第7話 「やっぱり仲良しだねぇ」 ニコニコと嬉しそうに言った。

「それじゃあ、お大事にしつつ楽しんでね~」

「ことちゃんまたね~」

「バイト頑張れよ」

「うん!」


 咲奈さきな駅に着いたので今日は琴羽ことはとはお別れだ。

 俺は泊まりの道具も全部うららの家に置いてあるのでこのまま直行する。


 明日は成人の日で祝日なので、特に気にすることもない。

 初日に選んで正解だったかもしれない。


「心優ちゃんは?」

「この電車に乗るって言ってたけど……。車両も言ったし」

「どうしたんだろうね?」

「琴羽としゃべってるんじゃないか?」

「あ~なるほど」


 心優は泊まりの道具をまだ持っていってないので、一度家に帰ってから向かうことになっていた。

 タイミング的に俺たちの今乗っている電車に乗ることになるのだが、まだ来ていない。

 ほかの車両に乗った可能性もあるが、出発まで時間がある。

 たぶんホームに降りてきた琴羽に会ったから話してるんじゃないかと思う。


 しばらくして電車が発車する時間が近づいてきたところで、心優がやってきた。

 俺たちに気づいて心優がこちらにやってくる。


「こんにちはぁ。麗さん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫よ。ありがとね心優ちゃん」

「いえいえ全然です!」


 心優は少し重そうにしながら荷物を持っていた。

 悪いけど、麗に肩を貸さないといけないので手伝うことはできないが……。


「明日は休みだけど泊まりに来てよかったの?」

ななちゃんと遊びます!」

「あ、そういえばそっか」

「おい……」

「冗談よ」


 心優と七海ちゃんは学校は違えど同い年。

 クリスマスパーティーの時から……いや、その前からか? いつの間にかさらに仲も良くなったようで、俺としても嬉しい話だ。


 それにしても……。


「麗も変わったよな~」

「そう?」


 麗の隣では心優がくすくすと笑っている。

 自分が元気だということを心優にも簡単に伝えるためにあんなことを言ったのだろう。


「出会った時に比べると」

「あれはあたしじゃないあたしなの」

「いや、怖いわ」


 まさかの二重人格だったのか。


「お兄ちゃんと麗さんは仲良しですねぇ」

「そうだろ?」

「何言ってんのよ」

「あたっ」


 ふとももをぺしっと叩かれた。

 事実なのになぁ。


 そのまま電車に揺られること数十分。

 踊姫駅に着いた俺たちは、麗に合わせてゆっくりと歩き始めた。


「心優ちゃん、荷物重いでしょ? 無理に手伝わなくていいわよ? 康太こうたがついてるし……」

「それなら荷物持ちます! お兄ちゃん、荷物貸してぇ」

「大丈夫か?」

「大丈夫だってぇ」


 麗に肩を貸しながら、麗の鞄と俺の鞄、両方を持っていたので正直ちょっと辛かった。

 それが無くなった今、なんだか体が軽くなった気分になる。


「麗、おんぶしようか?」

「えっ!?」

「嫌ならいいけど」

「それはちょっと……恥ずかしいかも……」


 荷物が無くなった今ならおんぶも抱っこも余裕だ。

 この方が麗も楽だろうと思ったけど、心に負担が掛かるらしい。

 いい意味で。


 麗の反応がかわいかったので、もう少し攻めてみることにしよう。


「それともお姫様抱っこがいいか?」

「っ!」


 麗がぴくっと反応したのがわかる。

 ちらっと横目で見てみると、頬が赤くなっている。


 ……想像してるな?


「なんて、冗談――」

「じゃあ、お願いします……」

「はい?」


 今、お願いしますって言ったか?


