第13話 「う~ん……」 心臓が激しく脈を打ち始めた。
雪に気をつけながらゆっくりと歩き、
時刻はもう十七時頃。
すっかり暗くなってはいるものの、積もった雪が街灯に照れされて道は明るい。
そんな雪はもう結構積もっており、歩くとサクサク音がする。
麗の足は折れてはおらず、挫いただけで二週間もすれば治ると言われた。
一応保健室の先生の言ったいたことと同じだった。
今思い出してみれば、先生にも一応病院に行った方がいいかもと言われた気がする。
安心して忘れてしまっていたのかもしれない。
病院でも湿布を貼ってもらい、ついでに湿布も買ってきた。
「折れてなくて安心したよ」
「そうね~。たしかに一応病院に行くっていうのは大事かもって思ったわ」
「それは俺も」
怪我とかをしたらちゃんと一回診てもらった方がいいんだな。
万が一ということもあるし。
悪化しちゃって元に戻らないなんてなったら大変だ。
「「ただいま」」
麗の家に辿り着く。
家に入っていくと、リビングでは
「おかえりなさい、麗お姉さま、
「おかえりなさい!」
「おかえりぃ」
どうやら
それはそうだな。バイトが十七時までだし。
「大丈夫だった?」
「大丈夫よ。折れてないし、二週間もすれば治るって」
「よかった!」
七海ちゃんは安心したように微笑んだ。
心優もほっと一息ついている。
「急に病院行くなんて言うからびっくりしちゃったよ」
「ごめんごめん。一応よ、ね?」
「そうそう。専門の人に診てもらうのがやっぱりいいかなってさ」
みんなも一応こういうことがあったら診てもらった方がいいとわかってもらいたい。
「康太、部屋に連れてってくれる?」
「わかった」
荷物とかがあるので、とりあえず麗の部屋に行く。
麗のことを手伝い、二人で座った。
麗はベッドで、俺はテーブルの近くだ。
「ことちゃんって何時まで?」
「十七時までだな」
「それじゃあまだね」
「のんびりしとくか?」
「そうしようかな」
そう言うと、麗はベッドに寝転んだ。
が、すぐに起き上がる。
「寝転んだら寝ちゃいそうだから座ってる」
「ただ座ってるのは大変だろ~」
「じゃあ何か面白いことしてよ」
「急な無茶振りだなぁ……」
少しニヤニヤしながら言われているので、冗談半分だということはわかるのだが、期待もされているようだ。
持ちギャグとかないんだけどなぁ……。
物まねが得意とか、そんなこともないし。
う~ん……。
「そもそも面白いことしてって振られてる時点で負けだと思わないか?」
「まぁハードルは高いわよね。でも、その分どっちに転んでもだいたい盛り上がるものよ」
「俺と麗の二人きりなのに?」
「ダメだったら慰めてあげるわ」
「悲しすぎる」
そんなことはあまりにも悲しすぎる。
なんでそんな悲しい道を自ら歩まなければいけないのだろうか。
「それじゃあ少しゲームでもどうだ?」
「いいわよ? 何するの?」
「これから夕飯まで英語禁止とか」
「いいわね。それじゃあ先に行った方は罰ゲームね」
「いいぞ」
「それじゃあ始めね」
普通に雑談をしているだけでもなんだかんだ英語は出てきてしまうものだ。
何かの略語とかにも英語を使ったりしているものだし、生活している上で英語は意外と多く存在している。
