第19話 赤竜の目覚め

カゥリ航空隊が壊滅し、瀕死の隊長が捕虜として確保された時と同時刻。


場所はキヴ山脈より僅かに離れた位置にあるラーストフ軍の飛行場。


ローターの雄々しい風切り音が飛行場に響き渡る。


空気を震わせながら滑走路に3機のがタキシングする。


機体の両側面にはグァンヴィール赤竜を模ったノーズアートが太陽の光に照らされて輝く。


「グァンヴィール1より管制塔、全機離陸準備よし」


滑走路に並んだ3匹の赤竜が戦いの時を今か今かと待ちわびながらローターを唸らせる。


《こちら管制塔了解。グァンヴィール隊、離陸を許可する》


管制塔の許可を得ると赤竜達はローターの出力を上げて飛び立たんとする。


徐々に機体にかかる加重が軽くなり、降着装置が地面から離れた。


3機は同時に浮かび上がり、太陽を背に飛び立つ。


「やっと俺の時間が来た……この30mmを敵に浴びせる事をどれだけ待ちわびた事か…!!」


機影は山脈の向こう側へと消えていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇






《ファランクス1よりCP!敵の規模、歩兵2個大隊に1個機甲小隊!!田園地帯を突破しようとしている!!》


「敵戦車はパットンM60……エイブラムスよか多少はマシか…」


田園地帯を走り抜けて来る6両のパットンの姿を双眼鏡で見ながら瑠斗は舌打ちをした。


しかもただのパットンではなくミドール本国で改修されたのだろうが主砲は105mmから120mmの滑腔砲に換装され、他にもHEAT弾対策にERA爆発反応装甲を全身に纏っている。


一応、相手がERAを装備していることも見越してRPG-7を持った全ての対戦車分隊にはタンデム弾頭のPG-7VRを持たせているが高価故数発しか持たせていない。


その対戦車分隊4個を中核に編制された対戦車小隊。


彼らは既にRPGを構え攻撃の合図を待っている。


だがまだ距離は遠い。


確実に命中させられる距離まで引き付けなければ貴重なタンデム弾頭が無駄になる上に対戦車小隊どころか他の歩兵部隊にすら危険が及びかねない。


幸い敵のパットンは投光器を装備しているあたりどうやらサーマルサイトの類は装備していないと分かる。


現にこちらの伏兵に気付く様子を見せずに少しずつだが接近していた。


田園を越え、作物を踏みつぶしながらパットンは突き進む。


そしてその後ろを歩兵が随伴する。


「まだだ…まだ撃つな」


距離がまだ遠い。


機甲小隊との距離を目測しながら瑠斗が懐からを取り出し電源を入れた。


開いたのは連絡先でそこには無名の連絡先が1つだけあった。


「もうすぐだ、構えとけ」


田園地帯の最奥にある火点から約100m先の箇所を睨みながら携帯を握りしめる。


その箇所に先頭のパットンが踏み込んだ時、瑠斗は携帯の発信ボタンを押した。


すると、突然先頭のパットンの目の前で爆発が起きた。


《何だ!?》


《IEDだ!警戒しろ!!》


機甲小隊の動きが止まったことを確認し無線機に向かって叫んだ。


「撃ち方始め!!」


瑠斗の合図と同時に、農村を囲む左右の草むらから対戦車小隊がRPGを発砲した。


停止した機甲小隊は避けられる筈も無く至近距離からタンデム弾頭を側面装甲に受けた。


PG-7VR先端のサブ弾頭がまずERAを無力化し、次にメイン弾頭がその先にある装甲に命中した。


ユゴニオ弾性限界を超える圧力に曝された弾頭内部のライナーがモンロー/ノイマン効果によってメタルジェットへと変化し装甲を侵徹する。


装甲材の機械的強度を無視し穿たれた穴を通って中の乗員に爆風と共に装甲の破片が襲い掛かる。


1発だけでは威力が不足するHEAT弾成形炸薬弾だが、それが2発3発と続けざまに撃ち込まれ機甲小隊は抵抗する暇も無く撃破されていく。


その内1両が弾薬庫に誘爆し、周囲の随伴歩兵を巻き込みながら爆散した。


「戦車は死んだぞ!!今が好機だ!!」


「侵略者に死を!!!」


機甲小隊が無力化された事で息づいた歩兵達が一斉射撃を開始する。


麦畑の中から突然弾幕が襲い掛かってきたことにミドールの兵士は驚愕し反撃を試みるも次々と斃れた。


銃口からの発射ガスで麦畑の麦が激しく揺れ動く。


麦畑の中に隠蔽された機関銃陣地からM60による制圧射撃を受けて敵歩兵2個大隊は遮蔽物の無いこの場所では危険だと悟り撤退を始めた。


そのまま追撃を始めようとしていた兵士達をローリヤが止める。


「ならん!我々はあくまで防衛に徹する。今攻め込んでも後続の部隊に返り討ちに会うだけだ」








半狂乱で逃げ去っていくミドールとラーストフの兵達の姿を見ながら瑠斗が溜息を吐いた。


「急ごしらえの戦術だが、相手が馬鹿で助かった…ソ連やアメリカの正規軍相手だったら半日ともたなかっただろうな」


「まだ終わった訳じゃないよ。奴ら直ぐに第2波を送って来るだろうし」


イスクの言う通り敵はこの渓谷に対して大規模な波状攻撃を行い物量で圧し潰すつもりだった。


航空戦力はミドール空軍のトロ―ジャンは全て撃墜し、ラーストフはそもそも筈なので心配はいらないだろうが地上戦力だけでも防衛線の維持で精一杯だ。


次の第2波は兎も角第3、第4まで来られればそれすらできるか怪しい。


一番理想的なのは連合軍側がある程度損害を被って侵攻を諦めてくれることなのだがそれはまずありえないだろう。


このキヴ紛争に於いて既にラーストフ軍は決して無視できない多大なる損害を被っている。


仮想敵国であるミドールによる支援まで受けておいてここで諦めるなど国家としてのプライドが許さない。


ただでさえ支持率の低いナフアー政権が更にその信頼を失うことにもなる。


だから彼らは全力でここを潰しに来る。


互いにもう後戻りはできないのだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇





第1波を退け、第2波に備えようとしていた時は突然やってきた。


《こちらラウンドシールド1!!6時方向に敵航空機出現!!こいつらどこから――》


渓谷に響き渡る爆発音。


先程まで対空部隊がいた場所からは粉塵が漂っている。


小山に隔たれて様子は分からないが何か良くないことが起きているのは間違いない。


「ラウンドシールド…!?どうした、応答しろ!!」


通信の途絶えた対空部隊に呼び掛けるが何も応答は無く、ただノイズが受信機から聞こえて来るだけだった。


他の歩兵部隊も何事かと後ろを振り向く。


漂う粉塵が晴れてきた頃、また違う音が小山の向こうから聞こえてきた。


を知らぬNNLFの兵士達からすれば聞き慣れない音。


何の音かとNNLFの兵士もローリヤでさえも疑問を抱く。


しかし瑠斗とイスクだけは様子が違った。


「嘘だろ…何故あいつらがあんな物を…!!」


半ば絶望の表情で目を見開く2人。


2人が見つめるその小山の先からそれは姿を現した。


タンカラーの胴体を太陽の光で輝かせ。


5枚の羽根で空気を震わせ。


特徴的なバブルキャノピーが彼らを睨みつける。


機体の右側面では鈍色の2がこちらに向けられている。


そこにいたのは、3匹の赤竜だった。
















「Mi-24…………!?」



《よお、悪夢のデリバリーだぜ》




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