第19話

 集中治療室的なところからは早々に退出出来て、以前とは違う個室に移動となった。

 障害者認定とか保険とかのおかげで、入院費や治療費なんてのはかなり抑えられたと聞いたからどうにかなるのか?


 所謂VIP階に移動になった。

 ここはセキュリティが高くなっているので、そもそもその階に辿り着いただけでは病室側へは行けない。

 受付で手続きをして受けとる専用のカードがないと、中に入る事は出来ない仕様となっていた。





 実はあれから数日が経過している。俺が再び起きてからの話だ。

 目が覚めた翌日、璃澄が駄々を捏ねた。

 学校を休んでずっと介護するとじたばたと床を転がっていたのだ。

 その言葉は嬉しい反面、間違ってると思ったので学校へは行ってもらえるように伝えた。

 

 学生の本分を疎かにしてまで付き添って貰うのは何か違う。

 俺が璃澄の人生を背負うにはまだ早すぎるし重すぎる。


 この状態の俺が何を言ってるんだ?という話でもあるけど。


 俺のような重荷を抱えてこの先の璃澄の人生の選択肢を狭めるのは違う。

 まだ将来看護学校に行くとかならわかるんだけど。


 なんだか感情を確かめあってから璃澄の具合が色々おかしい。

 ニブチンと言われた俺でもそう思うのだから、多分本当におかしいのだろう。

 


「むぅ、真生は私が飼……養ってあげる。」

 おい、お前今飼ってあげると言いそうにならなかったか?



「気のせいだよ。私は普通に愛する事しか出来ないから大丈夫だよ。」

 あえてあいつの名前を出さないようにしてくれたみたいだけど、お前にも普通は無理だろう。



「普通……じゃねぇだろ。」

 ちなみに俺の言語能力は再度ぶっ倒れる前に戻っていた。

 多少突っかかったりどもったりする事はあるが、人との会話は成り立っている。

 むしろ璃澄のぶっとび思考の方が、会話が成り立たないと俺は思っている。


 基本的に入浴やらは看護師が行う。

 何かが起きてからでは遅いからだ。


 ただ、再び車椅子での移動が可能になった事により、少しずつ解禁されていった事がある。

 それがトイレだ。トイレは自分でも行って良い事になっている。

 何かきつい事があれば、備え付けのボタンで看護師を呼ぶ事が出来る。

 それは駅などの色々な施設でもあるボタンなので想像に易い。

 駆けつけてくるのが看護師なだけで……


「ほら、しーしーだよ。」

 ひゅーひゅーだよみたいに言うなよ。

 只今トイレで絶賛小出し中である。小出しと小水を足してるんだぜ。


 普通自分の手で掴んだり添えたりして出すもんだろ?

 だがこの璃澄は違うんだ。俺のを持ってるんだ。

 男性ならわかってくれると思うんだが、小便をする時に隣や一つ開けた隣に人がいるだけで出ずらくなる事あるだろ?

 先に自分の方が便器に立ったのに中々出て来なくなる事ってあるだろ?


 他人に持って行う小便て、マジで出て来ないんだよ。

 俺が小さな子供ならいいさ。しかし16歳になる少年だぞ?


 まぁそうは言っていても出るモンは結果的には出るんだけど。


「あー少しオウンゴールしちゃった。」

 こいつ手や指に掛かっても気にもしないんだ。

 こっちは気にするのに……


 もうね、見られたり触られたりすることには悲しいけど慣れた。

 ちなみに男性なら理解してくれると思うが、小便をしているとたまに自分の指に掛かったりする事あるよな?

 全部出きったと思ったら少し残ってて、しまうときとかさ。


「あぁまおーの匂い……」

 ほら、この通りだ。変態ならまだ良いけど変質者になったらいけないと思うんだ。

 璃澄のこの行為は補助のつもりなんだろうけど、メインが変態行動なんじゃないかと思ってしまうんだ。

 一応、倒れないように俺の身体の後ろについて支えてくれてるんだけどさ。


「お前……舐めたら追い出すからな。」


「なななっ、舐めたりはしないよっ?」

 匂いに関しては諦めた。激しく動く事が出来ないから止める術もないし。

 名残惜しそうに予め用意していたタオルで拭いていた。


 俺の股間を綺麗で清潔なタオルで拭きとると、パンツとズボンを上げて車椅子に戻してくれる。

 その後洗面所で手を洗うと再びベッドに寝かされる。


 リハビリは少し延期して貰っている。

 数日経過しているとはいえ、身体に負担を与えるのはもうしばらく様子を見てからになった。

 その代わり、動く左半身でゴムボールを握ったり、それこそ車椅子を利用して自力でトイレに行ったりは許可を貰っている。


 入浴は先に述べた通り看護師に入れて貰っている。流石に毎日ではないけど。

 それ以外は看護師によって全身を拭かれている。

 何度も言うけど羞恥心なんてものはとうに置いてきた。

 看護師は仕事でやっているし、やましいことなどそこには存在しないのだ。

 

