第44話 バナナはおやつに……

「宿題の提出も後は各教科毎だから今日はもう終わりかな。」


 1ヶ月半近い長い夏休みが終わり……お前誰だ?というクラスメイト達も若干いた。


 ぽっちゃりだった子がめっちゃ可愛くなっていたり、ひょろ眼鏡が細マッチョイケメンになっていたり。


 黒ギャルが白ギャルになってたり、イケメンがぽっちゃりしていたり。


 それぞれ夏休みを満喫したんだなという事が伝わってきたのは間違いない実感だ。


 俺や璃澄のように、見た目じゃ変わらない人達が大半だけどな。


 大体の人が僅かながらも日焼けをした後があるあたり、海やプールや同人誌の即売会等に行ったんだろうなという事がわかる。



 校長先生の長い話を聞き終え、宿題を提出しホームルームも半分が終わった。



「それじゃ、二学期始まって早々だけれど、林間学校がもうじきに迫ってきてますので、一学期に決めた班割と役割りを思い出してくださいね。」


 一学期が終わる少し前、林間学校の班編成が行われた。


 俺はこんな状態だから参加そのものを辞退しようかとも考えたが、せっかくの学校行事の想い出になるのだからと説得されて参加を決めた。


 当然ながら班員は璃澄と磐梯が組み込まれている。


 これは俺の対応をしなければならないという面が強い。


 何かあった時の対処というのは、これまで慣れ親しんだ人間の方が幾分やり易いのだろう。


 こういう状態だから、山を歩くとかは免除されるようだけれど、時間と距離を要するもの以外は極力参加という事になっている。


 あと、これは極秘だけれど、風呂は璃澄が介助する事も教師陣は納得して許可を得ている。


 その際璃澄は全裸にならない事、股間は自分で洗う事を約束させられていた、璃澄が。


 俺は自分一人で良いと言ったのだが、璃澄が猛反対。


 俺の入浴介助をさせてくれないなら、次の生徒会に立候補して演説で性別平等についてある事ない事説いてやると、ある意味教師陣を恐喝するような事を言い出したための折衷案であった。



 もちろん他の生徒には内密の話だ。気付いたり察したりしているかもしれないが、磐梯ですら知らない事である。


 入浴は一人でする事とし、教師が脱衣所で待機してその教師立ち会いの元という体になっていた。




 例によって林間学校が輪姦学校にならなければ良いな、なんてアホなネタの思い付きはさておき。


 行き先は林間学校ではありきたりかもしれないが、京都と奈良に行く事になっている。


 沈んでいた時の俺であれば清水の舞台から文字通り飛び降りてしまったかもしれないが、もう俺にそういう闇の部分は殆ど存在しない。



「京都のアニメ専門会社に寄ってみたいよな。」


「京都といえば新劇の大巨人の歌っている人のギターを作ってるとこがあるでしょ、そこに行ってみたい。」


「あぁ、響くユーフォリアで主役やってる声優の子役時代に、舞台として参加した楽団でしょ。少し興味ある。」


 同人からプロになった音楽集団で、初期からいるのは男性二人だけで後はメンバーが変わったりして続いている。


 同人時代の逆再生等はもの凄く神掛かっていて、数年後に出すアルバムまでを見据えた一つの壮大な物語となっている事でも有名である。




「いや、お前ら。京都や奈良に行くのに神社仏閣や城の一つも廻ろうとは思わんのか。」

 

 ちなみに磐梯、神代、璃澄の順で発言し、俺がツッコミを入れた一連の会話。


 神代というのは、神代魔法こうじろまのりという、我らが4人班のもう一人の女子である。


 恐らくは両親どちらか、もしくは両方が若干中二病を患っている。


 文字だけで見れば「神代魔法」とか、ありきてる職業のチート魔法みたいじゃないか。絶対中二病患者だろ?


 神代自身初めて見た時から何故か腕に包帯巻いてるし、眼帯はしてないけど。


 実際皮膚が弱くて搔きむしった痕を隠すためだと、少し前に本人から聞いた。


 女の子に何言わせてんのと璃澄にちょっとだけ怒られた。



 実を言うと、神代は磐梯に気があるようだった。


 しかし磐梯は、二年に上がってから再会した亜莉愛とカポーになったので、神代は一応は身を引いている。


 それでも友人関係は壊したくないと、精一杯の贅沢と称して俺達の班に入る事になった経緯がある。


 林間学校にワンチャンは考えてはいない、しかし写真くらいは考えているらしい。


 想い出作りくらいは別に良いんじゃないかとは、個人的には思うよ。親友としてどろどろした展開はいらないけど。 



「磐梯、そういやお前林間で間違った事するなよ。亜莉愛ちゃん、ひょっとすると学校休んで後をつけてるかもしれないぞ。」



「あぁ、それな。泣きの土下座で貞操帯だけは勘弁して貰ったわ。全員で風呂に入るのに流石に勘弁してくれって懇願して。」



「なんだよ、もうヤンデレの片鱗を発揮してるのか。」


「いや、ヤンデレではない。ただの束縛だ。良い言い方をすれば超一途だ。」


「あんまり変わらないだろ。」



「手を出しまくるイケメソとかが輪姦学校にしてくれなければ良いけどな。サッカー部のあいつとかバスケ部のあいつとか。温泉研究部のあいつとか。」


 固有名詞こそ出さないが、モテるやつはモテる。それは昨年の秋頃からまともに通学するようになってから気付いた事である。



 二股とか三股とか色々噂も聞いている。まぁ人が言っている事だからどこまで本当かはわからないが。


 


「男子達が風呂を覗いて学校へ強制送還、場合によってはウエルカム鑑別所とかは勘弁してほしいよな。」



「俺の場合は璃澄に嬌声突撃……違う。矯正突撃……でもない。強制突撃されそうで怖いけどな。」



「せっかくの想い出作りの場でもあるんだから、退場させられるかもしれない事はしないって。どうせ帰ってから……あ、でも普段と違う場所ってところに萌えがあるのかも。」


 いや、璃澄なら何をしても案の定で済ませられそうで怖いんだよ。守れ、俺の貞操!


「一応名目は課外学習だからな?忘れてるかもしれないけど。」



「そういや、今時おやつに1000円は安いよな。どうせ現地で色々買い食いとかするけどさ。」



「真生先生!バナナはおやつに入りますか?」



「俺の股間を見て言うなっ!」


「真生先生!練乳たっぷりバナナはおやつに……」


「夫婦漫才だね。」


「夫婦漫才だな。」


 神代、磐梯と呆れているが、俺も呆れてるんだよ。


【安定の璃澄】


 もし中二病が発症し、璃澄に二つ名をつけるとすればこれしかないな。

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