第15話
結局、月曜日に始業式に行った後は金曜日に午前中だけ授業に参加しただけだった。
正確には3時間目が終わったら病院に戻る。昼食は病院で摂るためだ。
そして3時間ではあるけれど、意外にも授業についていけないという事はなかった。
璃澄や磐梯達からの報告で、俺の登校出来なかった三日間は授業は殆ど進んでいなかった。
主に教科毎に宿題を集め、その後は復習を兼ねた小テスト。
それが終わるとその先へ少しだけ進むという感じだったと言う。
体育は普通に行ったみたいだが、9月末に行われる10km走の練習で半分の5kmを走ったらしい。
このクソ暑い中お疲れサマーとしか俺は返せなかった。
病院の中は暑くなく寒くなく、ある意味適温という感じだった。
個室はエアコンもあるからある程度自由に調整出来るんだけど。
「真生の体操服に顔を埋められないのがこんなに苦しいとは思わなかった。」
などと、璃澄は相変わらず訳の分からん事を、病室の床でのたうち回りながら叫んでいたのも懐かしい話だ。
子供がデパートで母親に対して「おもちゃ買って買って~」と駄々を捏ねるように。
その時は磐梯にチョップを喰らう事で正気に戻っていったけど。
磐梯がいなければ、看護師が乱入してきて摘まみだされていたに違いない。
木曜日には、冬のスキー旅行の実行委員決め等が行われていた。
男女共に代表者を選出し、その実行委員を中心に今後色々決めていくそうだ。
俺は残念ながら不参加になりそうだけど。
あと三ヶ月で行けるか?最低でも松葉杖で歩けるくらいにはならないと無理だろう。
雪の中車椅子でも松葉杖でも無理でしょ。
元々そういう国で生まれ育ってるわけでもないのだから。
それで金曜日からはほぼ通常授業に戻った。
昼ごはんは案の定である。少しずつ固形物が増えているけれど。
まだステーキやとんかつのようなものは許可が出ない。
土日は一日フルタイムで璃澄が付き添い、日中訪ねてくるクラスメイトが数人いるくらいで夏休み期間とあまり変化はない。
学校帰りの璃澄が、ワイシャツの隙間から下敷きや団扇で扇いで風を送っている姿は……目と脳に毒だ。
ない胸なのはわかっているけど、下着のラインがたまに目に入って来る。
それどころか、肌が見える。
璃澄は窓際の花達に水をやってくれている。
朝と夕方と二回。今日も如雨露に水を言入れて窓際に立っている。
しかし窓際に立った時に璃澄が何かを落としたのが目に入った。
「璃澄、何か落としたぞ。」
俺も親切心からつい即伝えていた。
「あ、本当だ。」
俺の位置から落とした物までは見えない。璃澄の右側に落ちたので、身体が陰になり隠れていたからだ。
「よっこいしょ。」
璃澄は如雨露を一旦窓際に置くと、しゃがんで落とし物を……
「ってヲイ。」
璃澄のスカートがペロリと捲れた。そしてその中身が見えてしまった。
ちなみに足は閉じているのでその表面だけだけど。
「何故穿いてない!」
「暑いからさっきトイレで脱いだ。落ちたのはポケットに入れてたおぱんてぃーだね。」
璃澄は拾ったぱんつを「ほら」と見せてくる。流石に広げたりはしないが。
そんなもんウエスにしてしまえっ
「変な染みとかはついてないよ?見る?嗅ぐ?食べる?」
見ねえし嗅がないし食べねーよ。
「そういやまおーは身動き取れないんだから、無理矢理口に詰め込めるよね。摺動合体テコキングとか。」
そういう事はうら若き女子が言う言葉ではございませんっ。
「それをやったら流石に絶交だからな?ナースコール16連射するからな?」
「絶好のチャンス?もっとやれコール?」
お前の耳はおばあちゃんか。ぽたぽた焼きかっ。
「冗談だよ。あ、でもコレいる?」
「いら……ねぇよ。誰の入れ知恵だよ。オリジナルか?それとも月見里姉さんか?」
それに対する返答はなかった。恐らくは両方なのだろうな。何を考えてるんだどっちも。
もしかすると、窓際の花には璃澄の花の蜜でも振りかけられてないか?ダイジョブか?博士出てきちゃうか?
