第25話

 璃澄が車椅子を押すと、2歩程進んだその先には真生の父の姿。

 先程の会話を聞かれており、妙に気恥しそうな表情で父が立っていた。

 璃澄の乳は勃ってはいない……もちろん俺の機関棒も勃ってはいない。


 

「そういや、親父……だいたい当たるぅでいくらになったかわからないけどさ。」


「ん?なんだ?気になるのか?」

 気になるだろうよ。弁護士頼んだり、入院費やら治療費やらがどうにかなったりラジバンダリ。

 


「それってふるさと納税とかに影響するのか?」


「なんか一時所得がどうとかって……面倒な話はやめようや。話し合いする前に頭パンクするわ。」

 親父……思考放棄は怖いぞ。

 

「5頭ボックス60通り、各千円買ったとだけ言っとく……」


 おまっ

 親父に対してお前って言いそうになったわ。

 

「外れたらただのバカだな。」


「いや本当に。担保を自分自身にしてたから外れてたら父さん……マグロ漁船かな?」

 いや、6万円の担保にマグロ漁船って流石にないだろ。

 どんな悪徳金融だよ。


「まぁ担保云々は盛ったけどな。」


 ヲイ。何に対して盛ってるんだよ。


「実はな、おじさん喫茶の向かいにあるメイド喫茶に、実は何度か行った事があるんだが……」

 その年でメイド喫茶って……あぁ、これは偏見か。偏見は良くない。親父は38歳、こう見えてまだ若い方だ。

 もっと言えばあの母親も38歳。親父とは同級生だと聞いた事もあるし、小さい頃見せてもらったアルバムで確認済だ。


「ここで客同士で知り合う事があって、その中の一人が巡り巡って弁護士と繋がりがあって。」


(お義父さん、それ以上詳しく言っちゃだめですよ。)


 小声で璃澄が何か言っていたが俺には聞き取れなかった。


「偶々その弁護士とも臨席になったりと、まぁ知り合う事が出来てだな。家庭の事を話す機会があったんだけど。」

「この先の事を話しているうちに、それ以上は仕事の話になるので有料となりますとなってだな。」


「現状をどうにかしないといけない、でも俺は家長だから俺が何とかしないと、でもなぁそうはいっても方法なんて少ないしな、なんて葛藤をしていたんだけど。」


「ネットで件の弁護士の事を調べたら、結構な実績でな。若い女性なのに大したもんだと。」


(バックも凄かったですしね。)


 また璃澄が小声で何か言っているけれど聞き取れない。


「後日、某レースで人気に捉われず、自分の魂の赴くままに賭けると色々解決しますよと、新宿のなんちゃらみたいな占い師みたいな事を言われて……」


「ためしにおじさん喫茶での給金がちょうどあったんで、人生初の馬券を買ったらビギナーズラックか知らないけど、どばーんと当たったんだよ。」


「俺はこのまま生涯勝ち馬券ヤーでいたいからもう二度とやらないけどな。」

 パチンコなんかでも生涯を通じてのプラス収入の人はいない。

 初めてやったパチンコで勝って、そのまま生涯二度とやらないなんて事でもない限りは。


 親父はそれと同じ理論でいようとしているわけか。


 配当はそれなりに付いてるはずだよなぁ。病院と弁護士の費用が当面どうにかなるくらいなんだから。


 璃澄から止められているんだよな。どれだけの配当が付いたのか検索するのを。

 話し合いの場でどうせ判明するだろうからって。


 もし検索したら座薬無しの指浣腸すると言われたら、言う事を聞かないわけにはいかない。


 もちろん、それは璃澄の人差しと中指指二本ずつという意味なのだけれど、小学生の男子かと言いたくなるけどな。


 

「それと、弁護士と競馬のアドバイスをしたのは別人だよ。弁護士の人のボス的な人のアドバイスらしい。その人と直接会った事はないけど。」


「藁にも縋る思いで、試しにやるにしては6万はデカいな。」

 言ってみれば会った事もない、他人の助言を聞いたって事だろう?

 リスクの方が高い勝負だよな。各100円で6千円ならともかく。


「まぁ……結果論とも言うな。外してたら久利さんに踏まれてただろうな。」


「流石にお義父さんを踏んだりはしませんよう。婚姻届けの承諾の欄に名前書いてもうらうくらいですよう。」

 それはそれで凄い脅しだけどな。璃澄ならやりそうな気もする。そこにシビれたりしないし憧れたりはしないが。


「まぁそんなわけで今日の弁護士はその女性だ。真生の悪いようにはならないようにするさ。」


 という事は、親父は俺の味方と解釈して良いよな。

 これで実は敵でしただったら俺はもう人を信用しないぞ。

 車椅子で踏切に飛び込むぞ。家〇き子の父ちゃんみたいに。


 

 エレベーターに乗って下りると、そこは久しぶりのシャバへと通じる地表階。

 中庭とは違う、アスファルトの匂いは学校へ行った時以来だ。


「片が付いたら文化祭に向けて外の空気にも慣れないと。真生が来ないなら私も行く意味ないし。」

 随分と高評価というか好評価をありがとよ。

 どうせあれだろ?体操服に紺色ブルマーだろ?ちょうちんではないだろ?


