第7話 欺瞞

2連装KPV重機関銃がけたたましい咆哮と共に火を噴く。


14.5mmMDZ焼夷榴弾が毎分600発で放たれ、前方700m先の歩兵を襲う。


「連中が固まってる今が好機だ!叩き込みまくれ!!」


トーチカの中に耳栓をしていても鼓膜が痛む程の銃声が響き渡り、双眼鏡を覗きながらイスクが大声で状況を逐一報告する。


遠くで着弾した弾が弾け、破片を浴びた周辺の歩兵がもんどりうって斃れた。


その間にTOW部隊は敵戦車部隊への攻撃準備を進める。


ミサイルを発射器に装填し、誘導装置を起動すると射手が照準器を覗き込んだ。


「敵戦車、11時!距離600!!」


「発射準備完了!!バックブラストクリア!!」


「バックブラストクリア!!」


照準器の十字線と敵戦車が重なる。


「撃て!!」


チューブ型コンテナの蓋が最初に弾け飛び、それに続いてミサイル本体が発射された。


安定翼を展開すると尾部のロケットエンジンが点火し、ミサイルが急加速する。


そのロケットエンジンの燃料が切れると今度は左右の姿勢制御用スラスタが点火した。


発射器から照射されたレーザーが敵戦車を捉え、その情報を2本のケーブルで受け取り標的を追跡する。


噴射炎と風切り音を撒き散らしながらミサイルは飛んでいく。


半自動指令照準線一致誘導方式SACLOS特有の不規則な軌道を描くその槍は、最大で800mmの均質圧延装甲を貫徹することができるのだ。


その万物を貫く槍を、ノヴォスコの軍人達はある名で呼び恐れた。


」、と。




「当たったぞ!」


敵戦車、その中でも先頭の車両に最初の一発が命中した。


激しい爆炎を巻き上げながら敵戦車が燃え盛り中から火だるまになった戦車兵達が呻き語声を上げながら這い出てきた。


「戦車ってあんなに燃えるのか!?」


「車内の弾薬庫に誘爆したんだろう!兎に角次弾装填急げ!!」


再装填を行っている間にも別の部隊から更にミサイルがつるべ撃ちの如く放たれた。





隠蔽されたトーチカからの突然の攻撃に加えて対戦車ミサイルTOWによる機甲部隊へ齎された損害はノヴォスコ軍側を混乱させるには十分だった。


なぜなら彼らは対戦車ミサイルの存在などからだ。


「なんなんだクソッタレ!!」


「少尉!!戦車が!!」


ミサイルの直撃によって大破炎上する戦車達と共に焼かれ死んでいく兵士達を見て現場の指揮官は呆然とする。


「あれは砲弾……いや違う!!何なんだ一体!?」


多少の機関砲や野砲などの火砲の類は予測していた。


それを防ぐために機甲戦力を整えてから攻撃を始めたのだ。


しかし敵はその盾をすら貫く槍を持っていた。


上が敵の戦力を見誤っていたのか、或いは……。


「敵弾また来ます!……少尉!!」


そう考えている頃には、光の矢が噴射炎を上げながら目の前に迫ってきているのが見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇





ノヴォスコの部隊は、あまりにも呆気なくトーチカからの迎撃で壊滅してしまった。


危険視されていた戦車もミサイルの前にはただの的に過ぎず次々と撃破された。


戦車から多少の反撃もあったものの飛んできたのは70mmクラスの低圧砲の砲弾位でこの要塞に確実なダメージを与えられる攻撃が来ることは1度も無かった。


そのあまりの呆気なさにウェスクキルタもストレルカも皆言葉が出なかった。


敗走していくノヴォスコ軍部隊を眺めているといつの間にか隣にクァエルの姿があった。


「クァエル!テメェ今まで何してやがったんだ」


「すまんな、少し用事があってそれに手こずっていた」


イスクから双眼鏡を借り、敵の様子を見る。


「ボス、敵部隊はもう撃退したよ。戦車とかいう奴も皆雑魚だったし」


戦闘の様子についてをイスクに聞かされていたクァエルだったが、圧勝という結果の割にはまだ彼の表情から警戒心が抜けきっていなかった。


「…………あれは戦車などではない」


「……どういう事?」


双眼鏡を覗きながら話すクァエルにイスクは怪訝そうな顔をする。


「俺は過去に1度だけだが、外界の正規軍と戦った事がある」


そのままクァエルは淡々と話し始める。


「対戦車戦闘も経験したが、その時に俺が見た戦車はあんな貧弱な車じゃない」


イスクと瑠斗の2人は彼の話を息を飲みながら聞いていた。


「PMCの連中が使ってるのを見た事がある。 あれは外界の言葉でこう呼ぶ」







、とな」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ノヴォスコの首都トゥエリ。


そこにある参謀本部庁舎。


庁舎の一室の中に2人の男がいた。


片方はノヴォスコ軍第12近衛機甲師団の師団長、バルイカ・タストイ少将。


そしてもう片方は…。




「作戦はどうやら上手くいったようだな」


「ええ、奴らハリボテ相手に見事に無駄弾を撃ってくれましたよ。貴方のお陰で勝てそうだ、殿


ノヴォスコ軍の白を基調とした軍服と違って深緑の軍服を身に着けていたその恰幅のいい男は顎鬚を弄りながら微笑を浮かべた。


「まあ、後は我々に任せろ。今まで多くの戦争で敵の侵攻を退けてきたルクイェール要塞とやら……その積み上げてきたキャリアを明日ぶち壊してやろう」


恰幅のいい男の肩では肩章の3が輝いていた。

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