「それじゃあ罰ゲ……罰を決めないか?」
「今何か言おうとしたわね?」
「言ってないからセー……大丈夫だ」
「ふふっ。先が思いやられるわね」
危ねぇ……。
こんな感じで会話にも挟んだりするもんだからついつい言ってしまいそうになる。
「で、どうする?」
「それは内緒にしておきましょう。軽めのものでお願いね」
「わかった」
ならば罰を考えながら楽しく遊ばせてもらおう。
でも、麗って意外とこういうの得意そうだよなぁ。
自分が負けないようにすることだけ考えておこう。
「…………」
「…………」
「こういう時って急に話題が出なくなるわよね」
「わかるわかる。でも、案外自分から話し始めた方が言わなかったりするんだよな」
「そうそう」
言い出しっぺが負けるとか、そういうジンクスみたいな感じのやつ。
先に何か言ったら負けというこの手のゲームでは、話題を先に振った方が案外負けなかったりする。
「俺たち二人だけだと進まないから、みんなのとこ行くか?」
「いいわね。そうしましょう」
心優と七海ちゃんと楓ちゃんと話してる時も英語を言ったらアウト。
ちゃんと言っていたことを俺が気づけばいいわけだ。
俺も言わないように気をつけないといけない。
二人でリビングに戻って椅子に座る。
心優と七海ちゃんはキッチンで料理中。楓ちゃんはまだマジックを練習していた。
帰ってきた時と変わらない光景だ。
「あれ? 降りてきたの?」
「二人でのんびりしててもよかったのにぃ」
七海ちゃんと心優はそう言った。
二人でのんびりするのはちゃんとやってるし、俺も麗もみんながいるところの方が好きなんだよな。
どっちかというと、こういうみんながいるところでまったりしてる方がいい。
「ここでまったりするわ」
「俺も」
特に何をするわけでもなくそのまま座っている。
楓ちゃんのマジックの種を見るわけにはいかないし。
「麗お姉さま、康太お兄さま、見てください」
と思っていたら、楓ちゃんがマジックの道具を持ってこちらにやってきた。
「どうしたの?」
「ここに何の変哲もないトランプがあります」
「うん」
「確認してもらって大丈夫です」
そう言いながら楓ちゃんはこちらにトランプを渡してきた。
改めて楓ちゃんを見ると、好きなように見てくださいと表情が物語っていた。
それならばと、俺は遠慮なく調べさせてもらう。
特に変なところはないと思う。
麗にも渡して確認してもらったが、麗も何も気づくところはなかったようだ。
トランプを楓ちゃんに返す。
「それでは、この中から好きなカードを一枚選んで、こちらに見えないように確認してください。楓は後ろを向きますので」
「わかった」
楓ちゃんがカードを送っていくのを途中で止めて一枚カードを選んだ。
そのカードはハートの五だった。
麗にも見せると、麗は頷いた。
「もういいよ」
「わかりました。それではそのカードをもらいます」
カードを受け取った楓ちゃんは、だいたい真ん中位にそのカードを入れた。
そして上から三枚ほど引っ繰り返す。
「ここに魔法をかけます」
「ほう」
「すると……」
「「え……」」
全部表になってる……!?
さっき上から三枚取った時はたしかに全部裏だったはず……だよな?
いつの間にっていうか……どうやって?
