第47話 意思を以って初めての……

「あぁ、本当にぷらんぷらんしてるな。」



「いや、だから磐梯、言い方!」


 磐梯が肩を貸してくれながら階段を下りていた。


 担任腐女子のセリフのままの状態である事は否めないが……


 あの言葉通り、朝方俺と磐梯は露天風呂へと向かっていた。


 ちなみに璃澄と魔法は何故か件の担任腐女子先生と一緒に女子側の露天風呂へと向かっている。


 心の内を少しだけ漏らすとすれば、磐梯も中々にご立派だ。本当に高校生か?


 

「俺達が女子風呂を覗く確率より、璃澄がこっちを覗く確率の方が高いな。」


「ついでに言うと、あの担任が自分の言葉通りになってる事を確認するために覗く確率もそこそこあるな。」


 タオルを巻いていると歩き辛くなるので、俺も磐梯も丸出しである。


 すれ違う他の利用者達も丸出しなのでそれが正解に違いない。



「半年前に比べて歩けるようにはなったんだけどな。やっぱりこういう場所は一人だと多分無理。磐梯のおかげで助かるわ。」



「ダチだからな、当然だ。それに璃澄ちゃんにも『ま、真生を頼む……GAKURI、コトッ』、と頼まれてるからな。」


 そんな10年以上も3号生やってる人がいるようなバトル漫画じゃあるまいし、言い方ってもんがあるだろう璃澄さんや。


 本当にコント染み過ぎだろう。


 尤もそのノリが璃澄や磐梯だったりもするんだが。








★以下、女子風呂内での出来事となるので人称が変わります。



「3人とも貧しいのは何かの陰謀を感じる。」


「何の事を言いたいのかはわかってるけど、それが教師に対して言うセリフかしら?」


「私は魅せる相手もいないから、比べる事もないですけどね。」



 璃澄が陰謀説を唱え、担任が反論し、魔法は何かを諦めていた。


 必要以上に泡を立てて身体を洗いながらも、互いの身体をチラ見しあっている3人の女子。(一部担任教師)



「この3人で貧乳乙女隊結成出来るね。」


「そういやそんなWEB小説ありましたよ。」


「色んなアプリやゲームのパーティや、クラン名でもそんな名前あったわね。ユーザー名までは覚えてないけど。」


 璃澄が突拍子もない事を言い出し、魔法が思い出した事を伝え、担任が趣味を暴露するかのように続いた。


 この担任教師、腐っていると同時に廃課金ゲーマーでもあった。


 給料の殆どはアプリに(一昔前は家庭用オンラインゲームに)廃課金をしていたのである。


 だから彼氏とのデートはゴミカスだと認識していた。


 せっかく付き合う事が出来ても、イベント週間や新ガチャが出るとそちら優先となる。


 当然男としては面白くないので、恋人関係が1ヶ月持たない事が多い。


 そのため、進んだ関係……大人の男女関係には至らないのであった。


 つまり貧乳乙女隊の乙女という文字は、ルビはそのままで18禁ゲームのように処女に置き換える事も出来る。



「あ~、一人くらいおっきい子がいてもみもみするのが輪姦学校や修学旅行の醍醐味なのに。」


「ちょっと……今林間学校がとても放送出来ない誤変換ニュアンスになってなかった?」


 担任教師がとんでもない事をぶっこんでいた。


 若干真面目側な魔法が、それに対して驚きながらもツッコミを入れる。


 

「あ~露天風呂ってなんでこんなに開放的なんだろう。ん?解放的が適切かなぁ。」


 女子3人が外に向かって仁王立ちしていた。


 チビ・デブ・ノッポだったら、メー〇ス三姉妹と呼ばれていたかも知れない。


 



★以下視点戻ります。





「真生ってロリコンだったの?」


 バスの案内で午後には白浜に到着。再び自由時間となった俺達は、温泉ガールにちなんだ場所へと赴いていた。


 パネルの撮影、グッズの購入。林間学校ってなんだっけ?というくらいに満喫していた。


 白浜の温泉ガールの身長は低く、容姿も幼く見えるので璃澄は人の事をロリコン呼ばわりし始めているのだろうな。



「整形でロリにはなれん。私、勝てん!」


 璃澄は何を言っているのか……


「璃澄は璃澄のままで良いんだよ。」


 その言葉に嘘はない。変態だけど璃澄はそのままが良い。


 キャピキャピしていたり、しおらしかったりするのは何だかむず痒いだろうな。


「そ、そう?えへへ~安心するぅ~」

 

