猫ノ山寧々子はネコになる
ひのはら
第1話
姿形は人間にそっくりだと言うのに、人間の血液を主食にする生き物。
生きるのに血液が必要なこと以外、人間とは何も大差はない。
人間のようで、人間では無い神聖な存在。
それが吸血鬼だ。
数は全人類の1割にも満たない。
何百年も前に、増え続ける吸血鬼を恐れた人間が大虐殺を行ったためだ。
そのため現在残っている吸血鬼は最盛期に比べると0.0何%の割合にしか満たない。
日常生活では出会えたらラッキー程度の、まるで妖精のような存在だ。
この世に存在するのは人間と、吸血鬼という種族。
この2種族だけであると、多くの人類はそう思い込んでいるのだ。
自室の窓から、下校する学生の姿をぼんやりと眺めていた。
時刻は夕方の4時。楽しげに笑い合いながら歩いている生徒たちは、皆、
制服を着て、キラキラとしたオーラを纏っている見知らぬ高校生の姿を見ていると、自分との差に気分が落ち込んでしまいそうになる。
現実から目を背けるように、寧々子は視線を窓の外からタブレットへ映していた。
「集中できないや…」
イヤホンから流れる教師の声は、耳から通り抜けていくばかりでちっとも集中できない。
全日制とは違って、通信制の高校に通っている寧々子は急いで単位を習得する必要もないのだ。
体の力を抜いて項垂れていれば、カリカリとした音が聞こえて顔を上げる。
予想通り、窓の外には野良猫である三毛猫が窓を引っ掻いている姿があった。
「どうしたの?」
寧々子の言葉を聞いて、三毛猫が軽くお辞儀をするように頭を下げてみせる。
『この前子供が生まれたので、ご挨拶をと思いまして』
もう少し大きくなったら子猫も連れて挨拶にくると言い残して、三毛猫は颯爽とベランダを飛び出していった。
その丸い背中に手を振りながら、そっと扉を閉める。
「律儀だな……」
寧々子こと、猫ノ
自らが猫の姿に変身して、おまけに猫と会話をすることが出来るのだ。
それは寧々子に限った話ではなくて、猫族の者であれば皆が使える能力。
猫ノ山家以外にも、猫に関わる能力を備えた家系は幾つか存在する。
この世の中は人間と吸血鬼が混在した世界だと、一般人は思っているが実際はそうではない。
猫族に犬族、他にも寧々子が把握していないだけで沢山の種族が存在する。
「……他にどんな種族があるんだろ」
かつて、吸血鬼は人間に大殺略された過去を持つ。
凄まじいスピードで数を増やす吸血鬼の台頭を恐れた人間は、残虐な方法で次々と吸血鬼を殺戮したのだ。
それを見ていた他の種族は、次は自分の番かと怯えて息を潜め続けた。
その名残で、今も尚姿を隠して生活する種族は幾つも存在するのだ。
「……はあ」
長時間メガネを掛けていたせいで、こみかみが痛み始める。
一度外して、痛みを抑えるように指で軽く抑えていた。
眼鏡をかけているが、寧々子は消して目が悪いわけではない。
「ちょっとの間外しとこ…」
一度メガネケースに閉まってから、チラリと鏡に視線を移した。
猫族は元々は猫で、突如として人間と掛け合わされて生まれた種族。
猫の姿になることができて、猫と喋れる。
それ以外は人間と何も変わらず、日常生活を送る上で支障もない。
そう、一般的には。
「……ッ」
真っ白な髪の毛に、右目は黄色で左目は青色。
オッドアイの白猫である寧々子は、人間時の姿では酷く目立つのだ。
両親は父親が黒猫で、二つ年上の姉である
しかし寧々子は白猫である母親の遺伝が強く、おまけに特徴的なオッドアイとして生まれてしまった。
目立つ見た目ゆえに、人間関係にも苦労してばかりな寧々子は、現在は通信制の高校に通っている。
なるべく人とは関わらず、目立たないように。
外に出れば、白髪でオッドアイの寧々子は目立って、見知らぬ誰かに心ない言葉を掛けられる。
実際にそんな経験ばかりしていたからこそ、いろんな物事に対して酷く消極的になってしまっているのだ。
先ほどの三毛猫の姿を思い出して、更に溜息を吐きたくなってしまう。
野良猫で自由な三毛猫とは違って、寧々子は猫族のくせに、家に閉じこもってばかりでろくに友達もいない。
窓の外の景色を見ては自由を焦がれ続け、長い間何かから解放されたがっているのだ。
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