第6話 衝突。ルクイェールの墓場2
ルクイェール要塞に展開されたウェスクキルタ陸軍歩兵大隊、そしてクァエル率いるストレルカの兵士67人は丘に偽装したトーチカにてノヴォスコ軍の襲来に備えていた。
「そういえばクァエルの姿が見えねえが、何処に行ったんだ?」
銃架にKPV重機関銃を固定しながら瑠斗は14.5mm弾を持ってきた仲間のイスクという男に話しかけた。
「さあね、大隊長と作戦でも練ってんじゃない?」
瑠斗の声を気にも留める事無く14.5mm弾の詰まった木箱を部屋の隅に積み重ねる。
「ノヴォスコの連中、いつ来るやら――――」
瑠斗がそう呟こうとした瞬間、周りのウェスクキルタ軍兵士たちが声を上げ始めた。
何事かと出入口から通路を覗くと兵士達が先ほどよりも明らかに急いだ様子で配置に付いていく。
「おい、なんかやばくねえかこれ……イスク?」
返事を返さない事を不審に思い後ろを振り返るとそこでは双眼鏡を覗いたまま硬直したイスクの姿があった。
「おい……? どうし――」
「な…何だありゃあ……!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふざけて居るのか?貴様……!」
大隊長は青筋を立てながらクァエルを睨みつける。
彼は先程から現場の指揮権を寄越せの一点張りで頑なに退こうとしなかったため苛立ちを覚えるのも無理はない。
ただクァエルにもそれが最善とする理由はあった。
「今までウェスクキルタとノヴォスコは互角の軍事力を保っておりそれが互いの抑止力となっていた」
銃という新たな兵器が伝来した際にこの二カ国は運用ドクトリンの確立や生産設備などの整備に手間取り軍事力の増強スピードに関してはほぼ同じだった。
同じ軍事力の国同士がぶつかれば下手をすれば共倒れになることは分かりきっていた。
「その中でノヴォスコが真正面から戦争を仕掛けて来たということはウェルクキスタ軍と戦って勝てるという確信を持てるほどの何かしらの要素が加わったということだ」
共倒れ間違いなしのこの戦争をノヴォスコが態々起こす時点でそうとしか考えようがなかった。
――恐らく
その話に大隊長は一瞬黙り込むが何かを思い出したような表情をして顔を上げた。
「そういえばノヴォスコの連中、戦車とかいう新兵器を導入しとったな……あれのことか?」
クァエルもその話は知っている。
近年になってノヴォスコは何度目かもう分からない軍備の増強を行いその時に新しく配備を始めたのが戦車だった。
しかし、あくまで戦車という兵器を導入したと聞かされていただけでありその新兵器の詳しい情報は知らされていなかった人の方が多い。
唯一分かっているのは歩兵では扱えない火力の兵器を使用することができる乗り物だということだけだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そ…総員!対戦車戦闘用意!!」
「敵の規模は!?」
「戦車が14両に歩兵2個大隊規模!!」
「奴ら初っ端から全力で潰しに来やがった!!」
要塞内は半ばパニック状態となり現場の下士官達も混乱している状態だった。
彼らは戦車というものがどういう物なのか殆ど知らない。
だから、どんな攻撃や機動を取ってくるか分からないしそれでどのようにして対抗するのかも知るはずがないのだ。
――初戦からこんな大規模な部隊を送り込んでくるとは……!!
そう思いながら瑠斗はKPVの銃座に着く。
「くそッ!!やるしかねえのかよ!!あんな奴らを相手に!!」
両手でチャージングハンドルを引き初弾を装填し、防循の隙間に取り付けられたスコープを覗き込む。
装填された弾は
狙うは敵歩兵2個大隊。
戦車はTOWを使っている部隊に任せるしかない。
「頼むからこれで退いてくれよ……!」
要塞の徹底した隠蔽のおかげで敵はまだこちらに気付いていない。
叩くなら今しかない。
部屋の傍らに置かれた無線機がノイズを立てる。
間も無く攻撃命令が下る。
――こんな時にクァエルは何やってんだ……!?
スコープ越しに敵を睨みながら舌打ちをする。
トリガーには既に指がかかっている。
レティクルと呑気に歩いているノヴォスコ軍歩兵を重ねる。
撃つなら、今だ。
《総員、撃ち方始め!!》
KPV2連装14.5mm重機関銃の銃口が火を噴いた。
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