第5話 衝突。ルクイェールの墓場
公暦1247年 11月 4日。
両国の国境沿いにあるオジョール峡谷という場所にてノヴォスコという国が国境付近に展開していたウェスクキルタ陸軍部隊に攻撃を仕掛けた。
この武力衝突のきっかけは両国の国境付近に存在する銀鉱山の利権で揉めたことにある。
最初は互いの外交官や国の指導者自らによる交渉が続いていたが、次第に水掛け論へと発展。
果てには国境に軍を置くにまで事態は悪化した。
これが2年ほど続いた後、いつまでも進展のない交渉に痺れを切らしたノヴォスコ側が先制攻撃し、今に至る。
そして最初の戦闘で入念に準備をしていたノヴォスコ軍は国境のウェスクキルタ軍部隊を撃破。
現在進行形で国内に侵攻しつつある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ルクイェールにはまだ着かないのか」
輸送トラックの荷台に他の兵士達と共に乗せられた瑠斗は助手席にいるクァエルにそう聞いた。
その腕には訓練課程を終えた―課程と呼べるほど計画性があったかは疑問だが―証にクァエルから与えられたAK-47の中国製コピー銃、56-1式が抱えられていた。
瑠斗を乗せたトラックは街道上から外れて緩やかな丘陵地帯を延々と進み続けていた。
景色も変わることなく同じコブのような地面の盛り上がりが不規則に連なっているだけだ。
「もうすぐ到着だ。俺達が自動車を持っていただけ運がいいと思え。ウェスクキルタの正規軍はまだ馬車を使っている」
クァエルはこちらを振り返らずにそう言ってそれ以降話すことは無くなった。
「フン…」
伊達に彼と4年過ごしてきた訳じゃない。
彼のこういった性格も瑠斗はちゃんと理解しているつもりだ。
クァエルが次に口を開いたのはルクイェールに着いた頃だった。
「確か向こうには既にウェスクキルタ軍の大隊が待機してるんだったか」
56-1式のチャンバー内を点検しながら瑠斗は目の前にある大きな丘を見やる。
しかしそれは只の丘ではない。
丘の後ろ側には人が数人通れるような穴が開いており、トラックを降りた瑠斗達はその穴から丘の中へと入っていく。
穴を潜った先は蟻の巣のように張り巡らされた通路とそれに沿って掘られた幾つもの小さな部屋があった。
そのそれぞれの部屋の中には重機関銃や無反動砲、おまけに
この場所は、自然の丘に偽装されたノヴォスコ軍の侵攻を阻止する為にずっと昔、銃が伝来する前から作られていた要塞なのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ルクイェール要塞の中。
そこは兵士達の喧騒に包まれていた。
「
「14.5mmが足らん!まだトラックにあったろ!」
「右翼側の隠蔽!もっと厚くしろ!」
「
通路を弾薬箱を抱えた兵士達が行き来する。
与えられた物資を各部屋に均等に分配し戦闘態勢を整えていく。
そんな中、クァエルは現場のウェスクキルタ軍指揮官と共に奥の指揮所の中で話していた。
「…ここは昔から多くの戦争で戦場となった。それで付いた名は名も無き戦士の墓場だ」
「知っている。嘗て戦奴だった時に俺もそこで一度戦っていた」
指揮官は地図の置かれた机を挟んで一度クァエルの顔を一瞥すると左手に持っていたスキットルを傾けた。
「まあ歴史の話は置いておくとして、クァエル殿、こんな時に私に一体何の用だ?」
蓄えられた顎鬚を揺らしながらクァエルは指揮官と目を合わせる。
「単刀直入に申し上げる。この現場の指揮権を俺に譲渡して頂きたい」
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