アローヘッド
COTOKITI
第0章 ACROSS THE BORDER
第1話 ウラル・レポート
1974年、この年は新たなる歴史の始まりの年となった。
世界はソヴィエト連邦を筆頭とした東側陣営、そしてアメリカ合衆国筆頭の西側陣営に分かたれ、遂にその全土を戦火に呑み込む結果となった。
開戦してからまだ間もない頃、ソ連軍は陸海空共に電撃的な快進撃を見せ一時期はヨーロッパ全域を手中に収めていた。
しかし、1976年のことであった。
アメリカとドイツ、フランス、イギリスを主軸とした
その作戦の名は第2次バルバロッサ作戦。
嘗てナチス・ドイツが
本作戦の成功はEU軍は勿論だが当時大西洋上に展開していた米海軍第2艦隊の尽力があってこそだった。
当時ソ連海軍最強と言われていた北方艦隊を打ち破り、艦隊旗艦キーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦ピョートル・ヴェリーキィに航空戦力の主力の一部を担っていたアドミラル・クズネツォフ級航空母艦ヴァリャーグを沈めた彼らは戦争が終結するその時まで大西洋を守り続けた。
そして時を暫くしてソ連軍はヨーロッパから完全撤退し遂に不毛な本土の防衛戦に移ることとなった。
〈1982年 1月6日 ウラル山脈付近〉
西側諸国軍がソ連軍の防衛線を破って侵攻しつつある中、第46自動車化狙撃旅団はセヴァルニコルチムという村にて後方の友軍部隊の撤退を支援するために米欧連合軍2個師団を相手に遅滞戦闘に務めていた。
「敵戦車捕捉、1時間でも長く連中を足止めする」
第46自動車化狙撃旅団隷下第3大隊の潜む塹壕より前方2000m先に展開された米陸軍機甲部隊。
10両のMBTとただの歩兵大隊では僅かに手に余る戦力だが、最早彼らに退くという選択肢は残されていなかった。
「カルパチア軍管区が堕ちてからもう半年……ここが俺達の墓場だ」
「ああ、こうなるって分かってりゃアーラに最後の挨拶でも言えたのにな…」
前方を睨みつけながら大隊長は隊員に攻撃用意の指示を出した。
《対戦車小隊、攻撃用意》
9M133コルネットの射手が照準器に目をあてがい、前方のMBTを捕捉する。
十字線の先にいるのはカルパチア軍管区が陥落するときに散々自分の
「あれが
そう言って乾いた笑い声を上げていると隣のRPG-7を持った兵士が射手の肩を小突いた。
彼のグリップを握る手は僅かに震えていた。
「お喋りはそこまでにしておけ」
エイブラムスは高速で草原を均しながら近付いてくる。
高速で向かってくる重量何十tもの鉄塊に平静を装っていたコルネットの射手の口から思わず震えた溜息が漏れ出た。
草木によって隠蔽された塹壕に彼らが気付く気配は無い。
1900……1700……1500……1300……。
時速50kmは軽く超える速度で走るエイブラムスは2kmという距離などあっという間に詰めてきた。
早く攻撃命令よ下ってくれ、と彼らはすぐそこまで迫って来るエイブラムスを睨みながら心の中でそう叫んだ。
1000……900……800……700……600……。
もうすぐエイブラムスの方もこちらの存在に気付く、という所である違和感に気付いた兵士が1人いた。
「……? 時計が……壊れたのか?」
……500。
《総員! 攻撃開始!!》
突然隣を走っていた味方が爆ぜた事に彼らは動揺した。
《3号車、応答しろ!!》
《足が!!足がぁあああぁぁああぁあ!!!》
筒形コンテナから放たれたコルネットの弾頭は安定翼を展開した後ロケット推進によって速度を得てレーザー誘導に従いエイブラムスへと一直線に向かっていく。
《クソッタレ!
