第45話 事件(夫婦漫才)は密室(新幹線)で行われている

 新幹線には在来線の一部にも存在するように、車椅子用のスペースが存在する。


 真生の座席は有無を言わせず即決定。そして本来二連で並ぶ座席の片方である、車椅子スペースの隣には座席が一つ存在している。


 車椅子スペースは決して荷物スペースではない。


 真生の定められた隣の席は、これまた当然決められた存在久利璃澄が鎮座していた。


 いや、正座していた。



「あの……反省したのでそろそろ普通に座っても……」


 璃澄の腿には黒い頑丈なベルトが巻かれており、両手は後ろに縛られていた。


 まるで解き放ってはいけない猛獣のような扱いを、席上の璃澄は受けていた。



 何故璃澄が正座しているのか。





 新幹線に乗り込んだ真生の車椅子を、車輪のロックを掛けた後の事。


 全員の点呼が終わると教師は去って行った。


 なお、同じ班である磐梯と魔法の二人は真生達の前列に座っている。


 180度席を反転しているので向かい合わせで座っていた。


 


 新幹線は東京駅を出発し、既に新横浜を超えているため、名古屋駅までは途中で止まる事はない。


 静岡県には失礼であるが、☆崎希望スターざきのぞみは……のぞみは静岡の5駅は颯爽と通過していくのである。

 

 つまりは新横浜以降約1時間は、新たな乗客移動がない事が分かっている状態だった。(トイレ移動の生徒は除く)


 もっとも、40人1クラス、全8クラス+教師陣が乗車しているため、貸切ではないがほぼ真生達の学校の生徒で埋まっているため他の乗客の心配は抑が不要でもあるのだが。


「早目のおやつをいただきまんもす~♪」


 死語を交えながら、璃澄は真生の前に跪いて股間の前に顔を差し出す。


 そしてそのまま顔を……


「すぅ~はぁ~、すぅ~はぁ~、くんかくんか……」


 先日話していた真生の匂いおやつを頂いていた。


 流石に制服のズボンのチャックを下ろしたり、ぽろりはしていない。


 あくまで【制服越しの真生の香り】をおやつとしていたのである。



「うわ~、本当にやってるんだね。」


「俺はもう見慣れたよ。制服越しなだけまだマシだと思うぞ。」



 魔法と磐梯がそれぞれ興味深そうに、呆れたようにそのおやつタイムを見せられていた。



「あばばばばばばばばばば……」


 真生は璃澄のこめかみを左右からぐりぐりと捩じっていた。



 璃澄の口からは、女子高生が出してはいけない声と表情を上げて悶えていた。


 それはそれで倖せを感じている璃澄であるが、後ろ姿しか見えない磐梯達には恍惚な表情までは見えていない。


 通路を挟んで隣の席の生徒達も、「夫婦漫才が始まったか。」と真生達をジト目をしながら覗いていた。





 その後璃澄は正座をし、太腿と足首が離れないようびっちりと絞められていた。


 力の入らない右半身も駆使しながら、よくも璃澄を拘束出来たものである。


「真生……これどこで購入したのかな?」


 真生はその言葉には答えない。


 既に璃澄を拘束する太腿にはベルトが巻かれて、太腿がボンレスハムのように肉に喰い込んでいる。。


 ただし、これは普通のベルトではない。


 高校生が基本的にはお目に掛かる事のない、大人のおもちゃ屋に売っているプレイ用のベルトである。


 なお、ベルトには鍵が掛かっており、その鍵は真生のポケットに収納されている。


「円滑に林間学校を進め、円満に林間学校を終えるための必要な処置だ。璃澄、大体最近エロが過ぎるぞ。強制送還公開停止されたいのか?」


 今の真生が行った処置はどうなんだと、ツッコミを入れるゆとりは璃澄にはなかった。

 