「……恥ずかしいけど、憧れはあるもん。ちょっとだけしてほしいなって……。だめ……?」

「あ、いや……えっと……」


 返事が想像と違ったのですごく焦ってしまう。

 そんな上目遣いでこちらを見られると、とても断りづらくて……。


「お兄ちゃん? 自分の言ったことには責任を持たないとぉ」

「……わかったよ」


 心優にまでそう言われたら仕方ない。

 ちょっとニヤニヤしてるのが気になるけど、たしかに俺から言い出したことだ。

 ここで断るなんてできない。


「じゃ、じゃあ、手回すぞ?」

「うん……」


 麗は一度、心優の肩に手を置いて俺から離れる。

 そして俺は、麗をお姫様抱っこするために腰を落とした。


 膝裏と背中に手を回して、麗を持ち上げる。


「わっ!」


 それと同時に麗が驚いた声を上げた。


「重くない……?」

「全然」


 これは本当だ。

 まぁ嘘でも言ったけど、重くなんてなかった。


 ただまぁ、その……。

 体のほぼ全部が麗と触れていて思うところはある。


「なんか、すごいドキドキする……」

「それは俺も同じなんだけど……」


 実の妹に見守られながら、彼女をお姫様抱っこする。

 なんともシュールな光景で、気恥ずかしい。


「や、やっぱり降ろしてもらっていい……?」

「お、おう……」


 麗の足に最大限気を使いながらゆっくりと降ろす。


 麗の顔が真っ赤になっているのが横目に見える。

 それと同時に、自分の顔も真っ赤だということを感じた。


「やっぱり仲良しだねぇ」


 心優がニコニコと嬉しそうにしながら言っているが、俺たちは麗の家に着くまで無言だった。



※※※



「おかえりなさいませ」


 玄関の扉を開けると、すぐに足音が聞こえてきて、かえでちゃんが出てきた。

 少し遅れて七海ななみちゃんも玄関までやってきた。


「おかえり! 康太さん、心優っちいらっしゃい!」

「七ちゃん久しぶり~」


 毎日のようにメッセージでやりとりはしているらしいけど、直接会うのは約二週間ぶりくらいだろうか。

 二人とも嬉しそうにしている。

 本当に仲良くなったもんだ。


「麗お姉さま、大丈夫ですか?」

「うん、康太のおかげで問題ないわ」

「さすが康太お兄さまです」


 楓ちゃんが親指を立ててくる。

 表情はあまり変わってないが、謎のドヤ顔っぽいので、俺もドヤ顔とグッドを返しておいた。


「あ、そうだ康太さん」

「どうしたの?」


 心優と話していた七海ちゃんが、思い出したように言った。


「今日と明日の分の買い物したいんですけど、ついてきてくれますか?」

「それはもちろん」

「あ、わたしも一緒に行きたいなぁ」

「では楓はお留守番します」

「楓も行ってもいいのよ?」

「麗お姉さまを一人にはできません」


 俺と心優もいる分、買い物は多くなるだろうから、心優と七海ちゃんだけに行かせるわけにはいかない。だからといってみんなで行こうものなら麗は不自由だし……。

 しかし楓ちゃんだけ残るのも……。


「大丈夫よ、そんな何日もいないわけじゃないんだし」

「でもなぁ」

「心配してくれるのは嬉しいけど、変な無茶はしないから大丈夫よ。それで悪化したらもっと迷惑掛けるのは目に見えてるし」

「……わかった」


 買い物と言っても長くても一時間くらいしか掛からないだろうし、過保護過ぎたかもしれない。

 それにまぁ、楓ちゃんがいれば大丈夫か。


「じゃあ七海ちゃん、心優、行こうか」

「はい!」「はぁい」


 三人で行ってきますと言って家から出る。

 仲良く話す二人を後ろから見守りながらショッピングモールに辿り着く。


「七海ちゃん、何を作るかは決めてたりする?」

「いえ、特には決めてないです! ただ、六人いますからねぇ~」

「今日はハンバーグとかどぉ?」

「いいね~!」


 心優と七海ちゃんが二人でいれば話が進んで行く。

