきり市販のやつとかかと……」

「実際市販のやつもやってたよね?」

「あれは簡単なのでやめました」


 結構すごいのもあったりすると思うんだけど、そんなものなのだろうか……。

 楓ちゃんの本気というか、すごいな……。


「ほかのマジックも練習しようと思います」

「それは楽しみだね」

「私はコインを使うやつが見てみたいな~」

「いいですね、コイン」


 楓ちゃんはコクコクと頷く。

 楓ちゃんがやったらかなりのクオリティーのマジックが見れそうだし、コインのマジックもすごそうだ。


「コップを貫通させたりするのよね」

「「あっ」」

「あっ」


 麗がハッとしたように口を手で覆った。


「麗お姉さまの負けですか?」


 しかし楓ちゃんが言うように、俺と琴羽もばっちり聞いてしまった。

 言い逃れはできない。


「で、でも、英語じゃないわよね?」

「どうですか琴羽審判長」

「うむむ~……」


 琴羽はわざとらしく唸って見せる。

 実際コップが英語じゃないのかは俺にはわからないが、ここは琴羽に任せよう。

 もしアウトなら膝枕が待っている。


 ちょっとわくわくしてきた。


「調べます」

「えっ」


 これで英語じゃなかったらセーフってこと……?


「どうやら英語じゃないみたいなのでセーフ!」

「よかったぁ……」

「まじかよ……」


 俺の……!

 膝枕が……!


 いやまぁしかし、抱きしめたい気持ちも……。

 くっ……。


康太こうた?」

「なんでもない」


 俺は純粋に悔しがっているだけです。


「それじゃあ次からは日本語以外がダメね」

「さすが審判長!」

「かなり難易度上がったわね……」


 これで自爆しないように気をつければ俺の勝ち……。

 よし……集中していこう。


「ご飯できたよぉ」

「待ってました~」


 心優みゆの声と共に、七海ななみちゃんによって料理が運ばれてくる。

 俺たちも手伝いをして、料理を並べ終え、ご飯の準備が整った。


冬斗ふゆとさんは?」

「また遅くなるって」

「そっか」


 冬斗さん、仕事大変なんだな……。


 みんなでいただきますをしてご飯を食べ始める。

 どれもおいしくできている。さすがだ。


「おいし~!」

「おいしいです」


 しっかりと味が染み込んでいる筑前煮、鰹節や長ねぎの乗った豆腐に、これはバターで炒めた肉と野菜だろうか。いや、ガーリックも使っているようだ。

 すごくおいしい。


「康太、これってやっぱり……」

「間違いなくガーリックも使ってるだろうな」

「ふふっ……そうね、使ってるわよね、にんにく」

「そうだな。にんにく……あれっ?」


 俺さっきなんて言った?


「はい! こうちゃんアウト~!」

「やっちまったぁ……」


 ついついおいしさにつられてあっさりと言ってしまった……。

 琴羽と楓ちゃんがおいしいと喜んでいたのを聞いて心のテンションが高まってしまった。


「まぁ負けは負けだけど、俺はどっちもご褒美だからいいし~」


 麗を見れば少しもじもじしている。

 また想像してるな~?


 いや、でもこの照れている麗をぎゅってするのか。

 そして頭を撫でる……。


 なんか少し緊張するな……。

 俺の理性はそこで止められるのか……?


「あれ? 康ちゃん緊張してる?」

「し、してません」

「結局あんたも緊張してるのね」

「してません~」

「わかりやすいわね」


 今のは自分でもわかりやすかったとは思う。

 顔に出てないはずなのにバレるのも癪だな。


 顔に出てるって言われるのも嫌だけど!


「じゃああとでやるからな。後悔するなよ?」

「あんたこそ怖気づくんじゃないわよ?」

「当たり前だろ? ……できれば、膝枕もしてもらえませんかね?」

「それじゃああたしの勝利の意味がないからそのうちね」

「ちぇ」


 でもやってくれるのか。

 こういうことをしてくれるのは、男としてとても嬉しいけど、本当のところどうなのか気になるところではある。


 してくれるってことは、許されてるんだろうけど……。


「な、なんかこっちも照れてきちゃうよねぇ」

「ね!」


 おっとそうだった。

 いくら認められているとはいえ心優と七海ちゃんと楓ちゃんも一緒なんだ。


 だからどうということもないし、そうでなくてもどうということもないけどね?


