5話

「こうせい、いい話があるぜ」

 休憩時間のベルが鳴って、周りは続々と席を立っている中。

「何?」

 講義の間、横でずっとスマホをいじっていた男友達がにやにやとスマホをこちらに向けてきた。

 そこに映るのは研究室の先輩とのLINE。

『今週末合コンセットしたけど来る? ほかの奴にも聞いといて』


「合コン」

「そう合コンだ。来るだろ?」

 ぐいぐいとスマホを押し付けてくる。俺は前に向き直り荷物を片付け始める。


「いかないよ」

 筆箱のチャックを閉める。


「なんでだよ行こうぜ」

 教科書を机で整えリュックに滑らせる。


「ほかの奴誘って」

 iPadをたたんで仕舞う。


「誘ったよ。でも来ねえって」

 リュックのチャックを閉じる。


「だからなあ行こうぜ」

 立ち上がりリュックを背負う。


「お前ひとりで行きたくないだけだろ」

「それはそう」

 2人で学食に向かい歩く。



 俺の歩調はどこかゆっくりだ。

 対してこいつはぐんぐん歩を進める。

 そして止まる。

「この店か?」

「はち丸って書いてあるしあってるだろ」

 空は暗くなり始めた程。駅前に位置する居酒屋の前に俺たちはいた。

 やっぱり来るんじゃなかった。こいつの懇願があまりにもうざったいからといって、しぶしぶ了承してしまった過去の自分が憎い。

 ガラガラと戸を開けて店に入る背中に続く。先に先輩が来てるはずなんですけど、と店員と会話する声もどこか遠い。というかそれじゃ伝わらんだろ。


「おっ、結局こうせいも来たんだな」

「こいつがしつこくて」

 先輩はすでに少し酔っていた。おそらく店に来る前からだ。まだ19歳なのにだ。

「ここまで来たらかわいい子お持ち帰りしようぜ」

 男友達が肘を小突く。

「それはないな」

 でもここまで来たらこの場は楽しもう。なるようになれだ。

「じゃそこ座って、女の子たち半には来るから」

 時計を見るともう10分もない。

 俺はコップを呷った。

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