第8話
ピンク色の看護師が連れてきた医師が俺を診断していった。
先程の看護師が行った事を再度させられる。
40代かなと思われる医師は名を「石島」と言った。
医師の石島……洒落かよ、韻踏んでるのかよと内心で思ったのは俺だけじゃあるまい。
ついでにピンクの看護師は「月見里」と書いてあった。残念ながら今の俺では下の名前までは見れなかった。
多分30代だと思われる。胸は残念系だな……
ジャッキーチェンの春麗みたいに何か詰まってる。
あれは偽物だ。偽乳特戦隊だ。
何だろう、マネ子の視線からビームを感じる。
「しばらく検査や観察に加え、常時点滴と大変な事が続きますけど、我々も全力を尽くしますのでがんばりましょう。」
がんばりましょう……か。
まぁリハビリとかそっちに関してはそれで良いけど。
「まずはご家族に連絡を取りましょう。今後の事もありますし……」
俺は今動かせる精一杯で首を横に振った。
「私が話しておくよ。良いよね?」
俺は辛うじて首を縦に振る事が出来た。
「一応規則ですから。」
石島医師にも守らなければならないコンプライアンスがあるのだろう。
そこを含めてマネ子は自分が話すと言ったんだと俺は思っている。
「先生、私から話しますので。どこか別室で話す事は可能ですか?」
「向かいの説明室が開いてるのでそこでなら構いませんが。」
石島医師とマネ子が部屋を出て行くのを目で追った。
看護師は、何かありましたらこれを押してくださいとナースコール用のスイッチを左手に手渡してきた。
押すだけの力が出ないので、少し擦ると反応する最新式のスイッチのようだった。
月見里看護師も二人の後を追うように病室から出て行った。
狭くはないけれど個室に一人取り残された。意識したからか、一人になると急に寂しくなった。
それでもあいつ……悪妹と一緒よりは一人の方が断然良い。
「あ……あー……あ、いーいーうー……」
マネ子達が席を外してからどれだけ声が出せるか検証してみた。
少し詰まるし途切れるものの、目覚めた直後よりは発声出来るようになっていた。
これならば多少の意思疎通は可能かなと判断出来る。
身体の方は……
せめて普通にナースコール押せる程度には動けると良いんだけど。
流石に金縛り状態よりはマシだったけれど、指の第二関節が動かせる程度だった。
それも左手だけで右手はピクピクする程度……
そういやマジな話でシモの方はどうなんだ?
おむつなん?俺、この歳でおむつなん?
確認しようもないけど、力を入れられない事から察するに多分おむつ決定だろうな。
あー垂れ流しかよ。
多分この調子じゃ病院食すら食べられないだろうし主食は点滴かな。
飲み込めるならゼリー状のモノでも可能なんだろうけど。
☆ ☆ ☆
説明室から戻ってきたマネ子が医師に説明した内容を伝えてくれる。
その中でマネ子が爆弾発言を投下してきた。
「お母さんに許可を貰ったから私、病室に泊まるね。」
「あ、りが……とう。」
それはマネ子が宿泊する事で家族には寄らせないという事。
どこまで病院側が了承するかわからないけれど、電話越しではあるけれど、親父の承諾は得たらしい。
病院にも親父から連絡し、マネ子の話の真実性を確認。
親父以外は病室には入れない事を話したとの事だ。
その親父自身もろくに会わせる顔がない等を含め、目立って来院はしないとの事だった。
必要な場合は、マネ子とマネ子の両親を通して親父に連絡をするようになった。
病院からの緊急を要する用件に関しては直接親父に連絡が行くようだけれど。
基本的に俺と家族が顔を合わせる事はないそうだ。
それを強固なものとするためにも俺はもう少し動けるようにならないといけない。
せめてナースコールは問題なく使えないと。
そしていくつかの検査をしてあっという間に一日は終わった。
その合間に俺の下半身事情は判明した。
やはりおむつだった……
☆ ☆ ☆
部屋に備え付けられている風呂をマネ子は利用する。
もしかするとこの部屋、一晩10万超なんじゃないだろうか。
個室というだけでも万はいくはず……VIPルームとまでは言わないけれど、部屋に風呂がある部屋って普通じゃない。
「まおー、良い湯だったよー。」
ってオイ、何故お前は【ぱんいち】なんだよ。上半身はタオルで隠れてはいるけどさ。
江戸っ子か、江戸のオヤジか。恥じらいとかそういうのはないのか!
「おま……」
「そこは生で見たかったら早く良くならないとねー。」
言葉の祖語を感じる。俺は別におま〇〇と続けようとしたわけじゃねぇ。
お前……という意味で言ったんだよ。
というか見られても良いんかよ。
「良いんだよ。真生だからだよ。本当にもう……」
「もし真生に何かあったら、私だってそっちに行っちゃったかもしれない。」
「真生が目覚めて本当にホっとしたんだよ、嬉しかったんだよ。もうあんな思いはしたくないんだよ。」
「だから、何があっても私が支えたいんだ。それがおよ……マブダチってもんでしょ。幼馴染ってもんでしょ。」
それってどういう意味だ?マブダチ幼馴染の定義って一体……
「看護師さんがいない時は、私が面倒を見るからね。おむつだって替えちゃうんだからね。」
夕方月見里看護師におむつを替えられた時は恥ずかしかった。
小さい時一緒にプールや風呂に入った間柄ではあるけれど……やめて、やめてそれだけは。
「まおー、チュミミーンとか言わせないよー。」
こいつ……心の中を読んだのか!?