いかん。俺の頭の中もピンク色に染められつつある気がする。
☆ ☆ ☆
相変わらずの璃澄の変態さが途切れない毎日であるが。
平日の昼間に璃澄がいないというのも、なんだか心にバズーカで穴を空けられたような気分だ。
だからかわからないけど、このごろ少し変だ。当たり前のようにあった日常でないという事が、こうも響くのかな。
昼食を終えてリハビリを終えた後は、眠くなって1~2時間寝ていたりするんだけど、その時に妙にうなされる。
うなされている時には決まって背中に汗を掻いている。
重力が重い……というのは言葉としてはどうかと思うけど、他に形容し難い。
イメージとしては金縛りが近いだろうか。
背中に殺気のようなものを感じるといえば近いだろうか。
再び眠りについて、次に目覚めた時に璃澄を視認する時にはそれらは消えている。
そんな事が、俺が登校しない日にだけ起こっている。
情緒不安定に陥ってきてるかな。
学校が始まって3週間あまり。基本的には月金しか通えてはいない。
リハビリを減らすとそれだけ復帰が遅れるし、体力的にも仕方がない。
心身の疲労は思いの他大きい、午後の睡眠が深くなっている気がする。
疲れが抜けきらない。夕方璃澄の来訪に合わせて目が覚めていたのに、ここ数日は寝顔をばっちりと見られている事の方がほとんどだ。
今日も少し睡眠欲が強かった。リハビリ後に着替えを手伝って貰うと、ベッドに横になるとすぐにうとうととしてしまった。
夢の中だというのが理解出来た。
何故なら自分の身体に不自由がなかったから。
それに、何故かその中では俺と璃澄が恋人という設定だったからだ。
恋人であれば当然その関係であれば行っても不思議ではない行為も行う。
今日は疲れてるから璃澄に元気にして欲しいと頼んだ。
すると、璃澄は器用に口と歯を使ってチャックを下ろし、流石に留め具は手で外したけれど……
横になる俺のズボンと下着を下ろした。
そして口の力で元気にすると、もう準備万全だからと、そのまま跨った。
自分が動くからまおーは楽にしてて良いよと。
疲れてはいたし、久しぶりの行為……という設定だったせいか。
それとも、恋人という設定のせいか。
長時間を掛けずに夢の中の俺は璃澄の中にその想いを注ぎ込んだ。
余韻に浸っていると、声を掛けられた気がする。
それは夢の中の璃澄のものなのか、そうでないのかまでは判断が付かない。
夢の中の自分は一人称視点であると同時に神視点になる時もある。
部屋の上から全体が見渡せている時もあるのだ。
視点が自分の目に戻り、恍惚であり少し悲愴にも見える璃澄の姿を見ている内に……
唐突に意識が変化していく事が自認出来た。
これは夢から醒めるなと言う事がわかった。
☆ ☆ ☆
俺の目が光を取り入れると、目先に人の姿を捉えた。
その後ろに見えるのは病室のいつも見ている風景。
しかしその人の姿は……
先程まで夢の中で璃澄と……
だからこそその先にいる人物も璃澄だと思った。
思いたかった。璃澄だったらまだ納得出来たし、まぁ良いかと思えた。
夢の中でしていた事、感じていた事。
良く夢と現実はリンクしていると聞く。
だから夢の中での気持ちの良い事は、現実でも同じ事だったり似た事だったりしていたりしてもおかしくはない。
夢と現実が……
イコールではなかった。
それを理解した瞬間、一気に吐き気が込み上げてくる。
胸の当たりが唐突に胃液で満たされ昇って来るのが分かると、熱を持った胃液は一瞬で喉を通り。
「うげぇぇぇぇぁあぁえぁあぁあっぼほっぶほっごぼっ」
昼に食べたモノを吐き出し、火山の噴火のように噴き出した。
それでも噴火は止まらず、溶岩のように食べ物と胃液が口から噴射するのが目で見える。
噴出したものは顔や周囲に散乱し、身体にも掛かっていくのがわかる。
そして噴射したモノの一部は視線の先に……俺に跨るモノにも飛散している。
胸が熱い、喉が熱い、下半身が熱い、そして少しスースーする。
そこには何かが覆いかぶさっている。
黒か紺か、何かの布……
どう考えてもスカートだ。スカートに隠れているけど……
この感覚は……
繋がっている。
右半身は中途半端な感覚だしうまく動かせないけれど。
左半身や首から上は完璧ではないが動く事が出来る。
下半身も多少力を込める事が出来る。
これは時間の経過とリハビリのおかげだろう。
以前夢精したくらいだから、股間の機能はしている。
だから感覚として理解してしまう。
先程夢の中で璃澄の中に出した感覚は。
現実で……こいつの中に出した感覚だ。
吐き気どころか嘔吐して当然だ。
「おにぃ……ちゃん。」
こいつの口から発するのなら、糞兄貴とかキモ兄貴の方がどれだけマシだっただろうか。
怒りや蔑みの表情ではなく、悲愴な面持ちをしたこいつの……
こいつの甘い声を聞いた瞬間、俺の中の何かが崩壊した。
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