第12話 ふぁふぁあふぃほ/う、裏切り者~!
マタタビが仲間になって、二人の旅は快適さを増しました。
最も変わったのは食事。
マタタビは料理上手ですから、保存食を美味しいなんてレベルではなく、料理と呼べるレベルまで昇華させてしまいます。
さらに、マタタビは狩りも得意ですから、魚や獣を捕ってきて旅の道中とは思えないほど豪華な食事を用意します。
ただし、そのせいでクラーラは、この一週間ほどで少し太りました。
本人も自覚があるらしく、「この魔術とこの魔術を組み合わせれば……。ああ、これでは干物になってしまいます……」などとブツブツ言いながら、ダイエット用の魔術を創作しています。
「クラーラお姉さまは、クラリスお姉さまみたいに運動とかしないニャ?」
「しないしない。クラーラって、基本的に動くの嫌いだから」
旅暮らしをしていれば、ただ移動しているだけでも運動量は凄い。
太ったなどと、気にする必要もないくらいでございます。
実際、クラリスはマタタビの料理を食べても、体形は全く変わっていません。
変わらなすぎるので、寝る前の鍛錬を減らそうかと考えているほどです。
それなのに、クラリスより食べる量が少ないクラーラが何故太るのか。
その理由は、クラーラが常日頃から使っている……。
「
「嫌です! アレを使わないと、荷物の重量で潰れてしまいます!」
そんなだから太るのよ。
と、クラリスは思いはしても、口には出しませんでした。
ちなみに『
違うのは、体を覆う魔力を術式で操作して、体を動かさなくても魔術が設定通りに体を動かしてくれるところでしょうか。
操気術はそんなことができない分、考えなくても魔力が体の動きについてくるように修行します。
ですが
要は、クラーラはこの魔術を使って楽をしているのです。
これを使ってる間のクラーラは、はた目には動いているように見えても全くと言って良いほど体を動かしていません。
本人曰く、「今やこれがなければ、日常生活にも支障がでます」とのたまうくらい依存しているのでございます。
「こりゃ駄目ニャ」
「そうね。ところでハカタには、明日には着くんだっけ?」
「そうニャ。だから、今日は早く寝た方が良いニャ」
「だね。じゃあクラーラ、
おっと、クラリスに限定されますが、マタタビが仲間になって食事並みに変わったことがもう一つありました。
二人は野宿をする場合、風の応用魔術である
そこで登場するのがマタタビ。
クラリス曰く、マタタビはものすごく柔らかくて、寝顔も可愛いので癒し効果が半端ないく、しかも一度寝ると、クラリスが何をしようが朝まで起きないというオマケつき。
おかげで、クラリスはマタタビにイタズラをすることでスッキリして眠れるようになり、肌のツヤも良くなりました。
「クラリス、もう寝るのですか?」
「そりゃあ、明日は早めに出発するからね」
「どうしてですか? 娼館が開くのは、早いところでも昼前ですよね?」
「いや、そうだけど、ハカタを散策したいって言ったのはクラーラだよ? だからその時間を作るために、今日は早めに寝るんじゃない」
もしかして、悪れてた?
と、クラリスは疑いましたが……その通り。
クラーラはダイエットのことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていたのです。
今も、クラリスの言葉でそれを思い出し、右手で左手の平のポンと叩きながら「あ、そうでしたね」って言っています。
「ハカタは、この国が統一されてオオヤシマって呼ばれるようになる前は、ヤマタイって国の首都だったんだよね?」
「そうです。しかもその国は、オオヤシマでも有数の魔術大国だったらしいので、その国ならではの魔術も多く存在します。ですから……」
クラーラは散策したかったのでございます。
だったら、自分とマタタビ用のウォーターベッドを作ってアンタも寝なさい。と。ダイエット用の魔術をぶつくさ言いながら作ろうとしてたクラーラを言いくるめて、なんとか眠りについて、翌日の昼前にハカタに着けたのですが……。
「ごめんなさいニャ。たぶん、うちのせいだニャ」
「いや、マタタビちゃんのせいじゃないよ」
ハカタに足を踏み入れるなり、オオヤシマでは神職に就く者が着るショウゾクと呼ばれている服装をした集団に囲まれました。
マタタビにはああ言いましたが、クラリスは最初、妖描族を排斥しようとしている連中化と疑いましたが、マタタビは獣化して子猫姿になり、クラリスの髪の毛に隠れてる。
それに加えて、あたしたちを取り囲んでる集団の視線は、クラーラに向いていたので、その線はないと判断しました。
余談ですが、このショウゾクは身分に応じて、ハカマと呼ばれている部分の色が変わります。
一番上が白に白紋、その後に紫に白紋、紫に紫紋、紫、浅黄色、白、松葉色と続きます。
二人を囲んだ者の大半は浅黄色や白のハカマをはいていますが、一人だけ紫に紫紋の人がいます。
