2話

 俺が高校を卒業したあの日から、すでに一ヶ月がたっていた。

 新たに始まった大学生としての生活にも慣れ、友人と呼べる人たちも増え、俺の日々は充実しているように見える……はずだったが。


 どうやら、俺の青春だけは、あの日から止まったままだ。


 ぎゅうぎゅうの傘立てから黒い傘を引っ張り出し、ボタンを外す。

 灰に濁った空を見上げながら雨よけを開く。

 雨粒がはじける音が、視界の先からフェードインする。


 りおなと別れてから、俺は誰とも付き合うこともなく日々を過ごしている。そうするのが正しいと思ったし、今考えてもそれに後悔はない。

 ……だけど。

 時が経つにつれ、心に穴が空いたような感覚に陥ることが増えてきた。

 りおなのことを忘れようとするほどに、心臓を掴まれたように胸が苦しくなる。


「でも、どうしようもないだろ……」

 唇からこぼれた乾いた囁きに、降り注ぐ雨が浸み込んでいく。

 頭上の雨音が嘲笑うように、大きく弾けた。

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