 若干幼児化した璃澄が顔を埋めて……


「くんかくんか、すーはーすーはー。落ち着く……」


 自分らしさとやらをアピールしてきた。


「それと匂い嗅ぎは別だろう。璃澄のままとは言ったけども。」


 磐梯が呆れて見ている。暫く磐梯に車椅子を押してもらおうか。



 いや、しかし女子二人できゃぴきゃぴされたら、ある事ない事シモの話までが神代魔法にまで知られてしまう……かもしれない。


 具体的にはトイレや風呂等、とても放送出来ない内容が含まれているんだよ。


 だからこそ、璃澄には傍にいてもらわなければならない。


「それで、あと何か所回るの?」



「アドベンチャーワールドでパンダと触れ合う!」



 岬での良い景色との写真撮影の事は軽くスルーしておく。


 何故か等身大パネルに嫉妬する璃澄が面白かったとだけ。


 だからこそその後のくんかくんかだったんだろうけどな。



「真生、あのパンダにお湯かけたら……」



「眼鏡かけたおっさんにはならないからな!?」



「動物園のパンダが、みんな水を被った後の姿だとでも思ってるのかねこの幼馴染は。」



「お湯をかけたら美少女になるかも?」


 一歩拗らせた魔法がとんでもない事を言い出した。


「世の中は美少女と美男子でナンボよ。有象無象のモブに光はあたらないのよ。」


 何故か付いてきている担任が自虐をぶち込んできた。自分に恋人がいないのはモブだからと自白していたようなものだ。



「パンダが元おっさんとか元美少女とか、そんなん漫画の中とかだけだから。」

  

 


 一通り動物のエリアを観覧すると、次は遊園地コーナーへと向かった。



「高校生にもなってメリーゴーランドに乗るとは思わなかった。」


 俺は一人では無理だから、璃澄と一緒にかぼちゃの馬車に二人乗りだったけど。



 

 最後に観覧車に乗る。


 4人一緒に乗れば良いのに、俺と璃澄、磐梯と魔法がそれぞれペアと言う名の密室空間。


 俺の方は言わずもがな、そして磐梯達も二人っきりにすると何かが起きそうな予感。



「ありがとな。今日の最後の構成、璃澄のおかげだろ?」


 中学に入る前から家族で遊園地とかなかったからな。


 こうして周りを気にせずに、はしゃげていた想い出は正直なかった。


 俺の身体では乗れない遊具が多かった。だから恥ずかしくてもメリーゴーランドという選択肢を取ったのだろうな。


 璃澄が驚いた表情をしているな。まさか自分が計画したって事は内緒だったのか?


 観覧車が天井に到着しそうになると、夕陽が俺達を照らしてくる。 


 夕日に照らされた璃澄が可愛いだなんて、口が裂けても言えないな。


 夜景とか夕陽とか、海辺とか浴衣とか、紺色ブルマーとかメイド服とか、そそる場面とか衣装ってあるだろ?



「璃澄もこっちきて同じ景色を見よう。」


 俺は隣の席をポンポンと叩いた。


 璃澄が向かいの席から立ち上がると、若干観覧車が揺れたような気がする。


 決して璃澄が重いとかそういうわけではなく、あくまで重心が変わったからだと言いたいだけだ。


 心の中なのに俺は誰に言い訳をしているんだか……


 妙に汐らしく橙色に染まった璃澄の頬が艶やかしい。



「ヲイ……」


 隣を指したのに、璃澄はあろうことか俺の腿の上に座ってきやがった。そのせいで真正面に璃澄の顔があった。


 璃澄は俺に座ってはいるが、俺の腿にに体重をかけてはいない。どこにそんな筋力があるんだか……


 所謂空気椅子状態に軽く璃澄の尻と俺の腿が触れているという事だ。



 さっきの夕陽のオレンジ色にやられたせいか。


 これまでの璃澄に対する想いのせいか。


 ブラックホールに吸い込まれる宇宙の屑のように。


 俺の唇が璃澄の唇に吸い込まれてしまった。


 いや……璃澄、目を閉じろよ。こえーよ。

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