第9話

「気持ち良かった?」


 マネ子が何かとんでもない発言をしていた。

 興味深々でわくわくとした表情をするんじゃねぇよっ


 俺……尻の穴の皺まで見られて……お嫁にもお婿にもイケナイっ

 お前、責任取ってけっこ……こけこけこけこっこー。


「私なら全てを受け入れられるよ?もし希望するならその……ごにょごにょ。」

 なんだか入れる側でも入れられる側でもとか聞こえたような気がするのは気のせいか?気のせいだよな?


「座薬は素人でも挿入出来るから……次、挿入れてみる?何かに目覚めても当方は責任を負いかねますが。」


 オイ、看護師は面白い事を言う職業なのかよ。

 べ、別に変な趣味に目覚めてなんかないんだからねっ

 男のツンデレに需要はないって。ないよな?BLならともかく。

 


「真生、次痛みに耐えられなくなったら遠慮なく言ってね。私、内助の功として支えるんだからっ。」

 両拳を握ってフンスッとかやらない。何を気合入れてんのさ。


「初ねぇ初ねぇ。じきに効いてくるから、もう少しがんばってね。」


 看護師の月見里さんは茶化してるのか真面目なのかわからない。

 仕事はしっかりしてるから別に良いのか。


 お、ネームプレートがちゃんと見えた。

 月見里環希さんか。俺の観察眼スカウターでは30代を指している。

 あぁ、尻に入った指の感触が……



「眠れないなら……子守唄でも歌おうか?ボエエェェェェェェェ」 


 素でボエエエェェエェェ的な事言う奴初めて見たわ聞いたわ。

 

「い、いや……しずか……に。」


「しずかちゃんは露出狂だって?それは私も思ったよ。ノヴィタさんも冤罪とか誘発とかされそうでたいへ……」


「し……」

 そこまでいったとことで呼吸がほんの少しだけ楽になる。どういう理屈だろうか。

 節々が、特に腰とか腕とか腿とか胸が痛くて熱を帯びていて苦しいんだけど。

 薬を摂取したという気持ちのゆとりもあるのかもしれないけど、もう少しすれば寝れそうな気がする。


 うん、睡魔ちゃんがやってきた。


☆ ☆ ☆



 どうやらあのまま寝る事が出来たようだ。

 ちゅんちゅんと春麗……じゃなくて、雀の鳴き声でも聞こえてきそうな感じがする。

 朝陽が差し込んできて、カーテン越しではあるけれど朝だという事を実感した。

 目がぁぁとか言ってみたい。


 例によって、マネ子による「あ~ん」により朝食を取る。

 心なしか、昨日の夕飯時よりスムーズになった気がするのだが。

 それは俺自身やマネ子の照れ云々もだけれど、座薬のおかげで身体が少し楽になってるのかもしれない。


 恐るべし尻のICBM。


 そうそう、今朝俺が目を覚ますと何故かマネ子の顔が近くにあった。

 問いただすと、寝顔が可愛くてつい……と言っていたけど、それってどういう意味かな。


「大丈夫、私は許可なく接吻とかせ……っせっせーのよいよいよい?おおぉぉ、お茶らけてはないんだけど、どもっちゃった。」

 

 多分マネ子が言ってる事は本当だろう。きっと人の寝顔を見ていただけというのは事実だと思う。

 何故なら……これまでのマネ子であれば、人が寝ていると額に「肉」とか「クソソソのマーク」とか「赤松剛鬼の黒子」とかを油性マジックで書くような奴だ。



 朝食後、おむつと下半身が再び綺麗にされる。

 この後検尿をするらしい。


 しかし俺はそれについて危機感は抱いていなかった。

 もう何度も見られてるしもうどうにでもなれって感じだ。

 でもそれが甘かったという事を後に知る。汁だけに。


 その時は唐突に訪れた。


 昨日から何度か訪れてくれた月見里さんではない。

 しかし今度来た看護師のネームプレートにも月見里の文字が記入されている……


 親子?いやいやそれはないだろう。もしそうなら昨日からいた月見里さんは40代中頃~後半って事になるよ……ん?


