第2話 非日常
真昼というのに薄暗い森の中。
鬱蒼と茂る草木の中を突き進む1つの人影があった。
「……はぁ……クソっ!」
ジーンズにバイカージャケットというなんともミスマッチな格好の彼の名は『谷川 瑠斗』。
元は日本に住んでいたなんでもない少々非行に走りがちなただの高校生に過ぎなかった。
代わり映えの無い日常に不満を感じていた彼は「もっと刺激的な非日常を!」と思いながら過ごしていた。
そして本当に望んだ通り非日常が来てしまったというのだ。
ここに来た経緯を説明すると、その日はいつも通り学校をサボって街に自転車で遊びに向かっていた所いきなり空間が歪み目の前に真っ暗な穴が空いた。
急ブレーキをかけようとした瑠斗だったが間に合わず、突入。
目を覚ました時には既にこの森の中にいた。
目を覚ましてからかれこれ2時間以上は歩いているが未だに森以外のものが見えてくる気配は無い。
オマケに空腹と不安定な足場によって瑠斗の体力も徐々に奪われつつあった。
「ちくしょォ……確かに非日常が欲しいっつったけどよォ、これは流石にねェだろ」
周りのチンピラ仲間に合わせて一丁前に髪をブロンドに染めた頭を掻きむしりながら瑠斗は溜息を零す。
「あー無理無理。足いってぇ……」
このようにして時折休憩を挟みながら進んでいた瑠斗だったが、ちょっとやそっと体を鍛えた程度の彼では進行スピードもたかが知れていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森の外に辿り着くことなく遂に夜が来てしまった。
心身共に限界の来ていた瑠斗は近くの大木に身を預け、夜を明かそうと試みる。
普段、こんな環境で過ごすのに慣れていないため眠りにつく事すら難しかった。
楽な姿勢を模索しながら必死に眠ろうとする内に1時間経った。
「……寒いなクソ……今は夏じゃねぇのかよ」
日本にいた頃は真夏日だったので薄着で外出していたが、ここの夜はかなり寒く冷たい風もよく吹いていた。
瑠斗が漸く眠りにつく事が出来たのは2時間も経った後だった。
こんな日は1日2日で終わるような物ではなかった。
食料は無く、そこらの池の水だけで飢えを凌ごうとしていた瑠斗に最早これ以上歩くだけの力は残されていない。
「……あぁ……ぁ……くぅぅ…!!」
空腹と全身の筋肉の激痛に苦しみながら這っても這っても先はまだ見えてこない。
全身がズタボロになり、自慢の金髪も泥と木屑でもみくちゃになりながら這って進み続けた。
それから何km、何十km進んだのか分からない。
しかし、今自分は森を抜ける事が出来たということだけは分かった。
森の先にあったその広大な草原を見た瑠斗は体が限界に達し遂に意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
眠りについてから何時間経ったか分からないが、周りの物音によって瑠斗は目を覚ました。
朝日に照らされて目を開こうとすると今度は人の声が周りから聞こえてきた。
全員それなりに歳のいった男。
それに複数人いる。
どうやら寝ている瑠斗を取り囲んで会話しているようだった。
「………………。 ……?」
「………………」
「……………………………………。」
目をうっすらと開けるとガタイのいいオリーブ色の作業着のような服を着た男達が何やら話していた。
しかし何を言っているのかは分からない。
日本語でも、英語でも中国語でもない、聞いた事のない言語だった。
そしてその男の内の1人がこちらが目を覚ました事に気付いた。
まだ寝惚けているとでも勘違いしているのか1人の男が瑠斗の頬を叩き、声を掛けてくる。
「……! ……! …………?」
しかし何を言ってるのか分からないので返答のしようがない。
呆然とした顔で固まる瑠斗の姿を見た男の1人、恐らくリーダーと思しき者が他の部下らしき者に指図をしてどこかに向かわせた。
何が起こったのか分からずキョロキョロと辺りを見回していると遠くから誰か別の男がやってきた。
リーダーが瑠斗を指さすと指図された男は彼の元に歩み寄る。
「……ゴホン! あー、俺の言葉分かるか?」
その男は今確かに日本語を話した。
瑠斗が静かに頷くと男は自分が寝ている隣に腰を下ろした。
この状況を把握しきれていなかった瑠斗は男に問い掛ける。
「ここは……? 俺は、助けられたのか?」
「助けられた、か……まぁ助かった事には間違いないな」
不可解な返答に疑問を抱くが一先ず命は助かった事に安堵した。
しかしその次に放たれた言葉に瑠斗は硬直する。
「気の毒だが……お前、この後奴隷として売りに出されるんだよ」
「…………え」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます