第17話 夢の世界
「おにいちゃん。」
これは……幼少の記憶か。
いつもよたよたと後ろをついてきて、公園で一緒に遊んだ記憶。
抱えて滑り台を滑ったり、箱ブランコでがっこんがっこんしたり、普通のブランコを押してあげたり、砂場でままごとやおいしゃさんごっこしたり。
この頃は本当に素直で良い子、良い妹、可愛い妹だった。
決して将来キモウトと思われる要素は微塵もなかった。
この頃は異性であっても兄妹で風呂にも入っていた。
もっとも風呂は小学生になっても一緒に入っていたけれど。
それは両親からもお湯が勿体ないからと継続していただけだけど、別に俺も妹も疑問も抱かずにいた。
妹のお漏らしだってお兄ちゃんという事もあり、何度も処理をした。
その逆はなかったけれど。
子供は素直だから、嫌なら嫌と言うし、少なくとも微量ながらも態度に出たりするものだ。
しかし妹から拒絶や嫌悪は一切なかった。それどころかお漏らしの処理なんかはごめんなさいとありがとうの言葉しかなかった。
泣き止んだあとの笑顔なんて尊過ぎて、誰にも嫁にはやらんと思ってしまうくらいだった。
それなのに……
最初は「お兄ちゃん、うざい。」だったか。
高学年とはいえ、小学生のうちに小学生からそのような言葉を貰うと、脳にガツンとくる。
世の父親が娘から一緒に洗濯しないでとか、先にお風呂に入らないでとか言われるとショックだと聞くけど、それと同じではないかと思う。
うざいという言葉は大分前から流行している言葉だし、最近周囲で流行ってるから使ってみたというわけではない。
もしそうであれば、嫌悪の眼差しで言う必要はないはずだから。
心底汚物でも見るかのような目で言うような事をした覚えはない。
璃澄のように人の匂いを嗅いで恍惚としたり、下着を盗んでくんかくんかとかは当然していない。
いくら可愛い妹であってもそんな事したいと思った事などない。
将来、どこの馬の骨ともわからん男に嫁にはやらんと思った事はあるけれど。
うざいと言われる少し前の行動や言動を振り返る。
もちろん全てを思い出せるわけではないけれど、可能な限り辿ってみた。
そういえば俺の精通は6年生だった。
少年誌を寝転がりながら読んでた時、身体を左右に揺らしていた。
ゆらゆらと揺れながら読んでいたら、いつの間にか股間が大きくなっていて、気にせず読んでいたら何かが出たんだった。
後にそれは精子だという事がわかったし、さらに後に床オナだという事がわかった。
その時読んでいた漫画のシーンはたまたま際どい恰好のお姉さんが出ている場面ではあったのが救いだと、大きくなった今なら理解出来る。
これがむさいおっさんだったらと思うと色々とショックだ。
当時の自分は出てきた液体が何かわからず、お漏らしをしてしまったのか?と思い、あわてて新しいパンツを持ってトイレに駆け込んだ。
そして洗面所で濡れたパンツをゴシゴシと石鹸で洗った。
少し触れてしまったが微妙なぬるぬるがあったので、これはおしっこではない?と思ったのは懐かしい。
それと、少し変な匂いがした。
手洗いしたパンツは思いっきり絞って洗濯機へ放り込んだ。
幸い他の洗濯物もあったので、木を隠すなら森の中ではないけれど、パンツを隠すなら洗濯物の中という感じでやり過ごした。
ちなみにこの時家には他に誰もいなかったので、この様子を妹に見られたという事はない。
好奇心がそこまで旺盛ではなかったので、あれはなんなんだ?と検証する事もしていない。
あくまで、その後の性教育とネットを調べた結果、アレは射精であり精子であり床オナであることがわかっただけだった。
だからこの件が元で妹に気持ち悪く思われたわけではない……と思っている。
もしこの件だとしても、その後の4年の間に何故嫌悪するのか一度も言わないという事はないだろう。
しかし、初めての精通から何日も経過してからの事だから、やはりこの件は関係ないと結論つけられるはずだ。
そういえば、おまたに毛が生え始めたのもこの前後だ。
もうこの頃は一緒に風呂は入っていないので、見せる事もなければ見られてる事もないはずだ。
だから、妹の生え始めも当然知らない。
態々親に毛が生えたと見せた事もない。
会話の中で生えたとは言った事はあるけれど。
その時はお前ももう大人の階段上り始めたなと言われた程度だ。
やはり思い当たる節は見当たらない。
5月に俺の精通と初チン毛があり、6月に俺の修学旅行があり、9月に妹の林間学校があった。
思えば最初のうざいは秋頃だった気がする。
そうだ。林間学校から帰って来てしばらくしてからだったと思う。
しかしお土産を貰った時は別に変な事はなかったと思うけど。
林間学校で友人同士の会話や、他の男子達との間に何かがあって変わった?
