第42話 花火ら大回転

 ぱんぱららん、ぱんぱぱぱぱらんっ……つ♪と花火が弾けると音が届く。


 

「やっぱり連発は見ていて気持ちが良いね。スカっとする。」


 色とりどりの花火が弾ける様子を俺達は屋上に解放された花火閲覧スペースに来ている。


 結局祭にはいかず、病院が解放している花火閲覧場所を利用させてもらっていた。


 磐梯達は祭に行っているのか、この場にはいない。


 態々浴衣姿を見せに夕方病院に立ち寄ってはいたけれど。




「綺麗に咲いてるね~。」



「咲くとか……まるでバンギャみたいな言い方!」


 両手を広げて〇〇様~と行う振りをバンギャの中で「咲く」と言うらしい。


 ビジュアル系バンドのファンをしている、同級生女子から聞いた話だ。


 

 

「花火ら大回転だね。」


 連発で開く花火を見て璃澄が突拍子もない言葉を呟いている。


「何かいま、区切るところというかニュアンスがおかしく感じたんだけど?」



「気のせいだよ。そりゃ私の花火ここを見たら花弁はなびら大回転だろうけどね。」


 亜莉愛に倣って璃澄も浴衣を着ている。璃澄が浴衣の裾をチラっと捲って太腿から下が俺の目に映る。


 直ぐに戻したので他の人の目には触れていないと信じたい。


 俺の介護をしてくれる献身的な幼馴染は、物凄い痴女というレッテルを貼られていないか本気で心配だ。


「だから言い方、そしてなぜR18に登場する男主人公みたいな言い回しばかりするんだ。最近お前エロに磨きが掛かってるぞ。キャラブレてるぞ。」



「献身的で幼馴染思いで匂いフェチなだけじゃダメだと思ったんだよ。」


 それでエロを押し出すのは正解とは言い難いだろ。可憐で純情な乙女……はこのご時世天然記念物かもしれんが。



「ちっちっち。今時高校入学した時点で経験済みなんて、ステータスでも何でもないの。もちろんその反対で純情だとか一途なんてのも時代遅れよ。VHSどころか8mmビデオよ。」


 カラカラ回ってるとでも?俺はお前のその思考に頭がカラカラ回っておるわっ。


「3.5インチフロッピーディスクどころか5インチや8インチを超えて磁気テープってか?」


 俺の返しもどうだろうか。古臭ければ良いというわけでもないだろうけど。


「ちんちって……真生こそえっちぃ。」


 

「インチな。」


 どもると確かに「チンチ」と発音してしまいそうだけどな。


 下らないやりとりをしている間にも、花火は打ち上げられては華開いていく。


 高校生が盛ってやがるなと見透かしているかのように、高いところから俺達を見ているようにも見えた。




 ひゅるるるる~と打ち上げられる音が耳に入ると再び花火が咲いていく。



「綺麗だな。」



「……璃澄の浴衣姿。」


 褒めたところで都合良く花火の連発音が、俺の黒歴史に葬りたい恥ずかしい言葉を掻き消してくれた……はず。


 本心が一瞬漏れてしまって不覚だったと実感する。


「にやにや。」


 あ、これはしっかり聞かれてたやつか。わざわざ声に出してドヤ顔でにやにや言うくらいだからな。くそぅ。


「私鈍感系ヒロインじゃないからね。しっかりと聞こえてるよ。真生が恥ずかしがりやで素直じゃないってのは長い付き合いだから知ってる。」


 

「自分でヒロイン言うなよ。大体璃澄がこれだけ色々してくれてるのに、今更俺が他の女の人に心奪われるとでも?」



「絶対はないんだよ。だから私は真生を繋ぎとめるためにどんな事でもするし、出来るだけ一緒にいようとしてるんだよ。」


 

 俺達の言葉を余所に、花火は変わらずに夜空に舞い上がっている。


 ベッドに横たわった患者や椅子に座った患者とその家族達が、同じように夜空に舞う花火を見て和んでいた。


「来年はお面を頭に被って、片手に超電波ヨーヨーを付けて、もう片手にチョコバナナでも持ってたこ焼きを頬張りながら見たいね。」


 それはどこかの夏祭りに参加して、やりたい事を大方一気に詰め込んだ状態で花火を見たいといってるのかな?