 もしそうなら俺の観察眼スウカウターは故障している。

 偽乳特戦隊に新しい最新式を持ってきてもらわないといけなくなる。


 そうじゃない。この月見里さんは……断崖絶壁ではあるけれど、林檎とかは入っていない。やはり別人だ。


「おはようございます。」


 その態度、というか言葉には安らぎを感じる。

 月見里環希さんが痴女だとするなら……この月見里……えぇ、瑞希さんは菩薩だ。

 後光さえ差して見える。この月見里さんが千手観音で攻撃してきても全部受け止める覚悟はある。


「鼻の下伸びてるよ。」

 マネ子がジト目で見ている……気がする。


「それでは検尿のために採取させていただきますね。恐がらずに身を任せてください。リラックスしてと言うと、余計になってしまうので、何か楽しい事を考えていてください。」


「あっという間に挿入はいりますから。」


 その笑顔が怖い。これが、観音菩薩の千手観音による攻撃か。

 あぁ、俺の下着ことおむつが剥がされていく。


 そういえば、昨日より少しだけ顔というか首の可動域が増えた気がする。

 つまりは、今月見里さんが行っている攻撃……行動がモロ見えなんです。


 月見里さんが巨乳だったらだっちゅーの!って感じで谷間様が見えていたに違いない。

 CCガールズって女性グループがCカップで巨乳って時代があったけれど、今そのくらい当たり前だしな。


 ウチのマネ子も月見里親子?姉妹?も残念ながら断崖絶壁である。

 環希氏はパッド長だったけど。俺の観察眼スカウターでは月見里さん達は少ししか違わない。


 一つ勘違いしないで貰いたいのは、俺は決して巨乳チョモランマが好きなわけではない。

 どちらかといえば、ほんの少し砂丘的な……ほんのりの膨らみが好きなんだ。


 マネ子達とそういう会話をした事があるけれど、


「あ……」


 月見里瑞希さんは、俺のマグナムを握って……何か管のようなものを差し込もうとしている。

 はっ、これが噂に聞く尿道カテーテルというやつか?

 あっ、ちょっ……な、なんで……

 ムクムクって……ムックさーん。



「ねぇ、なんで……」


 マネ子のジト目が半端ない。首が少し動くようになって見えるんだよ。

 月見里さんがやってる(仕事を)反対側で、じっくりと観察してるんだよ。

 俺は一体何でしてるんだ?

 月見里さんの左手か?右手のカテーテルか?それともマネ子の目か?


「へぇ、まおーってこういうのが良いんだー。」


 ち、違うっ。

 決して特殊プレイが好きなわけじゃない。

 そもそも童貞だけどさっ。


「これは医療行為ですからね。でも反応してしまうのは生理現象ですから仕方ないですよ。」


「私達も医療こういう事は少なからず行いますので色々……ありますが、あまり事務的になり過ぎてもそうでなくても難しいんです。」


「あー黄色い膿が搾り取られてイく~。」

 軽く言っちゃってくれてますけど、貴方は女子だからね。マネ子さんや。

 ダチとはいえ性別異なりますからね。

 これが逆だったらギャースカ言うでしょ?


 それと、マネ子さんや……言い方が卑猥だ。淫溢~淫溢~。


「彼女さん?何か変化があったら直ぐにナースコールを押してくださいね。初めての事で違和感とかもあると思いますので。」



久利璃澄クリリズ16歳。彼女……ではないです。マブダチです、幼馴染です。その……将来はわかりませんが……ごにょごにょ。」


 月見里さんが尿を必要量採取すると、次に点滴を抜いた。

 一晩経って汗も掻いているし、肌着の交換をするとの事だった。

 月見里さんの手際の良さをマネ子はじっと観察している。


 今朝のうちにB1階のコンビニでマネ子が買ってきていた。

 下着の類と……週刊少年ヨンデーと一馬(新聞)を。 


 身体を拭いている時の俺に近付いてきたマネ子。

 これ……絶対にアカンやつや。


 悪臭でしかないだろうに、一定距離から吸い込んでやがる。

 だってほんの少し、マネ子の鼻の穴がピクっとして膨らんだもんよ。


「スキル悪食を手に入れた。」


 某極振り的な事を漏らしているけど、貴女のそれはただの変態行為ですからね?



