第38話 これでも真剣に湯治に来ている

「真生、もう少しこのままでいたい。」


「いやもう3分どころか5分は経っただろ。」


 親父の乱入で璃澄の思考が少し狂ったようだ。


 流石に親父にまで見られるのは計算外だったようで、親父に対しての説明が言い訳に聞こえていた。


「あ、いいよいいよ。若いもん同士、仲良くって。それに湯泥を付け合って抱き着いてるだけだろ?父さんは気にしないぞ。」



「俺にはそういう事し合える相手はもういないけどな。でも二人がそうして仲良くしているのを見る分には父さん的には歓迎だ。」


「最後までしていたら流石にぷんすか激おこぷんだけどな。」



 親父はそう言って奥の湯船に行くと、かけ湯をしてから肩まで浸かっていたのが見える。


 一応気にしてか俺達からは背を向けていた。


 湯船は二つあり、真ん中で区切りがあるので別々の湯船に浸かれば見られる事はない。


 

 

「じゃぁ名残惜しいけど流すね。」


 璃澄が乗りかかっていた俺の太腿部分から、湯泥に交じって何か糸が引いていたけど見ない事にした。


 なお、俺のきかん棒はまだ反応を示していた。


 璃澄に肩を借りて湯船に向かっている最中もぴんぴんと揺れていたのは滑稽だったとだけ言っておこう。


 湯船に浸かると互いの身体は見えなくなる。


「おい、あまり触れるなよ。万が一出てしまったら硫黄泉だと判別出来ないからな。」



「流石に分かってるよ。出入り禁止にはなりたくないし。湯治がメインなんだから……」



「処理の方は帰ってからにするよ。」


 結局出させるんかい!