 たまに反応してしまってもほぼ全く気にされてない。

 月見里環希さんがたまに揶揄うくらいだった。


 不思議と璃澄も身体を拭く事に関して嫉妬とかはしていない。

 それこそ、仕事だと理解しているという事だろうか。

 たまに対抗してか、勝手にふきふきしたりトイレでの暴挙に出たりはしているが。


 あれから一週間、一応真面目に学校に通う璃澄。

 たまに見舞いに来る友人達。


 関係性が明らかになった時は、「やっとかよ、このバカ夫婦。」と呼ばれた。

 バカップルではなくバカ夫婦という事に違和感を感じなくはないけど、反論はしなかった。

 実際、この先璃澄と別れたとしたら、この状態の俺と人生を寄り添ってくれる人が現れるとは思えない。


 キモウト?あれは論外だ。誠心誠意謝ってくるならまだしもそんな事は一度もない。

 いくら俺がシャットダウンしていても、方法がゼロではない。

 それこそ、親父を介して伝える事だって出来るのだ。それなのにその程度の事すらしない。

 その挙句のあの強姦なのだからもう救いようがない。


 俺は倖がどうなったか聞いていない。多分周りも気を使って敢えて口にしていないのだと思う。


 個人的には丸坊主のつるぴかハゲ丸君になって土下座を真っ先にしてくれば、話くらいは聞いてやっても良いかと思わなくもない。

 頑なに否定・拒否していた考えが軟化したところでの事件だからな。


 もしかすると現在少年院の中にいて、手紙すら出せない状況なのかもしれないけど。

 

 まぁキモウトの事はいつかどこかで耳にする事もあるだろう。

 水面下で親父が何かしているかもしれないし。


 璃澄に任せたら……でんせつのつるぎでも持ち出して、刺すか斬るかしてキルしそうだから……


 




「おまえ……おまえ、気に……いったぞ。」

 とある土曜日、部活も終わったからと病室に寄った磐梯が車椅子に座る真生の前にひざまずいている。


 右手は動かないので左手を伸ばして、しゃがんでいる磐梯のおでこに触れる。

 璃澄は俺の後ろで車椅子の取手を掴んでいる。


「ずきゅーんずきゅーん♪」



 コンコン、「失礼します。」ガララララと看護師が入って来る。月見里環希さんだった。


「何四天王?」

 今、言葉のニュアンスがおかしかったけど?四天王だったらあと一人足りませんがね?

 病室に入るなり呆れた表情の月見里環希さんが立っていた。


「ジョジョごっこ。」

 正確にはディオごっこだけど。詳しくは切り裂きジャックをゾンビに変えるシーンを読もうな。

 ちなみに答えたのは後ろにいる璃澄だった。

 璃澄の役はディオに薬を打ったあの中国の商人、ワン役である。


「この夜遅くまで遊んでる堕落した女がァァァァァァァァ!」

 突然磐梯が立ち上がり月見里さんに近付く。別に襲うわけではない。


「このストレイツォ容赦せんッ」

 ノリに乗ってくれた月見里さんは、磐梯を締め上げて関節を決めていた。

 個室であまり他の部屋に迷惑が掛からないとはいえ、大きな声を出してはいけない。


「それで、何か用ですか?検査は予定されてなかったと思いますが。」

 璃澄が俺の代わりに聞いてくれていた。


「あぁ、そうでした。一応明日からのリハビリ再開するに当たって確認しておく事がございますので……」

 関節を決められている磐梯は少し嬉しそうだ。磐梯、それは林檎だぞ……今日は中身違うかもしれないけど。


 ベッドに戻った俺、左側に璃澄と磐梯が座り、右側に月見里環希が立っている。

 ベッド備え付けのテーブルを広げて会議が始まった。


 この病院の名物四天王が揃った瞬間だった。

 内容はとてもまじめなものだけれど……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る