第40話 これで元通りの璃澄に。そして色々元に戻り過ぎ説。

「頑なに言わないけど、当ててみようか。というか選択肢は抑が少ないと思うんだが。」


 急な子作りを示唆する璃澄の言葉は、これまでの事を考えれば流石に無理がある。


 少なくとも、クラスの女子仲間が性にもっとオープンだったとしても、少し無理がある。


 一番仲の良い友人が妊娠してしまった……であってもまだ無理があるのだ。


 仮に磐梯と亜莉愛がここ数日で猿のように行為をしていて、いつ妊娠してもおかしくないとしても、やはり無理があるのだ。



「璃澄……今日どっちかに会ったろ。正確には見かけたとかその程度だろうけど。」


 視線が少し動いたのを見逃さない。人は隠し事を言い当てられたり、秘密を当てられたりすると目線が泳いだり口元がひくついたりするもんだ。


 璃澄もその典型に当て嵌っていたようだ。


「さらに言うなら……きもうと・倖を見かけたな?」


 いや、目を大きく見開かなくても良いってば。


「本当に偶然だったんだろう。行動範囲と思しき場所には、どちらも立ち寄ろうとは思ってなかっただろうから。」


「それで見かけたきもうとが想像していたよりも不幸そうでもなければ心沈んで下を向いていたわけでもなさそうだったんだろ?」


 だから赦せない感情でも湧き上がってきたという事じゃないのかね。


 俺が自由に歩く事が出来ないというのに、お前はのうのうと道を歩いてやがってと。


「不幸になるべきだ、とまではもう思ってはいないけど、普通を装っているように見えたのが赦せなかったとかだろ?」


「今話した推理の全てが合ってるとまでは言わないけど、概ねは正解なんじゃないか?逆の立場だったら……俺もそうなっていたかも、少なくとも否定は出来ない。」



「……ぐぬぬ。やっぱり後ろから忍び酔って2000万パワーズのラリアットを喰らわせてやればよかった。」


 小さな声で呟いてるけど聞こえてるからな?それにもう一人いないと仮面は剥がせないからな?




「でも人間ってさ、24時間常に怒っていたり喜んでいたり悲しんでいたり笑っていたり、殺意を抱いていたり沈んでいたりはしていられないんだよ。」


 璃澄も少しは思うところがあったのか、下を向いて何か考えてるのか記憶を辿っているのかしているように見えた。


「ごめん。話を飛躍させ過ぎて願望を先に持っていきすぎちゃったみたい。真生とはきちんと恋愛結婚してきちんと順を踏んでからって思ってたのに。」


 まぁ、それだって充分願望が表に出てきてるけどね。諦めさせたり否定したりはしないけど。


「じゃぁこの話はおしまい。口直しってわけではないけど、時間外リハビリでもお願いするよ。」


 気を取り直す事が出来たのか、璃澄は俺の右手を持って手のひらのツボを押していく。


 手のひらが終わると肘に向かってゆっくりと解していく。




「あ、そうそう。それで磐梯・亜莉愛ペアだけどね。例の期末テストの時の約束、思ったよりはまともなお願い事だったみたいだよ。」



「それな。俺のとこにも写真付きでメールが飛んできてたわ。ついでに砂糖とか練乳とかそういうのも飛んできたわ。」


 てっきり性的な何かを要求するだろうと思われていた後輩の亜莉愛は、意外にも可愛い要求を磐梯にしていた。


 写真は何枚にも渡って送信されてきていたが、そのどれもが所謂バカップルデートの様子だった。


「あいつら一周廻って普通のカップルになったとかじゃねぇかな。」



「磐梯ってさ、ドエムじゃないけどエスってわけでもないからな。まぁ、あいつの持ってるエロ本のジャンルは言わない方が本人の名誉か。」



「騎〇位で勝負、突くか打ち付けられるか3本勝負!とか、珍姦線で駅弁の後は俺にお前に騎乗する……とか。磐梯氏、騎〇位マニアだよね。」


 磐梯の名誉は1行も持たなかったようだ。




「あ、そうそう。気の持ちようもあるのかもしれないけどさ。あの温泉旅行の後から若干痛みというか痺れというか、軽くなった気がするんだよな。」


 実際自分のモノも擦る事が出来なかったのに、飲み物の入ったカップを持ってもそこまで苦しくない。


 以前だったら中身がなければ持てたけど、中身が入ってると持ち上げるのは一苦労していたもんだ。


 それが楽にとは言わないまでも、そんなにきつくもなく持ち上げる事が出来るようになっていた。



「行って正解だったでしょ?硫黄泉がそこまで効果あるかまでは知らなかったけど、昔の人が湯治で身体を癒したというのもまんざら嘘じゃなかったんだなって思ったよ。」



「そうだな。少しエロに傾き過ぎていて色々心配事はあったけど、前身したんだという実感が味わえたのは璃澄のおかげだと思う。」


 璃澄が手を差し伸べて何か物欲しそうな仕草と目線を送って来ていた。



「なに?なんかちょーだい?と受け取れるんだが。」


「脱ぎたてほやほやのシャツとぱんつ?特別に靴下でも良いよ……って病室だから靴下は穿いてないか。」


 舌をぺろっと出してかわい子ぶっているけど、セリフで全てが台無しになっている事に璃澄は気付いていないんだろうな。


「良い話になりかけていたのに全てが台無しだな!」


 茨城出身の二人組の幼馴染コンビのお笑い芸人のように、俺は璃澄にツッコミを入れた。


「入浴で着替える時まで我慢するしかないか。」


 だからぼそっと小声で言っても聞こえてるからな?


「結局願望駄々洩れで台無しだな!」


 まさか畳み掛けてくるとは思っていなかったから、俺のツッコミも同じになってしまった。

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