だとしてもそれを俺が知る事は出来ない。
女子同士風呂や布団で女子トークがあったのかもしれない。
その中で身近な男、父だったり兄弟だったりの話題があったかもしれない。
小学生の時まで一緒に風呂に入っていた俺達は稀有だし、おかしいよという話になったかもしれない。
妹が10歳の時にはやめていたのだからそこまで変ではないと思うけど。
それこそ嫌なら嫌と言えたはずだ。倖大好き母親に言えば、風呂のお湯が勿体ないという理由で一緒に入れとはもう言わないだろうし。
林間で何かアクションがあったのかもという推測は出来るけど、内容までは想像しきれない。
それでも兄離れになる事はあったとしても、兄嫌悪になる事はないはずだけどな。
ちなみに俺は学校でも外でも妹の悪口を言った事はない。
反対にシスコンと呼ばれるような事も言った事はない。
それは自分を客観的に見つめ直しても同じことが言える。
「おおきくなったらおにいちゃんのおよめさんになるっ。」
そう砂場で言っていた妹が……
「うざい、邪魔、どいて、死ねば良いのに。」
こうなるまでに何があったのか。
もしかすると何もないのか。全てを知っているわけではないけど、ラノベなどの影響を受けてはいないと思う。
流石にパソコンの中身や、購入したもの全てを知っているわけではないけど……
その気はないけど、妹の友人と接する機会があるなら訊ね……ようとする時期はとっくに過ぎてるわ。
訊ねるなら、自殺しようと決意する前にとっくにするだろう。
「おにいちゃん。」
「おにいちゃん……」
「おにいちゃぁん……んっ」
「おにいちゃんとの証……」
「残す……ね。」
思い出した。
最後に微かに聞こえたあいつの言葉。
勝手に人の身体をオナホールのように使いやがったあいつが残した言葉。
人の身体の上で呟いていた言葉。
あれはヤンデレとかなんて生易しいものではない。
それよりも恐ろしいキチガイの領域だ。
アレは妹の形をしたナニカだ。
そう思わなければ多分俺は自我を保てない。
璃澄や磐梯達が傍にいるだけでは精神が持たない。
これは夢だ。
夢と認識出来るという事は……
延命出来たという事か、いや……
繋ぎ留められたのだから、繋命というべきか。そんな言葉はないけど。
夢の中でまで俺を苦しめるのか……
なぜこんな過去を思い出すかのような記憶が、夢で自問自答するかのように流れたのか。
まさか目が覚めたら前回と同じくあのキモウト・倖が俺の事を覗いているのだろうか。
それはないよな。
あいつ、多分少年院入りだろ。文句なしの12球団からドラフト1位指名的な少年院入りだろ。
少年淫の間違いかもしれないけど。
俺はそれで満足なのか?
少年院てことは出てくるよな。
出てくるという事は……
それよりも、弁護士立会の元契約書?を交わして多額の慰謝料と一生半径100Km以内立ち入り禁止にしてもらいたい。
治療費とかは受けとるつもりはない。それはプライドってヤツがある。
あいつのおかげで快方に向かうとかは嫌だ。
それだったら、璃澄に直接股間をくんかくんかされても璃澄に頭を下げてお金を借りた方が良い。
その場合、なんか一生奴隷(匂い奴隷)にされそうな気もするが。
しかし夢にしては随分と思考がはっきりしているな。
もしかしたら脳死状態で起きれないだけだったりしてな。
って脳死だったら思考も夢もないか。多分……
あ、なんか意識したら目覚めそうな感じがする。
ホラー夢を見た時の「起きるぞ~起きるぞ~」パート2だ。
ほら、俺起きるぞ。
目が覚めたら医師のおっさんドアップくらいなら赦す。
キモウト・倖でなければなんでも赦す。最悪母親だったら辛うじて赦す。嫌悪は示すだろうけど。
目覚めガチャ……
SSRはやはり璃澄なのか?いや、価値としてはそうかもしれないが出現確率は違うか。
医師または看護師70%、父親15%、母親5%、キモウト1%
璃澄含め友人9%といったところかな。
価値としては璃澄含め友人がSSRで、医師または看護師がHR、父親がR、母親がコモン、キモウトは……映す価値もないか。
こういう風に考えてないと押しつぶされるんだよ。
目覚めた瞬間にやっぱいいと意識手放してしまいそうなんだよ。
生まれて直ぐミドリコの胎内に戻ろうとした、う〇こたれ蔵ことマキバオーみたいなもんだよ。
あ、自分の意思ではどうも出来ない。
これは目覚めるわ。どうせだったらエイトセンシズくらい目覚めてないかな。
来世にワンチャンよりは可能性あると思うんだけど……
冗談はさておき、もう目覚めるわ。
ようこそシャバ。これ以上悪夢は見せないでくれ。
俺の状態……悪くなってなければ良いな。
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