友達になろう

ふさふさしっぽ

友達になろう

「なあお前! 俺達と向こうで一緒に遊ぼうぜ!」


「君、誰?」


「俺はケン! 武器屋の息子さ! お前、道具屋の息子だろ? この前引っ越してきた」


「そうだけど」


「お前、いつもここで一人、魔術書読んでるよな。魔法士になりたいのか?」


「別に……」


「一人じゃつまんないだろ、たまには俺達と一緒に遊ぼうぜ!」


「いや、僕は……いいよ」


「なんで? みんなで遊んだほうが楽しいぜ! 友達になろう!」


「友達……か。生憎、僕はもう、友達というものを信じていない」


「へ?」


「僕は、友達だと思っていた奴に両親を殺された。三年前、僕が十一歳のときに」


「えっ」


「魔法師だった僕の両親が守っていた、1000年前から家に伝わる禁術書『深淵の悪夢ナイトメア・アビス』を盗むために、そいつは僕と友達になったふりをしてたんだ。僕が奴と友達になったせいで、両親は……」


「じゃ、じゃあ、道具屋のおじさんと、おばさんは……」


「遠い親戚だよ」


(な、なんてこった! さりげなくちょっと仲間に誘おうと思っただけなのに、そんな返し想定外だぞ、ヘビーすぎる! ど、どうしよ……、そんな過去は忘れろよとか、言えるレベルじゃねーぞ)


「……」


「……」


(わあああああああああああ! またやっちゃったーー!! 僕のばかバカ馬鹿! せっかく声かけてくれたのに、本当は友達欲しいのに、緊張して戸惑いすぎて、ありもしない嘘くさい設定を口走ってしまう……!)


「……」


(こんなんだから僕ってば友達出来ないんだよ、なんだよ深淵の悪夢ナイトメア・アビスって、その前は血塗られた審判ブラッディ・ジャッジメントだったじゃないか、つーかそんな本うちにないし、僕の両親魔法士じゃないし、なにが『遠い親戚』だよ、普通に僕の両親道具屋だし、生きてるし)


「……」


(ああ、ケン君、黙っちゃった。だよね、引くよね普通。誰かに声かけてもらいたくて、みんなから見える木陰にわざわざ座って、つまんない魔術書なんか連日読んでたっていうのに、僕って、本当だめだ……ぐすっ)


「え、おい、泣くなよ! ごめんな、辛いこと思い出させて。そんなつもりじゃなかったんだ」


(え? 今の話信じたの? ナイトメア・アビスを? 嘘だ、後でみんなに言いふらして、僕を「脳内妄想野郎」って、笑いものにする気なんだ。詰んだチェックメイト。明日から僕は、終わりの始まりだ……)


「今からそいつ、いっしょにぶっ倒しに行こうぜ!」


「えっ」


「俺もだてに武器屋の息子やってねえ! お前の両親の仇、取ろうぜ!」


「む、無理だよ、そんなの(嘘だし)」


(やっべー、こいつが泣くもんだから、後先考えず『仇取ろうぜ!』なんてつい口走ってしまった! 俺の悪い癖だ)


「……」


(ほら、黙っちまった。できもしないこと調子よく言いやがってこのホラ吹き野郎! とか思ってんだろうな。軽蔑されたかもなあ。いつもそうなんだ、勢いだけなんだ、俺って)


「……あ、ありが……とう、うう、嬉しいよ」


(えっ。本気にしたのか? 本気マジで!? 俺明日からこいつとこいつの両親の仇取りの旅に出んの? さよなら、俺の退屈だったけどそれなりに幸せだった日々)


「で、でもごめん」


「え」


「う、嘘なんだ! 両親は道具屋で生きてるよ! ごめん、だまして」


「ええ!? なんでそんな噓を?」


「む、昔から、きき、気持ちを、す、素直に言葉に、で、できなくて。つい……」


(分からん……)


(ああ、今度こそ嫌われた。でも、これだけは言わなくちゃ)


(鼻水出てる)


「ぼ、僕、き、君と、ととと友達に、友達になりたいんだ!」


「えっ。そうだったのか!? 俺と友達になりたくて深淵の悪夢ナイトメア・アビス!?」


「うん……」


「分からん……けど、俺も嘘ついてたからおあいこだ。俺、友達一人もいねーんだ」


「えっ? だ、だって、君見た目いかにも陽キャって感じだし、最初『俺達』って」


「悪い! 『俺達』の『達』って、森の動物のことなんだ!」


「も、森の動物!?」


「すまん! 見栄張ってだまして!! 俺、実は人間の友達一人もいないんだ! 勢いだけで暑苦しい、うざい、空気読めってみんな離れてく」


(たしかに『!』を連発するし、いきなり『両親の仇取ろうぜ!』だもんなあ。でも)


「だけど、これだけは言わしてくれ!」


(うざくなんてないよ。嬉しかったよ)


「友達になろうぜ!」


「うん! これからよろしく!」


「お、おう! 今度ミッドナイト・パラダイス、見せてくれよ!」


「ナイトメア・アビスだよ! ってか、それないから、嘘だから」


「じゃあ、改めて! 俺はケン! 武器屋の息子! お前の名前は?」


「あ、う、うん。僕は……」



(終わり)

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