「真生って意外と鬼畜……放置・被虐・羞恥・お漏らし我慢で私を責めるなんて……」



「大丈夫だ。俺は何度もお前に洗われた。」


 それは一概に漏らしても良いぞとも受け取れる発言だった。


 その様子を見ていた磐梯が口を開いた。魔法は少し顔を赤らめて璃澄の状態を眺めていた。


「今ならスカート捲りたい放題だな。」


「よし、磐梯。お前次の駅で降りろ。」


 エロがNGなのか、人の幼馴染にちょっかいかけようとしたのがNGなのか。


 真生のスイッチの入り処もまた、誰にもわからなかった。



「ねぇ、真生……ちょっと身体が痒い。掻いて?」


 璃澄は身体をモジモジとくねらせている。


 なお、璃澄は足だけではなく両手も後ろで拘束されていた。その鍵もまた、真生のポケットに収納されている。


 璃澄は先程から身体を動かす事で布擦れを発生させて搔いているようだったが、それだけでは収まらないようだった。


 何故か若干顔を紅潮させてもいた。


 何かを察したのか、向かいに座る磐梯と魔法はニマニマと半笑いをして何かを堪えているようだった。


「ん?どこが痒いんだ?」



「っぽい。」


「は?」


 上手く聞き取れない真生は、もう一度説明するように璃澄に促した。


「っぱい。」



「なんて?」


 二度目の言葉も上手く聞き取れない様子で、さらに聞き返す。


「おっぱい!」


 璃澄は力強くはっきりと真生の目を見て答えた。


 その言葉に一部の生徒が真生や璃澄の方に視線を向ける。


 また夫婦漫才が始まったよ……という視線を。


「お前おっぱいないだろっ!」


 ボグっと真生の胸元に核弾頭リズの頭が突き刺さる。


 一部の男子の好奇な視線と、一部の女子の若干憤怒の視線が真生に突き刺さる。



「ちょっとはあるわいっ!」



「出たよ、名物夫婦漫才。」


「いいぞ、もっとやれー。」


「ただ、それ以上は部屋に着いてからなー。」


「文字通り着いてから突いてなー。」



 周囲の悪ノリが乗っかっていた。


「おまいら……俺の肋骨を心配しろし……」




「真生のおぱーいのかほり……」


「んごっ」


 真生は璃澄の顎に掌底をかましつつ、頬掴んだ。


 璃澄の唇が縦に開いて、とても周囲に見せられないJK顔となっていた。



「開口マスクとギャグボールも買っておくんだった。」



「いや、勿体ないな。シマスリテープでぐるぐる巻きで良かったか。」


「それは流石にやめて?髪の毛が大変な事になっちゃう。」



「大丈夫だ。少しくらい髪がなくなっても俺は璃澄を見失ったりはしない。」


 そんなやりとりをしている間に、新幹線は富士山が見える景色は颯爽と流れていく。


 他の生徒の一部はそれを見逃す事はなく、窓越しに撮影などしていた。


「ねぇ、真生……私違う事に目覚めちゃいそうかも知れない。」


 璃澄は若干脂汗を浮かせていた。先程までのおちゃらけた余裕は今の璃澄からは感じさせていない。


「あ、確かにりっちゃん何かに耐えてそうだよ。」


 向かいの席から魔法が心配そうに見ていた。


 魔法は璃澄の事を「りっちゃん」と読んでいた。同じように璃澄は魔法の事を「ノリちゃん」と呼ぶ。


 これは林間学校を同じ班で回る事が決まった時に、二人で決めたことである。


 せっかく仲間になったのだから、少し距離を縮めて仲良くやって行きたいという意見が出たからである。


「どうした璃澄……さっきよりモゾモゾとしてるけど。」




「神様仏様真生様……拘束を解いてください。マジでお願いします。」


 神妙そうに機械染みた動きと共に、璃澄は真生に懇願する。


「両方漏れてしまいそう……」



「璃澄……一応君は女子高生だからね。もう少し言い方……」



「言い方でお腹と膀胱が収まってくれるなら可愛く言ってやるわよっ。二人っきりならお漏らしそれもアリだよ。公然と洗って貰えるしねっ。」



「でもここは流石にみんなの目と耳と鼻があるので……勘弁してください。マジでトイレに行かせてください。」



「おおしっこと、おう〇こがもう限界です。」


「両方に【お】を付ければ良いって問題じゃないだろ。」


「ダイベンジーとショウベンジーが開門を要求しております。」


「外国人風に言えば良いって問題でもないだろ。」


 そう言いながらも、真生の手は動いていた。



 右半身の影響で、本来の動きの半分未満でしか行動は出来ていないが、どうにか璃澄の拘束を解いていた。


 前身身軽になった璃澄は、開門してはいけないと、お股を閉じながら、膝から下だけの動きでそそくさと席から離れていった。


「ぎゃーす。足がっ、足が痺れっ」


 漏らすよりはマシと璃澄は生まれたての小鹿のような動きでトイレを目指して車両から消えた。


 幸いにして現在車両から直ぐ後ろに、お目当てのトイレは複数存在していた。



「あまり璃澄ちゃんをいじめてやるなよ。これまで散々世話になってるんだし。」


 磐梯からのダメ出しが真生に入る。



「いや、別にいじわるってわけでもないんだけど。幼稚園の頃は散々俺が片付けてたわけだし。」



「そういう過去もあったけども……まぁいいか。無事……間に合ってるといいな。」



「間に合ってなかったら……他人の振りしよう。」


「おまっ。」



「冗談だ。本気でいじわるするなら、会話しながら拘束を解いたりはしていない。」


 真生には璃澄の限界が何となく理解出来る。それだけ長い付き合いをしているわけではない。


 限界が近いのは事実だが、トイレまで間に合わないという事はないだろうと踏んでいた。


 トイレに10人くらい待ちが発生していて、「最後尾はこちらではございません。」のプラカードでも出ていない限りはである。



「でもま、もし間に合わなかったら責任は取るさ。


 どのような責任なのかはさておき、ちらりとトイレのある車両後部の先を見据えている真生である。


 やがて10分程度の時間が経過すると、ふらふらの璃澄が座席に戻って来る。


「間に合わなかった……」



「は?」



「だから、間に合わなかった。」



「それって……」



「あ、いや正確には大小云々は間に合った。」



「ん?じゃぁ何が間に合わなかったんだ?」



「真生の鬼畜言葉攻めプレイにぬるぬるが間に合わなかった。」


 トイレに到着した璃澄は下着を下ろした時に、何やら若干糸引きしたものを自らの視界に捉えていた。


 それは自分の股間とショーツの間に走っている細い透明な糸であった。


 璃澄はそれが何なのかを理解し、羞恥した事による油断をしたところで全ての堤防が決壊した。


 幸い飛散による悲惨な飛び散りオウンゴールは発生しなかったものの、乙女のトイレとしては散々な状態が広がっていた。


 マイ消臭剤を持参していた璃澄は臭いによる残骸痕跡を少しでも消すために、撒きまくった。


 しかし混ぜるな危険とは、何も洗剤だけに限った事ではなかった。


 今頃トイレの中は、様々な匂いが混ざった危険が漂っている事だろう。


 流石にそこまでは璃澄の与り知る事ではなかった。


「やっぱりもう一回拘束しよう。今度は身体ごと拘束しようか。」



「やめて!?第二波とか襲ってきたら大変だから!」



 他の生徒はトランプや話に夢中になっているというのにも関わらず、まだ名古屋にも着いていないというのに、既にくたくたな真生達の班一同であった。


 

「夫婦漫才ご馳走様です。」


「ご馳走様でした。」


 向かいの席の磐梯と魔法が両手を合わせて拝んでいた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る