第43話 お前は今まで見たはみパンの枚数を覚え……
「で、お前らは花火大会の日、ナニしてたん?」
病室のベッドから上半身だけ起こして俺は訊ねてきた磐梯に問いかけた。
俺達が花火を見ていたあの日、磐梯と亜莉愛の二人は夕方からどこかへ行っていた。
夏祭りを楽しんで花火を見ていたんだろうなとは思っていたけど、その通りの行動を取っていたようだ。
「花弁大回転してました。」
両手の拳を腿に置いて磐梯が答えた。
「童貞喪失おめでとうと言えばいいのか?」
この場には俺と磐梯の二人しかいない。
璃澄は家庭の事情なのか、まだ来ていない。
だからこそ、男の会話が出来るというわけでもある。
花火大会の後、どこでかまでは聞いてはいないが磐梯と亜莉愛の二人は大人のお相撲を取っていたようである。
「俺寄り先に卒業しやがって。あ、ちなみにきもうとのはノーカン。俺の中ではノーカンだからな。」
「お、おう。」
流石に磐梯もどう返して良いのかわからないだろう。下手に言葉を紡がれるよりはそうやって適当に流してくれた方がありがたい。
なんせ俺も更に返す言葉とかは持ち合わせてはいないのだからな。
「あのな。ヤンデレっぽくてきついイメージかなって思ってたんだけどな?」
「そうでもなかったんだよ。これが先輩後輩が恋人になったプレイ?みたいな。典型的なバカップル初花弁大回転だったんだよ。」
「あぁ、そうなんだ。花弁大回転って言い回し、璃澄と同じだな。あいつも花火を見ながら『花火ら大回転』とか言ってたんだぜ。」
「言って良いのかわからないけどさ。結構璃澄ちゃんが相談してくるんだよ。男子はどうすると喜ばれるのかとか、真生がどうすれば性的に喜んでもらえるのかとかさ。」
「そんなのは一番付き合いの長い璃澄ちゃんの方が分かりそうなものんだけど、やっぱり異性だからツボというものまではわからないみたいなんだよな。」
「とりあえず、紺色ブルマーとはみパンを直す仕草がツボだとは伝えておいた。」
何俺の性癖暴露してくれちゃってんの?ってかソレ多分磐梯が言わなくても既に知られてる事だとは思うよ?
「以前璃澄の荷物の中身、ちらっと見えた事があるけどさ。確かに忍ばせてあったよ。病室で流石にそういう恰好にはなってないだけまだ良識があるのかもな。」
最後の良心みたいな言い方になってしまったけどさ。でも持っては来るんだよな。
「それで?お前らは花火を見た後に彼女の花火を見て連発花火をしたと。」
「しっぽりとな。枯れてしまうんじゃないかと思ったよ。細かい事は想像に任せるが。」
他人のプレイ内容を詳細知りたいとは思わんよ。
「まぁ5回や6回じゃない事はわかった。」
「浴衣をあ~れ~ってやるの楽しいな。」
はいはい。時代劇風のお笑いみたいで良かったね。
「制服脱がしたりも楽しいな。」
わざわざ色々着衣プレイもしたのかよ。ってだから詳細は良いって。
「靴下のみってのも悪くないな。」
それは一昔前のAVの見過ぎだろう。
「それで、磐梯は夏休みの宿題は?」
「ちょめちょめしたかったからもう終わらせたぞ。一ヶ月あったんだから日々やってれば終わるだろう。」
「まぁ、確かにそうだな。積み重ねって言うしな。真生は宿題同じなんだっけ。」
「宿題は同じだな。実際きつかったぞ。シャーペンまともに握れないから。」
特別にパソコン入力と出力を認められてはいたけど。
そのせいか俺だけデータっていう恩恵ではあったけどな。
でもリハビリを考えて、3分の1は手書きにした。
「ちょっとした事でもリハビリにって考えるのは凄いな。」
「璃澄にも色々手伝って貰ってるからな。俺だって甘んじて受けてるだけじゃいけないし。」