 俺はささっとご飯を食べて、皿洗いを始めた。

 続々と食べ終えていく人たちの食器を受け取り、洗っていく。


 みんなは順番にお風呂に入るようで、心優と七海ちゃんと楓ちゃんの三人が最初に入った。

 麗と琴羽は二人でテレビを見ている。

 昨日もそうだったが、二人でお風呂に入るらしい。

 皿洗いを終えた俺は、本を読むことにした。


 昨日も読んでいたので、もう二巻の半分くらいまで進んだ。

 読むスピードも上がってきている気がする。


「このバラエティーってみっちゃんが好きでよく見てるよね〜」

「あたしも最近見るようになったわ」

「私も〜」


 そんな会話が聞こえてきたので、チラッとテレビの方を見てみる。

 たしかに心優がよく見ているバラエティー番組で、俺もよく見るやつだ。


 心優の話では、そこまで人気の番組ではないらしい。

 なぜ続いているのかは謎だ。


「康太も見る?」

「俺はちょっとこれ読みたいからいいよ」

「康ちゃん本当に本が好きになったね〜」

「もっと早く読み始めればよかったと後悔するくらいにはな」

「おすすめした甲斐があるわね」


 麗の好みと合っていたのもよかったのかもしれない。

 興味を示した本があまり好みに合っていなかったら、俺だってここまで読みはしなかっただろう。


 最初に好みの本が読めたことで、続けることができているのだ。

 それに、好きなジャンルがわかればおすすめもしてもらいやすい。

 現に、九条くじょうから薦められている本は面白そうだ。

 これも続けられる理由になるだろう。


「この番組でいいわよね?」

「うん。いいよ〜」


 二人はテレビに戻ったようなので、俺も本を読むのに戻る。

 あと半分くらいだから、一時間半くらい掛かるだろうか。


 二巻も一巻と変わらず面白い。

 麗が三巻を楽しみにしているようだったが、俺も早く発売されてほしい。


 二十分くらい経った頃だろうか。

 お風呂から誰かが上がってきた。


「さっぱりしました」


 楓ちゃんだ。


「楓ちゃん、髪乾かしてあげる~」

「ありがとうございます、琴羽お姉さま」


 昨日と同じく琴羽は楓ちゃんの髪を乾かす。

 昨日も思ったことだが、千垣ちがきだったら即答で断るんだろうなとか思ってしまう。


 琴羽と千垣の絡みは、なんだか見ていて面白い。

 千垣の反応も新鮮だからかな?