 そうでなければ旧スク水か?

 それともヴィクトリア朝のメイド服か?

 って懐かしい物喫茶でそれはないか。でも今では殆どないものだから懐かしいに入るか。


「二人っきりの時なら全部見せたげるよ。」


 どうやら心の声が漏れていたようです。


「思念として伝わってきただけで心の中は読んでないよ。」

 以心伝心てこういう事を言うんだっけ?璃澄さんコワイ。


「一応親が傍にいるという事を考えて?俺空気になりつつあるよ?」

 親父が可哀想になってきた。





「さ、ここだ。奥に広い個室を取ってある。」 


 

「あの二人は先に入っている。多めの部屋にしたのは真生を近付けないため、それと入り口に近いのは車椅子の出入りを困難にしないためだ。」


 

「璃澄、ちょっと待って。」



「うん。」

 俺は部屋に入る前に璃澄に前進を止めて貰った。

 この先にいると思うと身体の震えが始まった。


 強がっていたけれど、思いの外トラウマだったらしい。

 まだ満足には動かせない右半身……右腕までが震えてやがる。


「大丈夫だよ。私が後ろにいるもの。」


 そう言って前に回って来た璃澄が、何故か俺の股間を掴んできた。

 普通こういう時、後ろから抱きしめるとか、手を握るとかじゃないの?


「元気でた?」

 勃たない程度にはな……ズボンがGパンならそんなに感触もなかったろうけど。

 ナイロンで薄い生地だから……璃澄の指と手のひらの感触が……それ以上はだめだ。

 って、おまっ。なぜさわさわしたりにぎにぎしてるの?、け、結構痛いんですけど?

 ナニコレ、俺M調教されてんの?


「違うよ。でもこれで震えは止まったでしょ。」

 以心伝心パート2かよ。震えは……確かに止まったな。


(続きは色々終わった後に……)

 え?続きあるの?続きは海外ノクターンでねって事か?いやそれはそれで違うだろう。

 そういえばこれだけエロアピールしてる璃澄だけど、手と指以外では何もしないんだよな。

 匂いは嗅いでたりするけど。


 噂で聞くナースと一発みたいなのは都市伝説っぽいし。

 あぁそういう事を思い出したらあいつの痴態まで思い出してしまった。

 そのおかげか、璃澄がまだ触れたままなのに全然反応しない。


「じゃぁもう一つ。元気の出るおまじな……い。ちぇるる~ん♪ちゅるっ」

 不意打ちだ。頭の中ではねらいうが流れてきたけどな。

 璃澄が元気付けるためにまうすとぅまうすをしてきた。


 柔らかい唇が触れてきた……と思ったら何かが侵入してきた。

 これ、初ディープインパクトなんですけど。俺の心はハーツクライだよ。

 何こんな時に不意打ちでディープキッスしてんだよ。

 誰だよ、ディープキスをフレンチ・キスなんて可愛く言った奴は。

 なんだよ。緊張感漂う場面で濃厚に舌を絡めてくるアホは。

 

 カラメルか、プリンか。絡めるって野菜炒めか、回鍋肉か。

 あぁ、璃澄の唇はぷりんぷりんだけどな。


「ぷはっ、あぁ真生の味~」


 あぁ……俺の唇と璃澄の唇の間に涎の架け橋が出来てるな、なんかエロくて卑猥。

 いや、それはそれで何か狂気を感じる?

 それにご飯食べた後の歯磨き粉の味だろ。璃澄が買ってきたのは何故かいちご味な。


「だからそういうのは俺の見てないところで……って、心の準備は……良いか?良いよな?良いって事にするわ。」

 若干呆れ気味の親父が聞いてきたので俺は静かに頷いた。


 親父が扉をスライドさせて開けると、先に入っていった。


「待たせたな、連れてきた。」

 先にちょろっと聞いていたが、親父は先に二人をこの場に案内していたらしい。

 俺を連れてくるからと席を抜け出し、病室に俺を迎えに来たという事だった。


 俺の位置からはまだ中の様子がわからない。

 空気がピリピリしているような気がする。

 この先は異世界か、それともダンジョンのボス部屋か。

 そう形容してしまいたい程の空気感を俺は感じた。

 

 そして璃澄の車椅子を強く掴む感覚が伝わって来る。前に進むんだなという事を感覚として理解した。


「はよーん♪」

 何故か璃澄が大声で、わ〇このような挨拶をかましながら俺の車椅子を押した。

 緊張感は既に皆無となり、ある意味場違い状態を実感しながらも部屋の中に入っていった。

 璃澄はシリアスとか緊迫感とかいう感覚は、おばさん(璃澄の母親、38歳)のお腹の中に置いてきてしまったようだった。


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