自分でチャックを下ろしたり、ちょっとした物を持ったり握ったりもう少し色々出来るようにはなりたい。
「利き手で指〇ン出来るようにはなりたいだろうからな。」
「ヲイ磐梯。エロい言い方すんなよ。左手でも出来るよ……多分。したことないからわからんけど。」
一通り夏休みの出来事を話合う俺と磐梯の男衆二人。
尤も、宿題と花火大会と色恋話が終わるとネタに尽きてしまうのだが。
「真生の様子も確認出来たし、俺はそろそろ帰るよ。明日デートとか色々あるから。」
早めに帰って体力と精力を温存というか快復させたいのね。
磐梯が帰ると、理学療法士の先生と一緒にリハビリに専念する。
まだまだ思うようにはいかないけれど、春先と比べると良くはなっている。
正直前身しているのがわかって、少しだけれど救われた気分ではある。
そしてリハビリが終わり、昼食が入り、午後のリハビリが終わると璃澄が若干の荷物を持参してやって来た。
「磐梯の惚気を聞かされたよ。」
「奇遇だね。私もちょっと前に聞かされたよ。もげろって思っちゃったよ。私がまだ未経験なのにぃ。」
璃澄がミニ机を組み立て、持参した荷物から何やら見覚えのある書籍やノートを取り出して並べ始めていた。
「いや、普通に考えて病室でそういう事はしないからね?看護師との官能の世界とかは二次元の話だからね?」
「やっぱり温泉旅行の時に押し倒しておくんだったよ。」
「旅館とかもそういう事する場所じゃないからね?」
「それは退院初日を狙えと?それでも良いけど。」
一応相思相愛だというのは分かっている。だから本来は恋人という関係にステップアップしていいのだ。
それでも恋人という関係を口に出して肯定しないのは、本当の意味で性について俺が何か嫌悪でも抱いているのではないかと璃澄が思い込んでいる事だ。
だから下ネタやズリネタは提供しても、本気で性的に襲い掛かる事はない。
倖の強姦のせいで、何だかんだ歯止めを聞かせて璃澄が遠慮をしているのだ。
荷物を出し終えたのか、何やら決意した璃澄が両手を広げてウソ泣きで近付いてきた。
「まおえも~ん。宿題手伝っておくれ~。」
磐梯は既に終わったと言っていた。俺も大方終わって後少しというところだ。
なのになぜ璃澄は人に手伝いを求めている程宿題が残っているんだ?
いくら俺にほぼ付きっ切りだと言っていても、24時間というわけじゃない。
それと、意外な事に夏休みだと言うのに毎日付き添い宿泊をしているわけでもない。
つまりは宿題をする時間ならば、ないわけではないのだ。
「手伝ってくれたら私の初めてをプレゼントしてあげ……」
「そういうのは気持ちやタイミングが大事とか言ってなかったか?」
「別に前とは言ってないよ、後ろカモしれないよ。」
「どっちにしてもだ!少しエロから離れようか。」
「実際タダで手伝って貰うってわけにもいかないじゃん?」
「いや、お前頭は良いんだから時間あればすぐ終わるだろ。」
正論で返してやった。どうだ、ぐうの音も出まい。
「共同作業で終わらせたいという幼馴染心がわかって貰えない!?」
「それは言い方を変えれば、一人では面倒だから分担すれば早く終わってラッキー……としか聞こえないぞ。」
その後俺は正論を畳み掛けた。その結局、分担はしない事になった。
理由は簡単だ。データでの提出が認められているのは俺だけだ。
そして肝心の手書きだが、握力が弱い今の俺が書いた文字は、あからさまに璃澄のものとは異なる。
ミミズのような字とまでは言わないが、拙いし筆圧も弱い。
つまりは誰か他の人が宿題をやった事が一目瞭然となるからだ。
「つい最近、俺のシャツとパンツが一式なくなったんだよな。俺はそれの探索を放棄する。」
