第11話 「もう夫婦みたいだね~」 すごく意識してしまう。

 昼休み、俺は図書室にやってきていた。

 九条くじょうに会うためということはなく、単にどんな本があるのか見てみたかったからだ。


 本屋で探すのもありだけど、ここなら無料で借りられるし、一番近い。

 図書室の扉を開くと、前に来た時と同じメンバーがいた。


 カウンターには相変わらず二ノにのせさんがいるので、とりあえず二ノ瀬さんに聞いてみることにしよう。


「二ノ瀬さん、サスペンスというか、謎解き関連の本ってどこにある?」

「月曜日以来ですね、神城かみしろさん……。てっきりもう来ないかと思ってました……」

「そ、そんなことはないよ」


 正直、うららが本を読んだりしていなかったら本に興味を持たなかっただろう。

 そうしたら当然ここに来ることもない。

 二ノ瀬さんの言うことは、当たっていた可能性の方が高い。


「こっちです……」


 二ノ瀬さんは相変わらず視線を合わせてはくれず、俯き気味に歩く。


 廊下側の壁際に案内されると、ここからあっちのところまでだと説明してくれた。


「あとはここにも少しだけ混じってます……」

「わかった、ありがとう」


 お礼を言うと、二ノ瀬さんはペコリと一礼してカウンターに戻った。


 本棚の方を見ると、たしかにサスペンスとか謎解きっぽいタイトルが多く並んでいた。

 中にはそうは見えないタイトルの本もあるが、ジャンル的にはここなのだろう。

 どれが面白そうか、パッとタイトルだけ眺めてみるか。


「う~ん……」


 麗が読んでいたのがたまたま謎解き物だったかつ俺の好みに合っていただけで、これだけで自分好みの作品を探し出すのは素人には無理かもしれない。

 タイトルだけでピンと来るものはなさそうだ。


「やぁ神城くん」

「九条か。どうかしたか?」

「いや、本に興味を持ったみたいだから、どんなものを読んでいるのかと思ってね」

「まだ読み終わってすらないけど、謎解き物だよ」

「ほほう。どんなものだい?」


 俺はその作品のタイトルを九条に伝えた。


「聞いたことがあるね。面白いと評判らしい」

「そうだったのか」

「またどうして読もうと思ったんだい?」

「麗が読んでたのがそれの二巻でさ。少し気になったから一巻を借りたんだよ。そしたらハマっちゃって」

「なるほどそれで。その本が好きなら、こっちの島にあるこれとかどうだい?」


 そうして九条は、二ノ瀬さんがこっちにも少しあると言っていた方から一冊本を取った。


「珈琲店での物語か」

「これもお客さんの悩みを解決するお話だよ」

「なるほどな。今読んでいるのが読み終わったら借りることにするよ。ありがとう」

「お役に立ててなによりだよ」


 前髪で隠れていてよくわからないけど、爽やかな笑顔だと思った。


「それじゃあ麗と琴羽ことはが待ってるだろうから教室に戻るよ」

「そういえば神城くんは、いつも藍那あいなさんと藤島ふじしまさんとお昼を食べてるのかい?」

「まぁだいたいはそうだな」


 たまに千垣ちがきのところに行ってたりするけど。

 だいたいは俺と麗と琴羽の三人だ。


「そうなんだね。楽しそうで羨ましいよ」

「九条はどうしてるんだ?」

「僕はいつも適当にパンを食べてるんだ。早く本が読みたいからね」

「そうなのか」


 俺が図書室に来たらもういたからな。

 たしかに結構早い段階で来ているのかもしれない。


 そうしたら二ノ瀬さんもか?