タンデムHEAT弾頭がエイブラムスの砲塔に命中し、中の乗員が破片と有毒ガスによって殺傷された後に後方のバスル弾薬庫に引火し砲塔上部のブローオフパネルが吹き飛びそこから爆炎が噴き出た。
《4号車がやられた!!》
《残ってるのは俺達だけか!?》
戦力の半数以上がやられて漸く彼らは敵の場所を特定する。
《敵歩兵500m先!! 塹壕と草木に潜んでやがる!!》
《ガンナー!
《アイデンティファイド!!500!!》
車長が砲手に同軸機銃を使用する指示を出し、砲手はそれに従い距離に合わせて照準を合わせる。
《ファイア!!》
《オンザウェイ!!》
生き残ったエイブラムスの同軸機銃から放たれた7.62mm弾が塹壕の土を抉り、砂埃が舞い上がる。
退避が遅れた何人かのコルネットの射手とRPG-7を持った兵士は脳漿を撒き散らして斃れた。
兵士達はコルネットやRPG-7の再装填を行う暇もなく塹壕の中に身を潜め、敵の制圧射撃を凌ぐ。
僅かに顔を覗かせるとまだ3両のエイブラムスがこちらに砲塔を向けていた。
「クソォ! 仕留め損なったか!!」
「RPG早く装填しろ!!」
「RPGじゃ駄目だ!!奴の正面装甲はコルネットじゃなきゃ貫けない!!」
「この状況でどうやって再装填しろって言うんだ!?」
7.62mmの制圧射撃によって舞い上がった砂埃が塹壕の中にいる兵士達に降りかかる。
10cmでも頭を出せば即座に先程死んだ兵士達のように脳漿を撒き散らすことになるだろう。
このような状況ではとてもコルネットの発射はおろか再装填すらできない。
残った3両のエイブラムスは全て
そうしている間にもエイブラムスの砲塔内部にいる乗組員達は反撃の用意を始める。
《ガンナー!HEAT!トループス!》
《アイデンティファイド!! 500!!》
装填手が背後のバスル弾薬庫から1発の砲弾を取り出し閉鎖機に装填する。
《アーップ!!》
120mmHEAT-MP弾が装填され、閉鎖機が閉じる。
装填手が閉鎖機のセーフティレバーを上に上げてこの時エイブラムスの主砲、44口径120mm滑腔砲M256は発砲可能となる。
そして今装填された砲弾、
《ファイア!!》
《オンザウェイ!!》
瞬間、塹壕の中で無理矢理再装填をしようとしていたコルネットの部隊の1つが瞬きする間もなく塹壕の土と共に木っ端微塵になった。
ほんの1秒以下だが、周りにいた生存者達には、目の前で仲間が血煙を撒き散らしながら消し飛んだ姿が見えた。
「クソっ!!クソォッ!! アイツら撃ってきやがったぁぁ!!!」
「誰かあの
露米双方の怒号が響く中、何人かの兵士が既に予兆に気が付いていた。
「なんだ!? 何がどうなってる!?」
「畜生!! 米軍の新兵器かよ!?」
《コマンダー! サイトがイカれた!!》
《こっちもだ! 急に動かなくなりやがった!》
《お、おい!! 見ろよアレ!!》
《く、空間が歪んで───》
「あ、穴が───」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……あのウラル・レポートからもう早20年か」
真っ白な個室に2人の男女がいる。
キーチェリに身を包んだ恰幅のいい中年の男は目の前で机を挟み向かい合って座っている白衣の女の目を見据える。
「領土の5割以上を失っている今、エデンは祖国の生命線となるでしょう」
女はコーヒーで満たされたマグカップに口をつけながら男の目を見つめ返す。
「祖国、ソヴィエトは勝つ……必ずな」
第3次世界大戦終結から2年後の1989年、本国から発見された機密文書『ウラル・レポート』を皮切りに世界中が異世界、またの名をエデンの開拓競争を引き起こした。
全ては門、そしてその先にある
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