その一言で何故かやる気を出した璃澄。
これだけで、紛失したのは璃澄が犯人と言っているものなのだが。
俺が放棄したという事は、完全にもう璃澄のものという事になる。本当に癪だけどな。
俺は璃澄のやる気スイッチを押すために、使用済みの下着一式を諦めたという事になる。
璃澄は俺のリハビリを手伝いながら、それから3日後には残った宿題を終わらせた。
「一人でヤりきったよ~何かご褒美ちょうだい~。」
ベッドに上半身だけ起こしている俺の真横に頭を差し出し、両手を広げた身体で『T』の字を作り、さらには布団に鼻をくっつけ何やら匂いを嗅いでいる……ように見える。
仕方ないので、後頭部が露出している璃澄の頭にゆっくりと右手を添えて、拙い動きながらも撫でてやった。
こうした気取らない普段通りの璃澄の態度が実は助かったりもするんだよな。
下手に気を使われた方が、自分の現状に対して卑下したくもなってしまうから。
エロ過ぎるネタを投下されると戸惑いを隠せないのは事実だが、こうした幼馴染の行動や言動は実は大分活力になっていた。
「ナデナデなんて久しぶりだね。すーはー、すーはー。生き返るよ~。」
間のすーはーがなければ恋人や友人の何気ない会話なんだがな。
「はい、あ~ん。」
18時となり、夕飯が配膳されてきた。
上半身を起こし、食台を組み立てる。
夕飯が台に置かれ、看護師が退出したところで璃澄が「あ~ん」攻撃をしてきたのである。
「いや、リハビリも兼ねて自分で食べたいんだけど。」
「あ゛~ん?」
少しヤンキーっぽかったぞ、今の「あ~ん」は。
分かったよもう。
「あ~ん。」
リハビリを口にしたからか、二口めからは自分で食べる事に。
こうして同じような事を繰り返し、夏休みは終わりへと近付いていく。
「風強いけど、登校する?」
そうこうしているうちに新学期が始まる。
一応リハビリの一環として登校が許可されているので、病院通学を継続している。
もう8ヶ月くらい続けているこの生活も、そろそろ終わりを迎えようかとしていた。
通学が大丈夫であれば、リハビリのために病院へは通院する事として、自宅で生活しても大丈夫だろうとは判断されていた。
ただ、通院するのが大変だったりするだろうなというのと、自分のせいで他に入院患者がいた場合入院出来なくて申し訳ないなという思いで揺れているのは事実だ。
「登校する。」
「いや~ん、まいっちんぐ♪」
強風が璃澄を襲い、スカートが綺麗に捲れてその中が俺の目に入ってくる。
「なぜ紺ブル!」
「み~た~な~。」
「見たいなら見たいって言ってくれれば真生にならいつでも見せるのに。」
そういってわざわざ俺の前で後ろ向きに立った璃澄は、自分でスカートを捲って左右の人差し指を紺ブルの裾に突っ込んだ。
そのまま下側から上側に向かって添わせて動かしていくと、上側まで言った所で「パンッ」と勢いよく指を抜き、紺ブルの裾から見えていた白い布を中へと収納させていた。
「真生がはみパン直す仕草が好きだと聞いて!」
磐梯情報が役に立ったな!どうせ知ってたんだろうけども。
「パンはパンでも食べられないパンは?」
スカートを戻した璃澄が俺に問いかけをしてくる。
「はみパン!って何言わせんだよ!」
「真生は今まで見たはみパンの枚数を覚えているのかい?」
流石に覚えてないよ。最新のはみパンは先程のだけど、どうせ態と作った『見せはみパン』だろうけども。
「登校するなら早くした方が良いですよ。」
見送りに来てくれていた月見里看護師が、何を見せられてるんだとジト目で送り出してくれたのである。
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