第22話
「倖はなぁ……部屋から出て来ないんだよ。」
「しつこくノックしたり声を掛けると、【うっさい話す事なんかない】って開けてくれないんだよ。」
糞尿の臭いは漏れてないから風呂トイレには入ってるとの事だけど……引きこもりになったという事か?
少年院の住人にもならずに?
「母さんが話しかけるとたまに何かぼそぼそと会話してはいるんだけどな。俺が近くにいる事がわかると会話が止まるんだ。」
それ無視されてるとかじゃないくて?それとも本当に女だけの秘密の話?デリケートな話?
「内容が聞き取れないからわからないから一概に責めるのも間違いかなとは思うけど、確かにおもしろくないし心にグサっとくるよ。」
「罵声ではないけど、少しだけ、ほんの少しだけ真生の気持ちが理解出来たよ。」
多分、言い訳とか今後どうするとかそういう話でもしてたんじゃないの?
もしかして親父、あの家で今孤立してんの?3人での団欒とかないの?
国民的一家団欒アニメみたいにちゃぶ台でご飯囲むとかってないの?
「だから、金にモノ言わせてブルドーザーで部屋をぶっ壊して部屋から出そうとカタログを見ていたら、母さんから流石に家を壊すのは止めてって言われて……」
あ、だいたい当たるゥは高額配当だったのね。そういう事だよね?
「それでだ。本当は倖は身柄を拘束されて少年院入りだったり葛西裁判……違う、家裁裁判所とか色々あって然るべきなんだけど。」
「真生、お前それだけじゃ心が納得しないだろ?父さんとしても実の子供がどちらも満足に生きられないというのは忍びないんだよ。」
「だから、ここからはまだ決定事項でもないし、俺自身苦渋の選択意見も含めるんだけど……」
「倖に関しては真生の希望通りの措置になるようにしようと思う。縁を切るのも赦すのも真生の希望通りにしようと思う。」
「そのための弁護士費用は……3連単5頭ボックスさんが仕事してくれたのでどうにかなる。ささやかな副業もな。」
あ、本当に高額配当だったのね。ちょっといくらついたのか気になるじゃないか。
それよりも副業とかそういうのはどうなったんだよ。ギャンブルって都合良すぎじゃないか?
何そのWEB小説のご都合主義展開。もうそこらにはツッコミしないけど。
「それと、母さん……母親の事だけどな。間違った行動をしたとはいえ、何かしら動くだけ倖の方がマシかもしれない。」
「母さんは、お前に対して謝罪の意思もなければ心配している様子も感じられないんだ。」
「多分、倖の事が第一に思うあまり、周囲が見れてない。流石に心の奥底では何も思ってない事はないはずだけど。」
妹に罵声を浴びせられていた時に、一度でも優しい言葉は掛けて貰った記憶はないけどな。
お兄ちゃんなんだから我慢しなさいとか、倖は思春期の女の子なんだから仕方ないじゃないとか、体よく逃げて躱して妹の味方をするような発言しかしていなかった。
その様子から俺には関心がないか、鬱陶しく感じているのか、面倒事を押し付けられてくないだけなのかと判断してたんだけど。
とにかく男・兄なんだからという押し付けを感じていたよ。
「母さんは妹と世間体を優先させている気はする。俺ももう少し話し合う努力をしなければならない。そうしないと真生がこの先を決断出来ないだろうから。」
実際その通りだろう。俺だっていつまでも入院しているわけじゃないだろうし。
どこかで、真剣な話し合いが必要になってくる。
最初に拒絶したとはいえ、
あの家に戻るにしても、出て行くにしても。拒絶したままにするにしても、赦すにしても。
「これは本人の口から説明させるべきだし、俺が勝手に推測を言うのも間違いかもしれないけど。」
「断片的な言葉や行動から推測するにだな……」
「倖はブラコンを拗らせたヤンデレが手段を誤ったんじゃないかと思う。きっかけが何かは知らないけど。」
まぁ認めたくはないが、その言葉を聞いて俺は否定しきれなかった。
そうでなければ逆レなんてしないだろう。ん、あぁ、思い出したら少し吐き気がしてきた。
さっきの璃澄のスカート捲りを思い出して相殺しないといけないな。
って相殺できるかっ
違う意味で脳内が落ち着かないわっ
逆レについてはそのブラコン拗らせヤンデレ暴走で説明もつくかもしれないけどな。
根本である小学生から始まった罵声については説明つかないぞ。
言ってる言葉と思ってる言葉が真逆になる呪いにでも掛かってますとか?