「わかってるけど、嫌がるんじゃないかな……」

「でもでも、応援したいもん」

紗夜さよちゃんに言ってみようか……」

「え~断るに決まってるよ~……」


 二ノ瀬さんの方を見てみたら、なにやら女の子と話していた。

 あの子もどこかで見たことあるな……。


 あ、朝いつも千垣たちと一緒にいる人だ。


「あ、神城さん……。お目当ての本は見つかりましたか……?」

「九条に教えてもらった本を今度借りに来るよ」

「なになに、お友達?」

「うん……。紗夜ちゃんのお友達……」

「さよちーの?」


 その女の子がじっと俺のことを見てくる。

 すごく整った顔立ちで、とてもかわいらしい。

 綺麗な茶髪のセミロングで、前髪に太陽をモチーフにしたヘアピンをしている。


 身長は二ノ瀬さんや千垣よりも少し高いみたいだ。

 胸はそこそこあり、近づかれるといい香りがした。


「あたしは小城おぎ真昼まひる。あなたは?」

「俺は神城康太こうただ」

「康太くんね。さよちーとともちーとはどういう関係なの?」

「ちょっと真昼ちゃん……!」


 千垣と二ノ瀬さんとどういう関係……。


「千垣とは普通に友達で、二ノ瀬さんは最近知り合ったんだ」

「へ~……。それじゃあ、さよちーのことは――」

「真昼ちゃん、そこまでだよ……」

「むぐっ」


 何か言おうとした小城さんだったが、二ノ瀬さんに口を塞がれてしまった。

 二ノ瀬さん、意外と強引だな。


「小城さんって、千垣とよく一緒に登校してるよね」

「あれ、知ってたんだ~?」

「一応見たことくらいは」

「よく見てるんだね~」

「千垣も目立つからね」

「も?」


 あ、つい麗のことを思い出してしまった。


「神城くんは、藍那麗っていう人の彼氏さんなんだよ……」

「あ、あの金髪の綺麗な子!」


 麗のことを知っているようだ。

 それはそうか。


 というか、二ノ瀬さん、俺と麗が付き合ってるの知ってるんだ。


「二ノ瀬さん、よく知ってたね」

「朝からイチャイチャしてるって有名ですから……」


 今、もしかして冷たい目で見られた?

 やっとこっちを見てくれたと思ったこれ……?

