第31話 そろそろ弁護士が鼻をほじりそう
「ふぐっ……ふぐぅ……おに、おにい、ちゃん。ごめ、ごめんなさ……ごめんなさい……」
唐突に謝り出す倖に俺はあまり心が動かされない。
いや、全くというわけではない。ただ、お前遅すぎたよ、と。
友人に意見を聞くのは悪いとは言わない。ただ全てを真に受けるのではなく参考にし吟味し、他の意見もいくつか照らし合わせて行うものだろう。
小学5年の時点では難しいのかもしれないが、少なくとも複数の意見を聞くくらいは出来たはずだ。
少なくともコイツの言ってる事は少し変ではないかと疑問に抱かないのもおかしい。
聞く相手が違えばその人物の言う事を参考にしたという事だろう?
死を選んだのは俺の勝手だが、追い込んだのはお前らだ。
高校生だってまだ子供なんだよ。大人と子供の狭間の中途半端な存在なんだよ。
自分で全て決めているようでまだ親の手のひらの年齢なんだよ。
だから中途半端なプライドも持ってしまうし、中途半端に自己主張をする生き物なんだよ。
中学から高校なんてそんなもんだ。
だから粋がった勘違いも存在するし、スネカジリも存在するし、妙に大人ぶった者も存在する。
俺が死を選んだのも自分自身のそんな弱さ故でもあるさ。
でもそれらをひっくるめて元凶である倖もそれを見過ごし助長させた母親も傍にいて欲しくない。
それでも……はっきりと「いらない。」と言えないのは弱さか甘さか。
だから妥協案で、親父の提示する離婚で親権はそれぞれが持つというところなのだけど。
それを伝えたけれど、母親は俯くだけで倖は「ごめんなさい」を連呼するだけ。
そして自体が進展しない事に懸念を感じ、父親が口を開いた。
「真生は一生逢わないと言っているわけではないんだ。真生がいつかゆとりが出来た時には逢える機会を設ける事が出来ると言っているんだ。」
そのいつかがいつかはわからないけどな。
みんなのおかげでそのくらいの事は考えられるようになっただけだ。
みんながいなければ俺は遠い地にでも行って二度とこの地に来ることはないと考えていたんだからな。
「俺は慧美を愛していないわけではない。家族として続けられない事は申し訳ないとは思う。だから財産分与としてあの家は慧美達に渡す。」
「ローンはもう残ってないから、生活が苦しくなることはないと思う。」
母親もパートはしていた。だから光熱費とかを稼ぐくらいでどうにかなるだろう。
この国は母子家庭には優しいから多分国が助けてくれるだろう。あくまで多分……な。
倖の小遣いはなくなるかもしれないが、高校生になれればバイトでどうにかなるだろう。
俺の恩恵だ。もし少年院に入ったらそれすらも難しくなるんだからな。
訴えない代わりに距離というバリケードを作り確約させるという。
慰謝料とか踏んだくろうと考えたけどそれはやめた。
璃澄達と生きて行くのだから、コブがなければそれでいい。
俺自身は保険やらでどうにか……それだけじゃダメなんだろうけど。
時と共に倖が可哀想になってきた……というのも否定は出来ない。
俺にざまぁ系は似合わないのだろう。笑いたい奴は笑えば良い。こんな身体になってもこいつらを赦すのかと。
赦したわけじゃない、放っておいてくれ、近付かないでくれと言うだけだ。
実際おっさんになった頃には赦してるのではないかと思う自分もいるよ。
理由聞いて少しだけこいつ馬鹿すぎと思って何だかアホらしくなったのも事実。
「どうにか、どうにかやり直せない……のかしら。」
うん。どの口が言うのだろうか。あの倖でさえごめんなさいと言ったのだぞ。
「本当は、この家族から籍を抜いて天涯孤独になろうと考えてたんだ。でも実際一人では出来ない事だらけだというのも理解している。」
「親父だってこっち寄りではあったけど、俺を孤独にしていたという面では変わらない。」
「それでも親父の手を取ったのは俺が未成年で一人ではどうしようもないからと、片親でも今後のためには必要だと思ったからだ。」
「入院してから色々してくれたのは、璃澄だし磐梯達友人達だし、親父なんだよ。俺が来るなと言ったからといって人伝でも何でも方法はあったはずなんだ。」
「それを怠ったのはあんたらだ。どうしてもというなら、俺が大人になって完全に独り立ち出来て、あんたらを赦せるようになったら親父と再婚でも何でもすればいい。」
やはり甘いな……
あの時は死んで全てを打ち切る心算だったのに。
こうして今となっては緩んできている。いつかは家族に戻っても良いという選択肢を与えてしまっている。
「倖、一つだけ約束をしてもらおう。自暴自棄にはなるな。これは、もうどうでも良いやと俺のように死を選んだり身体を売ったりするなという事だ。」
そうすればいつかは赦して話し合う未来が残ってる……と思わせる事が出来る。
本当にそんな時が来るかなんてのは知らない。
来るかも知れないし来ないかも知れない。
希望を残しておくだけで人は生きてはいける。
絶望しかないと俺のように死を選択肢に入れてしまう。
そろそろ弁護士に仕事させてあげようよ。鼻とかほじり出してこっちに飛ばしてくるかも知れないぞ。
「ふぐっ、わ、わかった。もう二度と間違わない。ほんとうにごべんなざい。うぷっ。と、トイレ行かせて。」
泣きながら倖は席を立ち出口へ向かう。親父はさりげなく俺をガードしようと体勢を少し変えていた。
まぁ実際タイミングとかもあるのだろう。
大人はこういう時にプライドが邪魔したり、周りを気にしたりして自分の意見を言えなかったりするもんだよな。
それは分かってる。でも、今言わないとあんたが一人で最期に悪を背負ったままになるぞ。
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