第48話 安心してください、穿いて……

 数秒の後、俺が離れると未だに硬直していたのか目を見開いた璃澄の顔が目の前に聳え立っていた。


 あ、そういう事か、所謂驚きのあまりに時が止まってしまったというやつか。


 だって仕方ないだろ。俺自身なんであんな大胆な事をしたのか未だにわかってないんだから。


 勿論俺達は以前に自分の本心を伝えあっている。でも突き合おうとか……付き合おうとかは言っていないので恋人関係とは違う。


 親友=幼馴染以上恋人未満というやつだと思ってる。


 正確にはおおよそ恋人未満というやつか。


 


「おーい、璃澄さんやーい。帰ってこーい。帰ってこないとスカート捲っちゃうぞー。」


 手を伸ばしてスカートに手を伸ばすと、摘まんだ裾とは別に璃澄の太腿の感触が親指の背に振れた。


「さ、流石にここでは恥ずかしい。」


 どうやら現実に帰還してきたようだ。焦点がやっと合ったような気がする。


「ちょ、いきなりは私でも吃驚だよ。ガラにもなく思考も行動も呼吸以外停止しちゃったじゃない。」


 俺が悪いのか?


「でもま……嬉しくないわけじゃないんだけど。」




「夕焼けに照らされた璃澄がとても綺麗で吸い込まれた。同じことは二度と言えない。」


「そ、そう。それなら仕方ないなぁもう。」


 璃澄がバンバンと痛くない程度に俺の肩を叩いた。


「観覧車で他の客から見られてないか心配はしないのか?俺は見られたら流石に恥ずかしいぞって、接吻した俺が言う事でもないけど。」



「これまでの事とか、雰囲気とかに持っていかれた感はあるけど、真生からの行動ってところに感動と感激を覚えてるから私はそれだけで充分。そこに恥ずかしさはもうない。」



「そか。」



「そういえば、さっき私を正気に戻す時、スカートを捲るとかなんとか言って……」


「気の迷いだ。」



「良いよ。でもそれは今じゃない。



 バスに戻る時、トイレに寄ろうと向かっていた。


 幸い他に誰もいない。ここだけ俺達だけのために切り取られた空間のようだった。



「ねぇ、真生。私達以外他に誰もいないし、さっきのアレをお見せしましょうか。」


 璃澄がスカートの裾を少し持ち上げてチラチラと太腿を見せてくる。


「良いけど、磐梯達もいるのに?さらに言うなら担任もいるのに?」



「スカート捲りくらいは大目に見てくれるでしょ。」


 痴女で変態の域にも潜り込む気か?そういうのはせめて二人っきりの時にするものでしょうよ。


 タッタッタと璃澄が俺の前に飛びだした。


 車椅子を押していた磐梯が歩を止める。


 璃澄が自分のスカートに手を掛けると……


「じゃぁ……はいっ!はいっはーいっ!」


 亀の仙人にパンツを見せた下着の名前を持つ16歳のように豪快にスカートを捲った。


 正面に車椅子に座る俺には茂呂美恵……モロ見え。


 後ろで車椅子を握っている磐梯にもモロ見えである。


 あぁそうだよ、モロ見えなんだよ。


 だがおかしいんだよ。


 パンツを見せるはずが!


 件の下着の名前を持つ水色の髪の16歳少女と同じ状況なんだよ。


 THU・MA・RI


 脱毛か天然かはさておき、一本筋がモロ見えなんだYO!


 幸い俺達以外の人間がいないけど!


 俺・磐梯・魔法・担任腐女子教師の4人にモロ見えなんだYO!


「ちょ、ちょっと久利さん。貴女……」


 担任の言葉が若干震えているのは怒りか驚きかは判断が付かないものだった。


「どしたの?」


 璃澄がスカートを捲ったままの状態で首を傾げる。


 その姿だけを見れば可愛いのだが……

 