 なんだか二人で作りだしそうな雰囲気だ。


 というか、二人で作る気満々のようだ。


 ショッピングモール内のスーパーで、食材を二人で確認しながら歩いていく。

 時々俺も会話に参加するけど、二人になら安心して任せることができた。


「荷物ありがとうございます!」

「いやいや。それにしても、さすが麗の妹だね。家事はばっちりだ」

「そ、そんなことないですよ……」


 少し照れている様子は、麗とはまた違っていた。


「それじゃ、麗と楓ちゃんも待ってるし、帰ろうか」

「はい!」「そうだねぇ」



※※※



 夕飯時、結局本当に心優と七海ちゃんが二人で作ってくれている。

 その間、俺は楓ちゃんの宿題を見て、麗は本を読んでいた。


「できました」

「それじゃあ確認するね」

「お願いします」


 答えと楓ちゃんの解答を交互に見ながら丸付けをしていく。


「うん。全問正解だ」

「やりました」


 渾身のドヤ顔だ。

 しかし、例の如く楓ちゃんは俺の膝の上にいるので、そのドヤ顔はよく見えない。


 俺たちの話を聞いていたのか、麗が本をパタンと閉じてこちらを見た。


「おつかれさま、楓」

「はい」

「康太、ありがと」

「いいや。麗、飲み物とか大丈夫か?」

「せっかくだからもらおうかしら」

「楓も飲みます」


 楓ちゃんと一緒に立ち上がってキッチンに向かう。

 キッチンでは心優と七海ちゃんがハンバーグを作っている。


 今はちょうど形を作っているところらしい。

 冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップを二つ手に取る。

 楓ちゃんは、自分のコップを手に持った。


「はい、麗」

「ありがと」


 コップに麦茶を注いだものを渡す。


「手伝おうかとも思ったけど、息ぴったりだからかえって邪魔になるって思っちゃったよ」

「いつの間にか仲良くなってたわよね」

「な」


 二人の仲の進展に、麗も驚いているようだ。


「あ、スマホ取ってくれる?」

「はいよ」


 麗のスマホが鳴ったので、麗にスマホを渡す。

 誰かからメッセージがきたようで、それを確認した後、こちらにスマホを差し出しながら言った。


「お父さんちょっと遅くなるって」

「そうか」


 ずっと気になっていたこと。

 普段はあと三十分くらいで帰ってくるらしいのだが、今日は遅くなるらしい。

 猶予が伸びただけで、思い出したら心臓がバクバクと鳴り始めた。


「緊張する……」

「大丈夫だって」


 麗はくすくすと笑いながら言う。


「楓もついてます」


 楓ちゃんも胸を張って言う。

 そうは言ってもやっぱり緊張するものはするよ……。


「楓ちゃん、少しゲームでもする?」

「いいんですか!?」

「もちろん」

「やりましたっ」


 楓ちゃんは喜んでリビングを出て行った。

 楓ちゃんと遊んだりしている方が、緊張を忘れられるってものさ。


「楓ちゃん、何をしようとしてるんだろう?」

「トランプじゃないかしら。なんか最近ババ抜きにハマったらしいわよ」

「なぜ……」


 ババ抜きにハマるって初めて聞いたぞ……。


「泊まりの時やったのが楽しかったのかもね」

「ああ、そういえばやったね」


 それにしてもハマるって……。

 なんかおもしろい。


「康太の笑いのツボがわからなくなりそうだわ」

「それは俺も」

「お待たせしました」


 楓ちゃんは手にトランプを持っていた。

 麗の言った通りだったようだ。

 トランプを配った楓ちゃんは、ババ抜きをしたいと言ってきた。


 麗も入れた三人で、しばらくババ抜きをしていると、やがて心優と七海ちゃんが料理を運んできた。

 みんなで仲良くご飯を食べ、やがて忘れていた時間がやってきた。


「ただいま」

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