「失礼とは存じますが、クラーラ様とお見受けしましたが、間違いございませんか?」
紫に紫紋のハカマをはいた人が一歩前に出て、クラーラに質問……と、言うよりは確認をしました。
それを聞いてクラリスは、コイツら、クラーラに何の用? クラーラはその魔道の才で、ブリタニカ王国やその周辺国では有名人だけど、オオヤシマまで名前が轟いてるとは思えないんだけど……。と、集団の思惑を詮索しました。
ですが、クラーラは……。
「……いえ、人違いです。わたくしはクラリス。クラーラは隣の痴女です」
クラリスの名を騙りました。
それを理解するに従って、クラリスの内に怒りがこみ上げ始めました。
クラリスにとって、名前は宝物。軽々しく
それでもクラリスは、クラーラは何か思うところがあってそうしたんだろうと考え、怒りを抑え込んで趨勢を見守ることに……。
「彼女が? ですが、我らが聞いた特徴と違いすぎます」
「ちなみに、どんな特徴ですか?」
「鈍器を持った巨乳シスターと。そちらのお連れ様は、その特徴から逸脱しています。シスターではありませんし、胸などまっ平らではありませんか」
した途端に、紫に紫紋の人の悪気のない言葉で、怒りは再び燃え上がりました。
ちなみに、その時のクラリスの心境は……。
(あれ? これって、喧嘩売られてる? 売られてるよね?よし、じゃあ買ってやる。そりゃあ、たしかにあたしは胸が小さいわ。でも、少しは有るの。クラーラと比べたら泣きたくなるほど小さいけど、確かに存在してるのよ。それをまっ平らだなんて、殺されても文句を言えないほどの暴言だわ)
このような感じでした。
そしてクラリスは、ゴールデン・クラリスこそ使わなかったものの、紫に紫紋の人に殴りかかろうとしたのですが……。
「コイツら、ぶっ殺……!」
「土よ、拘束しなさい。
「ちょぉっ! 何すんのよ!」
クラーラに魔術で拘束されました。
しかも、魔力封印の術式まで編み込んであるせいで、クラリスは完全に身動きが取れません。
ちなみにマタタビは、クラリスが完全に拘束される前に逃げ、物陰から二人を見守っています。
「
「裏切ったわねクラー……ふぐぅ!?」
クラーラは名前を言われる前に、クラリスの口を塞ぎました。
ここまでされたらクラリスも黙っているわけにはいかず、ゴールデン・クラリスを発動して力付くで拘束から逃れようとしたのですが、体中に紙切れをペタペタと何枚も貼られました。
「ご協力、感謝いたします」
「あら、それは封印の護符ですか?」
「ご存知なのですか? これは我らが姫巫女様独自の封印の護符で、門外不出なのですが……」
「ええ、以前、タムマロ様がお持ちになっているのを見たことがあるのです。わたくし、勇者様と懇意にさせていただいておりますので」
「ああ、タムマロ殿のお知り合いでしたか」
なるほど、封印の護符か。
だから魔力を解放しようとしても、微塵も魔力が出せなかったのね。と、クラリスは納得すると同時、本当にヤバいと焦り始めました。
ですが、魔力も使えず身動きも取れない。
そんなクラリスにできることは……。
「
「何を言ってるのかわかりませんので、とっとと連れて行っちゃってください」
クラーラに助けを求めることくらなのですが、クラーラは無慈悲に切り捨てました。
ちなみにクラリスは、ただ助けてほしいがためだけに、助けてと言っているわけではありません。
今はまだ大丈夫ですが、このまま二人の距離が離れてしまうと……。
「ふぇぶっ……!」
搾取の首輪の有効範囲から出ると魔力が吸えなくなり、マジカルパッケージが切れてクラーラが荷物に潰されるからだったのでございます。
搾取の首輪はクラリスの魔力が封印されていても魔力を吸えるのですが、半径200m内にいないと吸えないという制約があります。
それを、作ったクラーラ自身が忘れていたのですから、クラリスは呆れを通り越して絶望してしまいました。
「ちょ、クラ……クラリ……」
今度は逆に、荷物に潰されてしまったクラーラがクラリスに助けを求めましたが、クラリスは聴こえていないふりをするばかりか、抵抗までやめてしまいました。
使ったのが別の拘束魔術なら話は違ったのですが、クラーラがクラリスを拘束するために使ったのはアースチェイン。
なので、魔力が吸われなくなった今もクラリスを拘束し続けているので動けません。
まあ、術式は解けて土の塊になっているので、抜け出そうと思えばできるのですが、それでもクラリスは、名前を騙ったクラーラへの意趣返しをかねて、自分を担いで運ぶ人たちに身を任せ……。
「
と、一言だけ言い残しました。
それが聞こえたわけじゃないのでしょうが、クラーラは精一杯声を張り上げて……。
「う、裏切り者~!」
と、寝言をほざいていました。
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