 汗を拭いて、新しい下着を着せるとパジャマも同様に新しいものに替えていく。

 

「点滴の針とチューブがない時にしか交換出来ないので不便でしょうけど、汗をかいて気持ち悪い時は呼んでください。」


 然るべき処置をした後に月見里瑞希さんは退出していった。


☆ ☆ ☆


 再び俺とマネ子の二人きりとなる。

 消毒液の匂いを感じられるという事は機能が戻りつつあるのだろうか。


 身体を動かす事は出来ないけれど。


 一つだけ言える。

 俺、自殺しようとしなければ良かった。

 あの家を出て遠くに行くだけで良かった。


 マネ子がお茶らけているのは、多分少しでも暗い考えにいかないようにと、マネ子なりの気遣いだって事はわかってる。

 だから感謝しなければいけない。

 その対価が俺の恥ずかしめなら、辱めで済むなら安いもんだ……


 一回だけならSANADA式恥ずかし固めを受けてやっても構わない。 

 もちろん元気になったらだけどな。


「そう言えば、ホワイトベースは出なかったね。」


 そんな木馬は出ませんよ。馬鹿デスカアナタ。ナニ言ってるんですかアナタ。

 せめてホワイトソースでしょう?若しくはタルタルソースでしょう?


 というか……マネ子の名前。

 久利璃澄だって……思い出した。本人が月見里さんにさらっと名乗ったからな。

 脳内のパズルが埋まると……ピースが繋がると、不思議と色々記憶が繋がって来る。

 靄の掛かっていたマブダチ幼馴染・マネ子の顔と名前が晴れてきた気がする。


 小学生の時、市民プールで璃澄の水着がズリ落ちた事とか。

 落ちたんじゃないんだよ、落としたんだよとか言ってたっけか。

 なんだその「当ててるんだよ」的な言い方と思ったものだ。


「リ……ズ。」

 思わず名前を口にしていた。なんでかはわからない。


「あ、まおー。やっと名前で呼んでくれたね。」

 仕方ないじゃないか。頭を打ったショックで恐らく記憶の一部にフィルターが掛かって、鍵を掛けられてしまったのだから。

 にしし、と白い歯を見せて微笑みやがって。朝陽以上に眩しいじゃねぇか。



「やっぱり頭を打ったショックで記憶が曖昧な感じ?でもちゃんと名前を呼んでくれたのでプチ記憶喪失は赦してあげる。」

 名前を思い出せないなんて言葉にはしてないんだけど……

 俺とこいつの付き合いも長いし、恐らくは勝手に察してたんだろうな。



「それと、ご褒美に……白いの出すお手伝い、してあげよっか?」

 ブフォォッ

 心の中で噴き出してしまったではないか。


「いや……ここ、病室。というかは、恥じらいを。この……素人処女め……」


 下ネタは絶えないが、こういったやり取りは気持ち良い。

 言葉に詰まりはあるものの、璃澄とのおバカな会話はかつて五体満足だった頃を思い出す。


 もう一人のマブダチとの会話時に、スカートなのに平気であぐらをかいてぱんつ見えそうな行為をするような奴だ。

 素人童貞ならぬ素人処女と言ってもバチは当たるまい。


「何その素人童貞みたいな言い方。親友の枠は超えてしまうけど、幼馴染の枠は超えない……よ。」

 璃澄がわけのわからない事を言ってくる。

 俺が入院してからグイグイ来ている気がする。

 おかしい。俺達は決して男女の関係ではないのに。


 色々見られたせいか、俺の羞恥心も耐性を得てきたのかもしれない。

 前も後ろも見られたからな。



「はぁぁぁぁぁぁぁ、まおーの匂い……」

 点滴の交換前に一度着替えをさせられたのだが、その俺が脱がされた肌着を両手で掴んで顔に押し付けている変態幼馴染の姿がそこにはあった。

 今看護師なり医師が見たらこいつの脳を検査してもらいたい。

 あ、ナースコール押そうかな。変態がここにいますと。


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