第27話

 キモウト・倖の話を要約するとこうだ。

「お兄ちゃんの事が好きだったから。」

 

 うん、途切れ途切れになっていたから聞こえた言葉と聞き取れなかった言葉があるせいで文字に起こした時によくわからんことになるだろうけど。


 だからそれを聞いた璃澄が思わずろくで〇しBL〇ESのキャラみたいに「うげぇ」とやったわけだ。

 あの舌を出して手のひらを上に向けてやるやつな。

 わからない人は昔の少年ジャ〇プの単行本が沢山置いてある漫画喫茶にでも行くと良い。

 森〇先生の一番のヒット作だ。


 しかし好きで何故罵声に繋がるのか。そこが問題だろ、そこを説明しないともう収集つかないよ、主に璃澄が。

 だから離れるか部屋に入るかしろって。店員が注文された品を持って入り辛いだろう。


 一応飲み物は全員分置かれている。

 食べ物はおつまみ程度にポテトや枝豆等が置かれている。

 飲食店である以上、何も頼まないわけにも行かないので親父が適当に注文をしていた。


 璃澄が〇〇パフェとかしゃしゃり出て来なかったのは奇跡に近い。


 って、それはそうと何も言葉を発しない母親はなんなのだろう。

 弁護士の苅田さんですら挨拶を交わしたぞ。それ以来置物みたいになってるけども。


 

「と、とも……ちに。兄妹で……っておかしいって。ふ、つうは……別々だって。きも……わる……いって。」


「で、も……ぅえん、して……れる子も、いて……じだ……いは、いっしゅ……わって、ツンデレだ……て。」


「それ……に、いも……とのばせ……いに、あにな……ら、よろこ……って。」



 ここまでの言葉を繋げよう。


 (友達に、兄妹で風呂に入るっておかしいって。普通は別々だて。気持ち悪いって。)だそうだ……

 

 まぁ流石にそれはいつの時代の話?って感じだろ、高学年の時には別々だったぞ。罵声云々の前からな。



 で、次だ。


 (でも、応援してくれる子もいて、時代は一周廻ってツンデレだって。)


 まぁ、そう考える人もいるかもしれないな。ツンデレが流行った時期もあるし。ヤンデレとかクーデレとかもあって一周廻ってなんだろうね。



 そして次。


 (それに、妹の罵声に、兄なら喜ぶって。)


 これがアウトだろ。誰だよその応援してくれた子。あんたの兄はドMなのかもしれないけどさ。

 あんたのアドバイスのせいでうちの妹はキモウトにジョブチェンジしちゃったの?

 なんだか恨む相手が変わってきそうだよ。


 あれから大人しい璃澄が怖いよ。



「さい……は、れん……しゅうでいろいろ……してみた。」


「おに……んが、かの、じょし……のはな、しをしなく……って。」


「きも……が、まって。ひと……りえ……ちするよ、に……た。」



 はいここでまた通訳入りますよ、実況の中〇さん。


 (最初は、練習で色々試してみた。)


 確かに最初はバリエーション多かったもんな。多分どれがどういう反応するか確認していたって事か。


 それで次。


 (お兄ちゃんが他の女子の話をしなくなって。)


 まぁそうだよね。始めの頃、食卓とかで学校での話、それも異性の話が出るとお前射殺すような目付きで見てきたじゃんかよ。

 そりゃ異性の話題はしなくなるわ。幼馴染でもある璃澄の名前すら、お前が中学生の時には出すことはなかったな。


 問題は次の翻訳だ。


 (気持ちが高まって。ひとりえっちするようになった。)


 はいアウト―。

 人を罵声して、気持ちが昂ったから自家発電?

 お前ドSなの?俺はドMじゃないからな。俺は苦しいだけだったからな。

 母親に相談しても、軽くあしらわれるし。

 まぁ親父に相談出来なかったのはちょっとプライドが邪魔してたというのがあるけど。


 

「だ……ん、じぶ……がきも……るために、おに……をばと……して。」


「も……じぶ……じゃはど、めがっ……かなく、て。とま……らなくて。」



「で、も……す、きは……ど、んど……つよ……って。」



 恒例の通訳入りますよ?準備は良いよね?答えは聞いてないけど。 


 (段々、自分が気持ち良くなるために、お兄ちゃんを罵倒して。)


 ヲイ。俺はいつのころからかオナニー道具になってたのかよ。



 (もう自分じゃ歯止めが利かなくて、止まらなくて。)


 麻薬中毒かよ、罵声浴びせて気持ち良くなってハイになって自家発電して。

 やめられない止まらない、カ〇ビーかっぱえび〇んかよ。カル〇ーに謝れよ。


 (でも、好きはどんどん強くなって。)