誰か鑑定のスキルかステータスオープンしてくれよ。そうでないと分からないぞ。
親父が拳に力を入れて言い辛そうにしているのが見えた。
それでも言おうとしているのか、親父は大きく息を吸い込んでいた。
「これは先程の決定でもないし苦渋の選択の話にも繋がるんだけど、俺は……」
「俺は……離婚を視野に入れている。」
確かに昔のような家族関係に戻るのはもう不可能だろうな。
俺の前に出来た溝はマリアナ海溝よりも深くエベレストよりも高い山壁で遮断されている。
好意の暴走でそうしていたと言われた所で、受けた側は地獄でしかなかった。
ハラスメントと同じで、受けてによって変わる事はあるだろう。
自分の意図した事はそうではないと思っていても、相手には苦痛でしか嫌味でしかない事を知ろうともしない。
だから〇〇ハラスメントとなる。
妹のは何ハラスメントになるんだ?
「ごめんな。ダメな父親で。お前を守れなかったし、気遣ってやれなくて、苦しみをわかってあげられなくて。」
「もう少し早く決断して、親父に相談でもなんでも出来ていたら違っていたかも……とは思わなくもないけど、要所要所では救われてたよ。」
「試合……見に来てくれた時も嬉しかったしね。やりたくても、もう……野球は出来ないだろうけど。」
そういえば最初のグローブを買ってくれたのは
「ボッチャやろっ。」
空気を読まない璃澄が流行り始めた競技を口にした。
「元気になって……カバディやったるわ。璃澄限定……おしくらまんじゅう、やったるわ。」
親父が息を吐いて最後の言葉を口にした。最後と思ったのはなんとなくだ。
「もし、真生が全回復したとして、4人で食卓を囲む姿は想像出来るか?」
親父はそれだけ言うと、今日は一旦帰ると言って出て行った。
直ぐに結論は出さなくて良い、数日考えてから自分で納得出来る選択肢を選んでくれとの事だった。
リハビリも終わって午後の庭で太陽と風に当たっている。
後ろには車椅子を押してくれる璃澄が……何故かハァハァしながら立っていてくれる。
これはもしや、うなじの匂いを嗅いで興奮しているだけじゃねぇの?と思った。
「真生、真生がどういう選択をしても……私の選択肢は一択だよ。真生のお嫁さんという単勝に全額だよ。」
親父が競馬の話をしてから、璃澄の会話の中にも競馬的な用語が飛び出すようになってしまったようだ。
「ちなみに外堀通りどころか内堀通りも埋めてるからね。」
皇居じゃねぇか。それとも武道館か。
うちは千代田区じゃねぇし。
「璃澄……俺はお前の所に永久就職の選択肢しかないのか?」
「ううん?真生の選択肢はたくさんあるよ。一択なのは私の選択肢。」
「数多の必然の中に偶然があって、そんな数ある偶然の中に奇跡があるの。」
「理想通りの奇跡を掴み取るのは、それこそ星を掴むようなものだけど……」
「ある一点に置いては奇跡を掴んでるよ。」
ハインリヒの法則みたいだな。
そして今お前が掴んでるのは俺のタマタマだけどな。それも偶々だと言うのか?
せっかく上手い事言ってるのに台無しだぞ。
「私と真生が両想いだった事は、数ある奇跡の中から掴み取った必然であると信じてる。」
「1日1回無料ガチャでLEを引くようなものか。」
SSRの上がUR、URの上がLE(レジェンド)だとすればの話だけれど。
「真生の方こそガチャに例えるなんて浪漫が台無しだゾ。」
「俺の答えは、選択肢は決まってる。だからこそ、全てを捨ててでもこの世界との繋がりを断とうとしたんだから。」
「話し合いはどこかでしなければならないだろう。面と向かったら吐き出す自信があるけど。」
「きっぱり解決出来たら……俺の全てをあげても良い。寧ろ本当に俺なんかで良いのかと……」
「そんな真生にはプレゼントをあげる。」
頭に何かを被された。いや、顔にか。いやこれ……今の俺って変態仮面なんじゃ……
「ってくさっ。」
「だから可愛い嫁候補筆頭の彼女にくさっは酷いっ。」
今日一日穿いていたぱんちーをどうやら被らせてくれたようだ。
こういうプレゼントが嬉しい人はいるのだろうか。
でもなんだか璃澄が喜んでるみたいだから……まいっか。
そういえば、「まいっか」とか言う歌が昔あったなぁと思い出した。
もやもやしている俺の心の内を落ち着かせてくれてるんだろう。
望まずとも璃澄は俺の栄養剤であり、解毒剤であり生きる糧になってるな。
俺は家族に対して一つの結論というか決断をしなければいけない。
拒絶したからとはいえ、一度も面会にすら来ない母親、死ねと罵声浴びせていたくせに逆レまでしてわけのわからん意思表示をするキモウト。
そして一応俺の後見的に、少しは俺に寄り添ってくれてはいる父親。
俺がどういう選択をしても、璃澄は俺の後ろにいるんだろうな。
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