 辛い……。


「なるほどね~。まぁいいや~。じゃあともちーまた後でね~」

「うん……」


 なんだか嵐のような人だな……。


「真昼ちゃんは元気な子なんです……。あまり気にしないでください……」

「そ、そうか……」

「それじゃあ、またのご利用お待ちしてます……」

「うん、またね」


 今回も二ノ瀬さんはペコリと一礼した。

 真面目なんだろうなぁ……。



※※※



 放課後。

 俺と麗と琴羽の三人で、踊咲高校前おどりさきこうこうまえ駅まで歩く。


 天気は変わらず曇っていて、明日は雪という予報は当たるんじゃないかと思っている。


「それじゃあ私は一回荷物取りに行くね」

「わかったわ」


 琴羽は今日と明日泊まって日曜の夕方に帰るらしい。

 なんにせよ、琴羽の荷物は何一つないので、一度帰らなければいけない。


「でも明日はバイトがあるんだよねぇ」

「俺もだ」


 俺と琴羽で時間が違うのはいいのか悪いのか。

 でも明日は二人とも短いからそこはよかった。


 もしかしたら、店長が仕組んだのかもしれない。


「何時?」

「俺は午前だな」

「私は午後から夕方まで~」

「バラバラなのね」

「本当は休みにしたいところなんだけどな」

「ダメよ。あたしのためにそういうことするのはダメ」

「とのことなんだよ」

「もう夫婦みたいだね~」


 今そんなことを言われるとすごく意識してしまう。

 なんていったってほぼ同棲みたいな状態なんだから。


 麗を見れば麗も顔を赤くしていた。

 何を想像しているのやら……。


 駅のホームに入って電車を待つ。

 しばらく待っていると、時間通りに電車がやってきた。

 それに乗り込んで、四人席に座る。


 俺が麗の隣だ。


「そういえば、九条ってなんでバイト始めたんだろうな」

「誰?」

「同級生だよ。一組の生徒」

「同じとこにバイト来たの?」

「そうそう」


 そういえば麗は九条のことを知らないのか。


「私が二人を避けてた時があったでしょ? あの時に知り合ったの」

「そうだったの」

「俺はバイトしてたら客として九条が来て、そこで知り合った」

「……? それじゃあ向こうは康太のこと知ってたってこと?」

「ああそれはキャンプファイヤーの時のこととか有名らしくて」

「あー……」


 俺もそうだったが、あれで俺と麗のことを知っている人が多いというのは微妙な感じだ。

 俺たちの方は知らないんだからなおさら……。


「あ、着いたから後でね」

「あ、うん。気をつけてね」

「後でな~」


 ちょうど咲奈さきな駅に着いたので、琴羽と一旦別れる。

 残った俺と麗はそのまま踊姫おどりひめ駅に向かう。


「その九条って人は男の子?」

「うん? そうだけどどうかしたか?」

「なるほどね」


 そんなことを聞いてどうするつもりなのだろうか。


「あたしが思うに……。いや、やっぱりなんでもない」

「なんだよ気になるなぁ」

「これは内緒よ」


 麗がそう言うってことは、俺に聞かせても仕方のないことなんだろうな。


 何気ない雑談を続けて数十分。

 踊姫駅に辿り着いた。


 麗に肩を貸しながら家までゆっくり歩いていく。

 帰る途中で買い物帰りの七海ちゃんと会った。

 半分荷物をもらって麗の家に着いた。


「康太さん、ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 荷物を七海ちゃんに任せて麗の部屋に向かう。

 麗が扉を開け、一緒に中に入った。


「ありがとう」

「どういたしまして」

「着替えちゃうわね」

「手伝おうか?」

「じゃあお願いしようかしら?」

「ごめんなさい」

「ふふふ」


 俺にそんな度胸はありません。


 そのうちできるようになってやるから覚悟して待っておくといい。

 俺は先に部屋を出る。


 キッチンの方では、七海ちゃんが料理に取り掛かっていた。


「今日はカレーを作ってますよ!」

「お、いいね」


 夕方から冷え込むらしいからあったかいカレーは嬉しいな。


「何か手伝おうか?」

「あ、心優っちが来るまでお願いしていいですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます!」


 野菜を切るのをお願いされたのでサッと切っていく。

 これくらいならお手の物だ。


「さすがですねぇ……」

「ありがと」


 七海ちゃんは米を研ぎながら感心したように頷いた。


「七海ちゃんもすごく慣れてるよね」

「本当ですか?」

「本当本当。俺も見習わないとな」

「アタシの方もですよ!」


 米を研ぎ終えた七海ちゃんと一緒に野菜を切っていく。

 二人でやるとあっという間に終わってしまった。


「ありがとうございました!」

「もういいの?」

「はい! あとは心優っちとやります! それに、康太さんはお姉ちゃんと一緒にいないと!」

「わかった」


 ほらほら早くと背中をぐいぐい押されながらキッチンから出る。

 その足でリビングを出て二階に上がった。


 麗の部屋の前でノックをする。


「康太?」

「うん。入っても大丈夫?」

「いいわよ」


 部屋に入ると制服からゆる~い部屋着に着替えた麗がベッドにちょこんと座っていた。


「あれ? まだ着替えてないの?」

「あ、忘れてた」


 やっぱり自分の家じゃないからだろうか。

 制服から着替えてなかった。


「七海の手伝いでもしてたんでしょ~」

「よくわかったな」

「だって康太だもん」


 お見通しかぁ。


「下、降りるか?」

「ううん。ちょっとここでゆっくりしてようかな」

「わかった。とりあえず俺は着替えてくるな」

「わかったわ」


 部屋を出て一階のリビングに戻る。

 荷物から着替えを取り出して、洗面所を借りて着替えた。


 洗濯物は一旦俺の荷物の方に持っていく。

 さすがに一緒にするわけにはいかないので、後で洗わせてもらっている。

 ……俺も恥ずかしいし。


 そして麗の部屋に戻ってきた。


「どうぞ~」


 部屋に入ると、今度は本を読みながらベッドに寝転んでいた。

 まったりしてるな~。


 特に何か言ってくる感じもしないので、俺も適当に寛がせてもらう。

 この前から借りている本を読んでゴロゴロする。


 やっぱりこの本面白いな。

 終わったら二巻も貸してくれるかな……。


「なぁ麗、読み終わったら二巻も貸してくれるか?」

「もちろんいいわよ」

「ありがとう」

「すっかりハマったのね」

「なんで今まで読まなかったのかと思うくらいだ」


 自分でもびっくりするくらいにドハマりしている。

 俺ってこんなに読書が好きだったのかと。


 そうしていると、部屋がノックされた。


「琴羽で~す」

「は~い。いらっしゃい」

「あ、康ちゃんが本読んでる!」

「麗のおすすめなんだよ」

「いいなぁ。私も今度読ませて!」

「いいわよ」


 さっそく賑やかになった。

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