 きちんとしたSとMの関係におけば信頼関係の上成り立ってるからそれはありだろうよ。

 でも俺とお前は違うからな。4年もの間、その勘違い愛情罵声とやらを浴びせられて。


 お前はその心算がなかったとか言うのかもしれないけど、俺はマジで死ぬ事を選んだんだ。



「しあ……も、かく……てみに……ってた。まけ……も、へやに、ったあと、シテ……た。」


「びょ……んで、ってるおに……んを、むり……たのは、おに……と……


「さいご……におも……でを、っこし……たかった。あわ……ば、おに……ちゃんとの……に、こど……った)



 おぉそろそろ通訳も終盤かな?いい加減途切れ途切れで話すのやめようよ。

 文字に起こしたら三点リーダばかりで怒られそうだよ。


 (試合も隠れて見に言ってた。負けちゃった時も、部屋に戻った後、シテた。)

 シテたって自家発電だわな。負けて帰った時に無駄だとか言ってたけどな。

 あれ、一生懸命やってる俺達全体に酷い事言ってるんだけど、そこんとこ理解してるかな?



 (病院で眠ってるお兄ちゃんを、無理矢理犯したのは、お兄ちゃんと)


 おいおい、犯したとか言っちゃってるよ。もうだめぽ。

 マジでタイーホされる5秒前案件じゃん。


 (最後に想い出を、残したかった。あわよくば、お兄ちゃんとの間に子供が欲しかった。)


 うん。これ罵声云々の事がなくてもヤバイ案件だね。

 まぁ普通に愛の告白とやらをされていれば、真剣に考えて真剣に返事くらいしただろうに。


 蓋を開けたらなんてことねぇ……痴情の縺れってやつじゃねぇか。

 いや、俺は何もしてないから縺れとも違うか。


 全く……全国のお兄ちゃん読者様に謝れ!

 俺はお前のオナニーのために右半身麻痺になったってか。

 まぁ本来は死ぬはずだったけどな。


 お前の勝手な想い出作りのために童貞を奪われ、貴重な子種を奪われたってのか!


 


 コイツの中でわかってたんだろうな、もう二度と会えなくなる事が。

 だから思い切って行動に出たのだろうけど。

 方法を誤ったな。土下座でもして謝罪にくるならまだしも、愚行強姦で返すとは。

 いくらシャットアウトしていても、真に謝罪する気持ちがあるならば方法はあったはずだ。


 親父を介してでも、伝える方法はあったはずだ。

 中学生のこいつには無理でも、母親であればそのくらいの知恵は授けられたはずだ。


 

「それで?盗聴器をしかけたのはタイミングを見計らうためか。俺がお前らをシャットダウンしたから。」


 倖が頷く。どうやって手に入れたとかはツッコミしても仕方ない。

 ネットでも簡単に手に入れられる時代だ、自作出来なくても入手法はいくらでもあるだろう。



「罵声の酷さは半端なかったんだぞ。500回も死ねば良いとか、キモイとか臭いとかうざいとか……」


「お前同じこと言われてみ?どこかのタイミングで自殺を選ぶか殺すかを選ぶから。」


 俺は弱かったからな、自殺を選んでしまったわけだけど。


 とりあえずこいつが狂った思考の果てに俺を追い詰めたというのがわかったよ。


「それで、これまでずっとだんまりだけど、母親として何かないの?」

 俺は一向に目線すら合っていない母親を向いて尋ねた。

 しかし母親は顔をあげる事もしない。テーブルと倖とを目線だけで見ていた。


「置物に何か言っても無駄でしょ。」


 いやだからお前は辛辣過ぎるんだよ、いくら敵に思えてるからって。

 そういえば璃澄が大人しかったな。てっきり倖の言い訳の時に何度もツッコミを入れてくるかと思ったんだけど。

 あの時「どいて、そいつ殺せない。」と激怒していたんだから、もっとダメージを与えてくるものかと思ったんだけど。


 (本当は子宮を抉り出してでも真生の証は掻き出したいところだけど、同じ一人の女としては愛故にってのがほんの少しだけ理解出来ちゃったのよ。)

 (私も赦しはしないけど、もう二度と会わない処置になるみたいだし?この場は黙ってあげても良いかなって。)


 (何年先になるかわからないけど、もし真生が赦せる時が来たのなら私も赦しても良いとは思ってる。でも今は赦さんッ!赦さんぞぅッ!だけどね。)


 璃澄が小声で耳打ちしてくる。

 いやもう普通に入って来てるし。そして誰もツッコミ入れないし。

 船〇吉兆の記者会見みたいだな、このささやき。

 もしくは野〇ID野球の戦術みたいだな。


「私だって一生懸命やってた。それまで主婦として子育てをして、二人共小学校高学年になって落ち着いてたところで相談受けて。」


「でも、普通はお兄ちゃんなんだからって言うもんじゃない、倖の方が歳下なんだし女の子なんだから。」


「肩を持っても仕方ないじゃない。」


 突然置物から音声が流れた。

 倖は子供だからと一部に関しては仕方ないにしても、大人である母親がそれを言っては……

 崩壊して当然だ。今となっては一部では倖も被害者と言えなくもない。

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