 まぁ、もう少し動けるようになってたら。人込みがもう少し苦でなくなったら……だな。


 その璃澄の細やかな願いを叶えて上げたいと思うくらいには、今後のリハビリも頑張ろうと思う。


 あと、いつまでも自家発電を璃澄に手伝って貰うのは辛い。


 これだけ性的にも色々してるのに、俺達まだ付き合ってないんだぜ?


 バカだろ。本当に……内縁の妻ならぬ内縁の恋人って感じだな。



 綺麗綺麗しましょうね~と下半身を洗われた時に、思わず暴発しちゃったのが発端なんだけどな。


 看護師の月見里さんには、たまにそういう患者さんもいるから気にしないで良いよとは聞いたけども。


 本当に最初の頃は恥ずかしくて軽く死ねる思いだった。


 あれは絶対に解釈違いだと思ってる。月見里さんは反応する患者さんがいるという意味で優しく言ってくれたに違いない。


 暴発する人は一人か二人いるかどうかだろう。その一人か二人が俺なだけで。



 そんな事を考えていたら最後なのか、今日一番の連発花火がぱんぱらぱんぱんと弾け飛んでいた。


 思わず、「弾けて混ざれ!」と言いたくなりそうになってくる。



「璃澄も花火も綺麗だよ。こうして黙ってればな。」

 

 俺が黙って考え事をしている時に、璃澄は空を見上げて黙って花火を見ていた。



「黙ってればは余計だけど、ありがと。どれが私の花火と似てるかなって探してたのは黙ってるよ。」


 態々俺に耳元で璃澄が囁いた。


「黙ってねーじゃねぇか。」



「真生、知ってる?私がおちゃらけてる内の一部は照れ隠しだって。」



「大凡17年幼馴染やってるけどそれは初耳だな。」





「それじゃ、お風呂入りましょうか。」


 そして俺は今日の当直看護師である月見里さんに「あー」という感じで身体を洗われた。


 そろそろ自分でと思うんだけど、親父が風呂の介助も申請しているのでそこは仕方がないだんけど。


 実際右半身はまだ感覚としては不自由だ。


 液体の入ったコップをどうにか持てるくらいには回復してきてはいるけれど、快復までは程遠い。



「私が洗いたかったのにぃ。」


 璃澄の事は放っておく。温泉旅行の時にやってるだろ。


「たわし洗いとかやりたかったのにぃ。」



「お前、どこでそんな言葉を覚えてくるんだ。それにお前ぱいぱ……」


「それ以上はピーッだよ。そこはほら、色々ネットで?後はお義父さん情報かな。」


 クソ親父ぃ。璃澄に何を教えてるんだよぉっ。


 

「あとはうちの両親。」


 もうだめぽってやつじゃん。なにこの意味の分からない外堀埋められてる系。


「いや、人肌で洗うとリハビリに良いかなって。」


「何その極寒の地で身体を温め合う的な言い方。」



 璃澄が異世界転移して職業を得るとしたら、第一に理学療法士で第二に風俗嬢、第三にエロ伝道師になりそうだな。


「どんな事も真生限定だって。他の異性・同性には見向きもしないって。」



「さいですか。」


 髪と身体から水気がなくなると、そのままベッドに寝かされる。


 病院の消灯時間は一律21時なのだ。



「ねんね~ん、ころ~り~よ~……」


「バブみは求めてないからなっ。」


 子守唄を使って俺を寝かしつけようとしてくる璃澄にツッコミを入れた。


「コロリと行くかもよ。」


 ナニソレコワイ。




「なぁ璃澄。夏休みの宿題は?」


「あ……」


 大方やったと聞いたのは幻聴だったのだろうか。


 消灯したはずなのに、璃澄の冷や汗が見えたような気がした。

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