「あーうん。お前感じないのか?妙にスースーするとか、風が直に当たるなとか。」


「そういや妙に肌寒いね……ってわきゃーーーーっ!」


 璃澄にしては物凄くきゃわゆい声を出したな。悲鳴は流石に作れないのか。


「み……見た?」


 頷く俺達


「綺麗……でしたよ?」


「羨ましいくらいにね。」


 魔法が宥めるように言い、担任が嫉妬交じりに続いた。


「まぁそのなんだ……昔と変わってないな。」


 それは天然・養殖はともかくつるつるだから、まともに見えてしまっていた事を物語ってるな。


「匂いフェチの変態でも、そこは当然の如く綺麗なんだなとは思った。」


 ついでに今後は露出狂の変態のレッテルも追加だな。



「あー、そういえば朝の露天に入った後、急いでたから穿き忘れたかもしんない。」


 朝食やらバスの時間を考えての共同露天風呂だったから、場合によっては慌ただしくもなるかもしれない。


 歩き辛い俺でもゆとりを持てるくらいの入浴だったはずだが……


 女子という事を考えてもゆとりを持っていたはずだが……



「女子会的な話をしてたから……時間が押しちゃって。」


 確かにノーメイクだったな。JKの二人はともかく、担任の教師までが。


 担任はバスの中でメイクしていたようだけどな。


 二人の前では言わないけど、璃澄も魔法もノーメイクでも充分に可愛い。



 それにしても、あーつまりあれか。あの観覧車でスカート捲ってたら、あの時には既にノーパソ……ノーパンだったのかよ。


 朝の露天風呂の時になぜ穿いていないんだ。


 女子3人一緒だったんだろ。おかしいだろ。普通の人はぱんつ……女子で言うショーツから穿くだろ。


 いくら時間がなくても、ナイチチのブラはしてるのに(おそらく)、なんで下は穿いてないんだよ。



 安心してください、穿いてますよ。と言ったら安心出来なかったやつじゃんか!


 百歩譲って俺一人しか見ていないなら良い。でも他の人間、ましてや男子がいるのに何やってんの?



 

「大丈夫だ。子供の頃に俺達は既に見せ合ってるではないか。俺は気にしていないぞ。」


 そういう磐梯だけど、それは本当に毛も生えていない程前の話だろ。


 小学校低学年の頃の話だろ。思春期を超えた年齢の話じゃないだろ。



「磐梯、お前。今晩自家発電禁止な。もししたら……オカズは璃澄でと亜莉愛ちゃんにチクるわ。」


 ぼそっと俺は磐梯に耳打ちすると、磐梯はやめろと念を押して返してきた。




「そんな姿になぜか嫉妬して悶々としてる睦月君と熱塩君がくんずほぐれつ……グフフフフ。」


 この担任はナニかを想像して勝手に悶えてやがる。本当にこんなのが高校教師で良いのだろうか。


 

「先生、だから結婚できないんですよ。」


「三次元が無理なら、二次元と結婚したらぁ!」


 左手の拳を右腕の肘の内側に打ち付けて、右手の拳を力強く握って意思表示をしてる担任が、なぜか逞しく思えた。


 黙ってれば美人なのに勿体ないなとも思った。


 

 


「それで……見た感想は?」


 おいおい、逞しいのがここにもいたよ。


「お前、俺以外に見られた衝撃はもう平気なのかよ。」


「減るもんじゃないし?それに衝撃なら、観覧車の中の時の方が衝撃だったし。まさか真生の方からしてくるなんてへへへえへへへへへへぇ。」



 壊れてんじゃねぇよ、これはこれで怖ぇよ。心なしか涎が見えるよ。



「今更なかった事にはならないし、どうせ未来で真生に使われる事になるんだし?」


 俺がナニかする事は決定事項かよ。ちょっとお下品ザマスよ?


「今更恥じらいを持っても遅いというのもあるかもしんない。」


 そこは恥じらえよ、JKだろ。JOKERじゃねぇだろ。



「散々見られたり触られたりしてる俺が言うのもなんだけどな?綺麗とか以前に吃驚仰天、『あ、パイパンだよ。』だぞ。」


 天然なのか養殖なのかと思った事は黙っておこう。




「とりあえず、トイレに行ってさっさとバスに乗ろう。集合時間に遅れたら大変だ。」


 その時は担任のポケットマネーで追いつくしかない。というか担任がバスに乗らないとかありえないけどな。


 点呼とか諸々必要だから、本来そういった事にはならないけど。





「なぁ、なんで車椅子の俺よりトイレが長いんだ?」


 先に済ませた磐梯、そして車椅子用トイレから出てきた俺。


 時期に魔法と担任が出てきたが、璃澄はそんな女子ふたりよりも5分程遅かった。


「遅かったけどどうしたん?」


 遅れてきた璃澄に、デリカシーを余所に俺は訊ねた。


「え、えーと。きばってた?」



「女子がきばってたとか言わない!しかも何故疑問形?」


 若干顔が赤かったので、大ではない事は明白だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る