「この中にある、一つだけ裏のカードが……」
「…………」
「選ばれたカード。ハートの五です」
「す、すご……」
「楓、いつの間に……」
市販のマジック用のやつで練習してるかと思ってたけどこれガチのやつやん……。
一昨日くらいに見た市販のマジックセットはなんだったのか。
「えっへん」
俺と麗は盛大な拍手を送った。
これはかなりレベルの高いマジックだったと思う。
「いや、本当にすごいマジッ……。びっくりしたよ」
「? どうかしましたか?」
「あ~……。実は麗と勝負をしてて……」
「勝負ですか?」
俺は麗と英語を言ったら負けというゲームをしていることを説明した。
「なるほど。それでは楓たちは審判をしておきます」
「アタシたちも聞いちゃったし~」
キッチンからは七海ちゃんと心優も顔を覗かせた。
これならどちらかが聞き逃しても誰かしら聞いているだろう。
燃えてきた。
「ごめんくださ~い」
玄関の扉が開いた音と琴羽の声が聞こえる。
どうやら帰ってきたようだ。
琴羽はすぐにリビングに顔を出した。
「おかえりことちゃん」
麗に続いてみんなおかえりと言った。
「ただいまっ」
琴羽は嬉しそうに笑顔で答えた。
琴羽のテンションが一気に上がったのがわかった。
「琴羽さん、ご飯までまだ掛かりますけどどうしますか?」
「それなら手伝うよ?」
「バイト終わりなんですから休んでくださいよ~」
「え~でも~」
「心優っちもいますから!」
「そう?」
そうは言われたものの、琴羽はその場であわあわしている。
「ことちゃんこっち座って」
「あ、うん」
見かねた麗が反対側の椅子を指した。
琴羽は素直にそちらに腰を下ろした。
「今ね、康太とちょっとしたゲ……対決をしてるの」
「対決?」
「英語を言ったら負けってやつをしてるんだよ」
「面白そうだね!」
そのまま口を滑らせて負けてくれればよかったのに、麗はうまく回避したな。
そのおかげで俺もゲームって言わなくて済んだけど。
今の話を聞いた琴羽は新しいおもちゃをもらった子供のようにニコニコしている。
なんか嫌な予感がする。
「罰ゲームは決めてるの?」
「決着が着いたら言うことにしてるけど、一応ありかな」
「じゃあまだお互いはどんな罰ゲームにするかは言ってないんだね?」
「そうなるわね」
まぁまだ思いついてないんだけど……。
麗は何か思いついたのかな?
「じゃあ私にだけこっそり教えてよ」
「まだ思いついてないのよね」
「あ、俺も」
どうやら麗もまだ思いついてなかったみたいだ。
それを聞いた琴羽はさらにニコニコし始める。
嫌な予感は的中しそうだ。
「じゃあ私がそれぞれ決めてあげる!」
「えぇ……」「う~ん……」
なんかそう言われるような気はしたけど……。
麗も嫌な予感がしていたのか、すごく微妙な表情をしている。
一方琴羽はもうその気になっているようで……。
「それじゃあね~」
なんて言っている。
嫌な予感はさらに募るばかりだ……。
いや、もう予感じゃなくて実感かもしれない。
「う~ん……」
どんどん心臓が激しく脈を打ち始める。
琴羽だからあまり過激な選択はしないだろうが、ギリギリを攻めてくるような、そんな気がして仕方がない。
もしそうなった場合は、相当恥ずかしい思いをしながら実行することになってしまうこと間違いなしだ。
ま、まぁ……麗とすることだろうから大半は嬉しい気持ちで埋まるだろうけど……?
そ、それはともかく、決めるなら早く決めて言って欲しい。
じゃないと落ち着かない。
「決めた!」
ゴクリと俺の喉が鳴った。
「ららちゃんが負けたら、
「膝枕?」「頭撫で撫で?」
「そう!」
えっと……。
つまり、俺が勝てば膝枕をしてもらえて、麗が勝てば俺がぎゅっと抱きしめながら頭を撫でると。
どっちもご褒美なのでは……?
「いいのか? どっちもご褒美だぞ」
「ららちゃん、だめ?」
「い、いいわよ」
麗は少し照れてしまっているようだが、乗り気になったようだ。
ぎゅってして撫で撫でしてほしいのかな。
俺としてはどっちも捨てがたいんだけどなぁ。
「あんたわざと負けようとしてる?」
「いや、どうやったら両方できるか考えてる」
「あんたねぇ……」
どうすればいいんだろうな……。
「そうか。罰とか関係なくやればいいのか」
「こういう時ばっかり……」
麗は恥ずかしそうにしているが、もはや俺には関係ない。
俺は欲望に正直な男なんだ。
たぶん。
「いいねいいね~。盛り上がってきたね~」
琴羽は先にも増してニヤニヤとしている。
さて、ゲームの始まりだ!
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