☆ ☆ ☆
※夕方のおむつ交換の話。
手際良く、腰を浮かせたりおむつを剝がしたりと迅速丁寧だった。
「あら……」
その「あら」はナニ?なんなのー?と思ったよ。
あそこを拭く時に、ちょんと摘まんでひょいって避けて拭いて、ちょんと摘まんでひょいっと避けて反対側を拭いて。
一応剥いて中まで綺麗に温かいタオルで拭いてくれたよ。
もう恥ずかし過ぎる。彼女にも剥いて貰った事ないのにー。
って彼女いないけど。
「勿体ないよねー。早く良くならないとビッグジョン、宝の持ち腐れになっちゃうよね。リハビリ厳しくなるけどめげないでね。」
などと言っていた。
向こうは仕事だから大小問わず有象無象なのかもしれないけどさ。
今後こうやって一日に何度か看護師に処理されるのかと思うと恥ずか死ぬってもんだ。
☆ ☆ ☆
夕食はやはりなかった。正確には固形物は当然なかった。
栄養の観点から全てを点滴というわけにもいかないのだろう。
飲み物はあったけれど、うまくストローでは吸えず。
ベッドの上半身を60度上げて、汁ものだけスプーンで運んでもらった。
マネ子の「あ~ん」によって。
「赤ちゃんプレイってこういう事するのかな。」
などと訳の分からない事をマネ子が口にしていた。
俺はバブみなんて求めてないからな?
口の周りを拭いてくれたり、とてもありがたいけどさ。
「早く良くなって欲しいけど、自分で動けるようになっちゃうとこういう事出来なくなっちゃうんだよね。」
そう言う事で複雑な気持ちにならないで欲しい。
というかマブダチ幼馴染でこれなんだから、普通のクラスメイトとかだったらどうなんだ?
普通はナースコールと話し相手くらいになるだけじゃないか?
過剰看病なんて言ったら失礼かもしれないけど、幼馴染の友情が熱過ぎて怖い。
チュミミーン云々の後、マネ子は普通に着替えていた。
パジャマになったのは就寝間際だけど。
態々下着が見えるように着替えていたように見えたのは気のせいでしょうかね。
しかし……目覚めた時悪妹が見えてどうなる事かと思ったけれど。
マネ子のおかげで、俺自身が重傷人だという事を忘れるくらいの一日だったと思う。
そうだな、感謝……しかないよな。
簡単に返せる恩じゃないけど。この先を考えれば猶更な。
気付けば就寝時間となっており、消灯と共に睡魔が襲って来た。
流石に幼馴染に襲われる事は……なかったよな?
「痛ぇ…いてぇよ……」
真っ暗だからわからないけど、多分深夜。
身体の痛みで目が覚めた。それと少し違和感を感じるが、昼間起きた時よりも身体の可動域が少しだけ広くなった。
個室扉が普通に見える。目線の位置に正方形の曇りガラスが嵌められており、外側の灯りが何となく伺える。
夕食の時よりも暗いのがわかった。
「大丈夫?」
俺は首をフルフルと横に振った。
あちこちが痛い。主に右腕と腰と背中。熱を持ったような痛みが襲って来た。
多分痛み止めが切れたのだろうな。
「ナースコール押したから直ぐに来てくれると思う。」
直ぐに駆けつけてくれたのはピンク色のナース服の月見里さんと、もう一人水色のナース服の静内さんだった。
牧場みたいな苗字だと思った人は競馬ファンだろうな。
俺が痛がっている様子を見て、早速行動に移っていた。
「さ、座薬入れますよ~お尻出しますよ~駄々こねると指だけ入れちゃうよ~」
明るい感じで言って、二人の看護師が俺の身体を腰のあたりを横に浮かせると、一人が……件の月見里看護師がパジャマを下ろした。
そして……何やらマジックテープらしきものを剥がしていく。
つまりはおむつを外していったんだよ。
そして俺の身体を拭いていくんだ。これってあれだろ?大か小かわからないけど汚れてるって事だろ?
汚されちゃった……もうお嫁に行けないって言えば良いのか?
ガン見してるし……マネ子に見られた……マネ子に見られた……
両手で覆っているけれど、その隙間から見ていたのはバレてるんだよ。
綺麗にした後、綺麗なタオルを尻の下に敷いて、俺の身体を少し横に倒した。
そして月見里看護師が俺の尻へ……ずぶっと何かを入れたのが何となくわかった。
少しだけひんやりとした感覚が尻のほっぺを伝ってきたからだ。
それ以上の感覚は……知らんっ。知らんったら知らんっ。
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