 俺は左手は動かせるが右手に握力がほとんどない。


 自家発電する事は不可能ではないが、後処理が出来ないのだ。


 つまりは、ぱんつの中に放出するのが嫌なら脱いだ時にするしかない。


 それでもトイレですると水のタンクとかに飛んでしまう。


 トイレでは出来ない。それならば風呂でするならと思うだろうけれど、風呂には介助という形で璃澄がついて来る。


 つまりは一人で毒素を出す事は出来ないのである。


 他人が聞けば毎回献身的な彼女に出させてもらって良いなという環境かもしれないけど、毎回のように自家発電を介助される身にもなってみろ。


 恥ずかしい気持ちは最初だけで、今では何やらせてんだろうという諦めの気持ちの方が強くて辛い。


 書籍等から得た知識では、俺のは平均か平均より少し大きいようだが……


 ぴゅっぴゅしましょうね~♪と言われてテコキングされる身にもなってみろってんだ。


 バブみとは違うが、なんだか悲しくもなってくるってもんだよ。




 メイドさんに事務的に抜かれる方がまだ萌えると思うんだよ。


 でもその方法はろくに使えない。正確にはその方法もであるが……


 璃澄も毎回同じでは萌えないといって色々趣向を凝らしてくるんだ。


 これまでにメイドさんも当然行っている。きもうとの件もあるから後輩を演じる事はあっても妹を演じる事はしないが。




 ここまで色々していて俺達が将来男女の関係がないとか、結婚しないとかいう選択肢はないだろうな。


 ぶっちゃけてしまえば璃澄の両親からは結婚する際には早めに伝えてくれと言われている。


 うちの親父も璃澄が嫁になる事を全面的に支援している。


 理学療法士を目指すと言っている璃澄の支援を、璃澄の両親公認の元行っているくらいだ。 




 自家発電補助マシーンとなっている璃澄も当然我慢している部分が多い。


 性別問わず、大抵の人は性欲というものが存在するのだ。


 異性の裸にこれだけ向き合っている璃澄が性的に無関心なはずがない。


 つまりは璃澄は璃澄で何かしらの発散をしているのだが。



 俺はそのタネが何かの一部は知っている。使用済みの俺の下着がどう扱われているかなど今更考えたくはないがな。



 首まで浸かって硫黄泉を堪能していると、アルカリ泉や単純泉とは違った感覚を受ける。


 どの温泉も大まかな効能は似たり寄ったりだと思っていたのにな。


 気の持ちようというのもあるかもしれないが、何となく何かに効いているような感覚を受けた。



「何だか肌がすべすべしているように感じるな。」


 頬を擦ると引っかかりがないように感じていた。


「肌も大事だけど、神経の方に聞いてくれないとね。」


 璃澄が言いたい事も理解出来る。俺の身体が不自由なままだといざ性交渉となった時に体位が限られてくるもんな。


 それよりも、やはり実生活に支障が出たままというのは長い目で見ればきつい。


 俺自身の事だけども、出来る事なら元の生活に戻りたい。


 せめて歩けるようにはなりたい。


 本当に今思えばバカな事をしたもんだ。


 兄なのにとか男なのにとか言われてしまいそうだけどな。



「なんで俺の手をそこに持って行く。」


「いや、すべすべ感を感じてもらおうかと思って。」


 璃澄が俺の手を胸に持っていきやがった。しかもそのあと撫でまわすようにこねくり回していた。


「最近ちょっとエロ行為が過ぎやしませんかね。」


「裸だから仕方ないよ。滅多な機会じゃないし、それにこれは期末テストで勝った私の言う事を聞かなければならないんだから、ある程度は……ね。」



 温泉旅行に行くというだけじゃないのかよ。その中身も全てかよ。


「というか親父が裏にいるのにそれ以上は止めれ?」


 仕方ないという感じで口を膨らませた璃澄が頷いた。



 

 湯船から上がると、璃澄の補助を得て脱衣所に案内される。


 そこで拭かれて、下着と浴衣を着せられる。


 股間の所で一旦時が止まるのはもはやお約束。そのまま口に含まれないか毎回ヒヤヒヤさせられる。


 


「お義父さんが上がるまで部屋でまったりしようか。」




 部屋に備え付けのお茶を淹れてまったりとする。


 温泉饅頭を頬張ってはむはむとする姿はまるでリスだな、璃澄リズだけに。



「もしだよ。もし完治、もしくはほぼ完治したら何をしたい?」


 俺は素直に思っている事を聞いてみた。


「そだね。遊園地とかプールとか海とかに行ってデートしたいかな。」


 それは車椅子でも行けなくはないが、思い通りなデートというのは出来ないだろう。


 普通のカップルが回れる分の半分未満しか回れず、結局楽しめるのも半減してしまうだろうな。


 俺が歩ければ100%同じとは言えなくとも、8割9割にはなると思う。


 

「てっきりえっち三昧とか言うのかと思った。」


「なにおう。私が性欲魔神みたいな言い方しなくても。」


「違うのか?」


「否定はしない。でも段取りあってのそういうのでしょ。」


 所謂ムードとかいうやつだろうな。性行為だっていきなり性器に触れるわけじゃない。


 キスをしたり首筋や太腿に触れたりと段取りが気分を高揚させる……らしい。


「そこは乙女なんだな。」



「私程の聖乙女はいないと思うけど?」


「性乙女の間違いじゃなくて?」


「それは中々酷くない?こんなに献身的に尽くしてくれる幼馴染美少女に向かって。」


 ぷんすかと怒る璃澄の仕草が可愛いと思ったら負けだ。負けだが認めるところは認めよう。


「あ、うん、確かに少し失礼だった。献身的なのは事実だし、俺には勿体ない幼馴染だ。」


 


 それからほぼ日課ともなっている璃澄からのマッサージを受ける。


 もちろん病院で色々聞いて、やって良い事と避けなければいけない事は把握している。


 右半身の感覚だって全くないわけではない。璃澄の手が触れているのが、押しているのは伝わって来る。


 ただ、左半身で感じる感覚と違うのが理解出来ると、悔しさと虚しさを受けずにはいられない。


 いつか感覚が戻ったら、璃澄のない胸を両手で揉みしだく事があるのだろうかと想像して。



「おい。どさくさに紛れて変なとこに俺の手を持っていくな。」


 璃澄が俺の右手を浴衣の中へと誘っていた。


「スペシャルリハビリ?略して『SR』だね。」



「ガチャみたいに言うなよ。」



「全SR以上確定、SSR10倍、うちLR一個確定の璃澄がちゃだよ。」



「参考までにLRを引いたら……」


「私のここにご案内。」



 璃澄が自分の股間を指さして満面の笑顔で答えた。


 URをすっ飛ばしてのLRは、とてもではないが放送出来ないところだった。


 さっきまで全裸だったろとかいうのは今更だな。



 卑猥になりそうでならないマッサージを受けた後は、大人しく布団に入った。


 宿の人が等間隔で3つの布団を敷いてくれていたのだけれど……



 璃澄のいたずらで親父が一人離れ、俺と璃澄の布団が綺麗に並べられていた。


 多くを突っ込む事はすまい。どうせ俺の力では布団の移動は容易ではないのだから。



 親父が戻って来るのが遅いため、豆電気に切り替え橙色の小さな灯りを見て深く息を吸い込んだ。


 灯りを切り替えた璃澄は隣の自分の布団に身体を潜らせていた。


 璃澄の布団から何かが伸びてくるのが、布団の盛り上がりで理解出来た。


 微かに感じる右手には、璃澄のひんやりとした左手が握られていた。

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