第24話
「璃澄……この先俺達がどうなるかは別にして。」
「やはり最初の想い通り、家とは決別する。あぁ、親父とは切ろうとは思わないから戸籍云々は抜いたりはしない。」
璃澄は黙って聞いてくれている。
いつもなら何かツッコミを入れてくるというのに。
「それで、そう遠くない日に一度家族会議をする必要があると思う。」
「心の奥底では嫌だけど、一度は面と向かってぶつけなければ気が済まない。そして綺麗さっぱり他人になる。」
それはきっと親父の言う離婚にも繋がるだろう。
「そのついでに私達も籍入れない?」
「いや、年齢的に無理だろ。」
おれ、まだ、じゅうろくさい。ケコーンデキナイ。
「はい、言質いただきましたー。年齢の問題がクリア出来たら良いということだね。」
くっ、しまった。今の言い方だと上げ足取られるだけだった。
確かにこうなった俺には璃澄のような無償の女神みたいな女じゃな……いと?
はっ!?女神だと……
エロと匂いと変態の女神……ならわかるが。
自分の心の中のツッコミに同様してどうする。
「と、とりあえず、親父に連絡して話し合いの日付決めるわ。療養に専念したいし。」
いつまでも今のままというわけにもいかないでしょ。
そう思うのも、あの夜の襲撃があったからだけど。
平穏に療養生活が続くかと思ったところでの暴挙だったからな。
「あ、はぐらかした。好きという感情は認めたんだからその先も認めればいいのに。」
「匂いフェチのちょっとだけおかしな女の子ではあるけど、こんな優良物件そうそうはありませんぜ、ダンナ。」
お前のはちょっとおかしなじゃねぇだろ。お前でちょっとなら世の殆どの変態がノーマルだよ。
王国騎士団長が村人レベルだよ。
マッドサイエンティストが村の薬草積みしかできないGランク冒険者だよ。
Gランク冒険者というより自慰ランクか。いや、自慰クランのボスだな。
脱線してる場合じゃない。璃澄が俺の心を乱すのがイケないんだ。
乱して良いのは髪の毛だけだ。
璃澄には電話をするからと席を外してもらった。
璃澄や磐梯達との連絡以外にはほとんど使わない携帯電話を取り出した。
裏には友人達と撮影したプリクラが貼ってある。
ぎこちない表情の俺と、無理にでも自然に見えるよう笑ってくれている友人達。
しかし璃澄だけは、素なのか作ってるのかわからない、憂いを帯びた笑みを浮かべていた。
それでも数少ない宝物というか、財産に思っている。
親父が仕事中か移動中かわからないけれど、電話帳に載っているまともに登録されている名前をタップしコールした。
数回の呼び出し音の後に親父が電話を取ったのか、耳から伝わる音と周波数が変化した。
「親父、俺だ。オレオレ。」
電話先から「オレオレ詐欺ごっこはいいから。」と返って来る。
「あぁ、親父……俺から連絡がめずらしいって?まぁ、これまでは璃澄を経由してたからな。」
自分で言っておきながら吃驚するが、これまでの連絡は何故か璃澄がしていた。
そりゃ、璃澄と親父が仲良くもなるわ。正確にはホットライン出来るわ。外堀埋められるわ。
「それで俺はもう、いつでも良いから早めにケリは付けたい。現状手術とかがあるわけじゃないから、ある程度融通は利くんじゃないかな。」
俺は妹を逮捕させようとは思っていない。
以前にも考えた事だが、少年院に入って形上だけ更生して償ったフリをして出て来られても迷惑だ。
それならば、せっかくだいたい当たるぅで弁護士を間に入れるというのなら。
ストーカー規制のように、俺との接触禁止……具体的には半径何km以内の接近禁止を求める。
まぁどうやってその範囲外を確認するのかって事だけど。
GPS的な何かを常時発信するモノを携帯させ、近付くとアラームで知らせてくれるとかどうだろう。
「わかった。弁護士との都合もあるだろうし、それで良いよ。」
日付と場所が決まった。
流石に病院内は無理そうだろという判断で、病院に隣接する喫茶店の個室を貸切る事になった。
これもだいたい当たるぅの効果……というわけでなく、居酒屋に個室が増えたように喫茶店にも個室が最近では流行っている。
病院に隣接という事もあり、他者には聞かれたくない内容の事を語る際には有り難い仕様となっていた。
当然バリアフリー仕様にもなっている。
段差もほぼないので、躓いてパンチラとか転んでスカートが捲れたままという事もほぼない。
電話が終わると璃澄にその旨を伝える。
璃澄からはパフェの匂いが漂ってきていた。
「11月の最初の日曜日に決まりそうだ。つまりは全日本大学駅伝は見れないかな。」
「そうなんだ。文化祭の1週間前だね。」
そういえば俺は文化祭には参加……は無理だろうな。
奇異な目で見られるのは嫌だし。
電動なら多少一人でも移動は出来るけど、そこまでの設備も練習もしてないし。
なにより、全然準備などを手伝ってもいないのに本番だけ参加というのもな……
「あ、文化祭の出し物だけどね。懐かしいもの喫茶に決まってるんだよ。」
なんだそれは……随分とざっくばらんな名前だな。
「今では懐かしい衣装や内装で古き良き時代を現代に蘇らせようと、私が提案した。」
発案者かいっ。
「いやぁ、同じ女子と先生を黙ら……説得するのが大変だったよ。」
今、黙らせるのが大変と言おうとしたよな。
「真生の名前を出したら納得してくれた。真生が私を見たがってるはずと言ったら……それと男の先生は殆ど最初から簡単に説得出来た。」
俺を売ったのか。それと、その説得した時の様子を想像すると色々ダメな気がしてくるのは何故だ?
「その変わり、風紀委員が警備を兼ねて定期的に見回りに来ることが決定したけどね。」
一体どんな内容になったんだよ。
まぁ良いか。璃澄なりに未来を見据えた事なんだろうし。
文化祭はある意味では想い出になる一大行事だし、結局学校にろくに通えてない俺に想い出をくれようとしてるって事だろう。
外出許可が出れば言葉に甘えても良いかな。
消極的ではいけないか。これから話し合いが待ってるのだから。
もしかすると、話し合いで俺の心がどうにかなると懸念してるかもしれないな。
後夜祭の花火大会……そこまでの許可取っておいたほうが良いかな。
そしてあっという間に時は過ぎ、話し合い当日。
良くもまぁあの母親と妹がすんなりと承諾したなとは思う。
内容については大小はともかく、わかっているだろうに。
病院に無理を言って今日は出かける前と夜に風呂の許可も貰っている。
一度身を清めた俺は着替えをした上で車椅子に腰を掛けている。
「私がただの真生の匂いフェチのドスケベJKだと思ってない?」
ち、違うのか?
ってなぜ俺の左手を掴む?
「いつもこんなにドキドキしてるんだけどなぁ。」
璃澄が……俺の左手を膨らみの殆どない胸に当ててさらに璃澄自身の手を重ねて押し込んだ。
なにを言ってるかわからないと思うが、俺は今手形を作る時のように璃澄の胸に手を当てている。
そしてさっき璃澄の言っていた、ドキドキならぬドクドクとした鼓動を左手で感じている。
ドクドクというよりは毒々でなければ良いんだけど。
「じゃぁ、そろそろ行きますかね。」
璃澄は俺の後ろに立って車椅子の取手を掴んだ。
違うモノを掴まれたりはしていない。
「そういうのはせめて俺のいないところでやってくれないかな。」
親父が病室の入り口付近からせつなそうに呟いていた。
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