第16話 巨人の血3
報酬を前払いという条件でNNLFに雇われた2人だったが、それから戦線に進展は無くたまに嫌がらせに来る小規模の敵歩兵部隊を撃退する程度。
戦況が膠着している今、ローリヤと2人は1つの結論に至る。
「ラーストフ軍は攻めあぐねている訳ではない、何かを待っている」
「それがまだ分かんねえがな…」
ローリヤ達3人は最前線の小山の山頂にある基地にて高所から敵の動向を監視していた。
監視を始めてからもう1週間経つが未だに動きは見られない
それどころか麓で待機している戦力の数が減少していた。
ローリヤに双眼鏡を渡しふと隣を見るとそこではイスクが寒さで凍えていた。
「大丈夫か?やっぱ一旦降りた方が――」
「駄目だよ…!僕はリュートと共に戦うって決めたんだ」
「とは言ってもこんな天気じゃ流石に寒がりのお前はヤバいぞ」
現在このキヴ山脈は長期間に渡って激しい暴風雨に見舞われている。
激しい雨と共に強い風が吹き荒れ、8月だというのに3人の体をこれでもかと冷やす。
瑠斗は簡易的なテントを建てて雨は凌いで何とか持ち堪えているがイスクは凄まじい程の寒がりな為それから更に何枚もの軍用ポンチョを重ね着してもまだ震えが収まらない。
ローリヤに関しては体がデカすぎてテントに収まりきらず外に出てもらっているが灰色のトレンチコートの上に何も来ていないというのに大雨と暴風をその身に受けながら平然としている。
「フン、人間種というのはなんとも脆弱なものだな」
「お前が異常なんだよ……巨人族の末裔が…」
巨人族。
意味はその名の通りなのだが、そもそもの話瑠斗は知らなかったのだ。
人でありながら人とは違う何かを持った存在……亜人族を。
しかし彼が知らないのも無理は無かった。
何故ならこのムィラ大陸には亜人族は殆どいないからである。
ムィラ大陸とは、大昔に一部の人間種が亜人族の力を恐れて逃げ込んだ場所だ。
そんな場所に亜人などまず普通にいる訳が無いし、押し入ろうものなら大陸の全国家同意の亜人の殲滅が始まるだろう。
亜人排斥の歴史を経て発展してきたこの大陸には亜人などはそもそも話題にすらされないし瑠斗以外にも亜人の存在自体を知らない人間もいる。
だから、ローリヤからそのような話を聞かされた時、瑠斗の中に今までなかったある感情が生まれたのだ。
――凄い…知らなかった、そんな世界が実在するなんて。
そう、この時瑠斗は人生で一番ワクワクしていたのだ。
この世界にある5つの大陸の内4つにはファンタジー小説の中にしかいなかったエルフやゴブリン、ドワーフにその他様々な種族が住んでおり、人間と共存しそして時に戦っている。
今まで人と人の戦いしか見てこなかった彼には頭の中で思い浮かべたその光景がとても輝いて見えた。
その話をする時にローリヤは自分が何故ムィラ大陸にいるのかを説明したがそれによると彼女は5大大陸の中でも最も遠い地に住む巨人族の血を受け継ぐ人間、所謂ハーフであり純潔を至高としていた巨人族達から忌み子として捨てられ、ムィラ大陸に辿り着くまでの間ずっと徒歩で旅を続けていたらしい。
信じられない話だが彼女はシヴェゾ海という途方も無い程に広大な海に隔たれた別の大陸へ泳ぎで向かおうとし、その途中で嵐に会いたまたまムィラ大陸へ流れ着いたそうだ。
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