「それでさ~」

「うんうん!」


 心優と七海ちゃんも続けて出てきた。

 二人はそのまま七海ちゃんの部屋に向かって行く。


 心優は七海ちゃんからいろいろ借りて使っているそうで、ドライヤーもその一つらしい。

 微笑ましい限りだ。

 ちなみに、今琴羽が楓ちゃんの髪を乾かすために使っているドライヤーは琴羽の物だったりする。


「それじゃああたしたちも入りましょうか」

「琴羽お姉さま、あとは自分でやります」

「そう? わかった! それじゃあららちゃん行こっ」


 麗を庇いながら、琴羽たちは準備をし始めた。

 ここには俺がいるので、琴羽は一旦荷物を持って麗の部屋に行く。


 そうすれば、ここは通らなくて済むので、下着を見られたりする心配は無くなるというわけだ。

 俺も視界に入ってしまったりする心配もない。


「楓ちゃん、俺がやろうか?」

「いいんですか?」

「俺でよければ」

「お願いします」


 本に栞を挟んで閉じて、テーブルの上に置く。


 こうして髪を乾かしたり整えたりするのは、心優、麗に続いて三人目だな。

 楓ちゃんの髪もサラサラで触っていて心地がいい。

 きっと努力の賜物なんだろうなぁ……。


「楓ちゃんも髪綺麗だよね」

「麗お姉さまと七海お姉さまに教えてもらって頑張ってます」


 やはり努力の賜物だったか。

 いくら元が綺麗と言っても相応の努力の上に成り立っている物なんだなぁ。


「肌とかもいろいろしてるの?」

「はい。日焼け止めとか化粧水とクリーム塗ったりとかしてます」

「ほぉ……」


 小学生の頃からそこまでなのか……。


「すごいね、楓ちゃん」

「えっへん」


 いつものドヤ顔を見たところで髪が乾ききった。

 いつもはサイドテールにしている楓ちゃんだが、寝る時にはもちろん結ばないでそのままだ。

 こうしてみると、小学生になった麗にも見える。


「はい。終わったよ」

「ありがとうございました」


 楓ちゃんは一旦部屋に行ってしまったので、一人になってしまった。

 ドライヤーはたぶん琴羽が使うだろうからそのままにして……。


 とりあえず、続きでも読もうかな。


「んしょ……」


 楓ちゃんが戻ってきてテレビを見始めた。

 俺はそのまま本を読むことにする。


 しばらくすると、玄関の開く音が聞こえた。


「ただいま」

「おかえりなさい」「おかえりなさい、お父さま」


 冬斗さんが帰ってきた。

 なんだか大きな袋を持っている。


「楓、ついに売ってたから買ってきたぞ」

「本当ですか!?」

「ああ。遅くなって悪かったな」

「嬉しいです。ありがとうございます……!」


 何か楓ちゃんに買ってきたようだ。

 なかなかのボリュームだが、一体中身は何だろう?


「おぉ……!」


 お、これは子どもに大人気のゲーム機だ。

 据え置きゲーム機としても使えるし、携帯ゲーム機としても使えるあれだ。


 これはまたどうしていきなりこんなものを……?


「何かのお祝いですか?」

「ああ。誕生日プレゼントなんだよ」

「誕生日? 楓ちゃん、誕生日なんですか?」

「まぁ、二か月くらい経ってしまってるんだけどね」

「二か月……?」


 二か月前に楓ちゃんが誕生日だったって……?

 なんで麗は何も言わなかった……あ。

 そうか。十一月……。


「楓ちゃん、十一月が誕生日だったんだね」

「はい。二十四日です」

「俺も何かプレゼント用意するね」

「本当ですか!?」

「もちろん」


 十一月と言えば、心優が事故にあってしまい、記憶を失っていた時期だ。

 そのことで、俺たちに言うことができなかったんだろう。

 それに、麗にはいろいろ手伝ってもらったりしてたこともあって、ちゃんと祝ってあげることもできていなかったと思う。


 謝ると、麗は怒るだろうし、楓ちゃんもきっと怒ると思う。

 だから、謝りはしない。

 感謝はすっごくするけれど、謝るのはきっと違う。


 これは俺の勝手な自己満足かもしれないけど、ちゃんと祝ってあげたい。


 楓ちゃんはとても嬉しそうにゲーム機と一緒に買ってもらったゲームソフトを見ている。

 その間にゲーム機をテレビに繋げている冬斗さんも嬉しそうだ。


「ってことがあったの」

「ふふっ……ふふふ……」


 廊下の方から話声と笑い声が聞こえてきた。

 二人とも風呂から出たようだ。


「あ、康ちゃんお風呂どうぞ~!」

「は~い」

「ふふっ……」

「?」


 麗がなにやらツボっている。

 一体琴羽からどんな話を聞いたのだろうか。

 何を聞かされてあんなに笑っているのかちょっと気になった。


「さてと」


 荷物を準備してから風呂に向かう。

 ここまでくるとさすがに慣れてきたもんで……。

 というわけにもいかず。

 さすがにドキドキはする。

 麗がいつも使ってるんだなぁとか考えちゃう。どうしても。


 洗面所兼脱衣所の部屋の扉を開けようとした時、琴羽が階段を下りてきた。

 髪もまだ乾ききっていない。

 どうしたんだろうか。


 俺と目が合うが、琴羽は何も言おうとしない。


「どうした?」

「お風呂あがったらさ、ららちゃんの部屋にきて?」

「いいけど……」

「お願いね。それじゃ」


 なんだか琴羽らしくもない。


 気になるからなるべく急いで上がろう。

 シャワーで体を洗い流して、頭を洗って体を洗って顔を洗って。

 俺はあまり湯船に長いこと浸からないので、それほど時間も掛からずに風呂を出た。


 着替えてタオルを首に掛けたまま廊下に出る。

 俺はそのまま麗の部屋に向かった。


 ノックをすると、二人の話し声が一旦止まって返事が返ってきた。

 部屋に入ると、テーブルの方に琴羽がいて、ベッドに麗が座っている。

 琴羽の対面に座ってみるも、誰も何も言わない。


「それで、どうしたんだ?」

「…………」


 覚悟が決まったら話すとかそんなことを言われていたことが頭を過ってしまい、気になって仕方ない。


「琴羽?」


 琴羽が返事をしないので、名前を呼んでみる。

 琴羽は言いづらそうにしているだけだ。

 一体何を言おうとしているのか。


「ことちゃん」

「わかってる……」


 麗が呼びかけると、琴羽は頷いた。

 そして、一度深呼吸をする。


 そして、覚悟を決めたようにこう言った。


「あのね、相談があるの……」

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