夢心 1
あろん㌁ぼんど
第1話
1 一人の時間 私の時間「寺川紗友里」
私の部屋は、主に2つの空間に分かれている。
一つ目の空間は樫の木の断面の渋い色をしているちゃぶ台が大きな長方形の法律事務所に置いてありそうな鉄製の本棚二つに囲まれている部屋の角の狭い空間だ。
それに加え周りにはピンク色の家具が多いため、この空間だけ異様な雰囲気を醸し出していた。
私はその空間に置かれている座布団に座るなり20×20のよくある原稿用紙をちゃぶ台の上に広げ、本棚にしまってある一冊の小説を取り出しそれを片手で開き、
定価92円ほどの2B鉛筆をもう片方の手で取って構える。
その体勢のまま隣に広げてある「話のタネ」というタイトルのノートを見ながら原稿用紙に文章をすらすらと流れるように書いていく。
これが私の趣味の一つ「物書き」である。
小さい頃から何かとモノを創作するのが好きで、よく積み木で大きな模型を作ったり頭の中で自分の世界を創造して遊んだりと創作活動をしていた。
しかし一年前、あと二か月ほどで中学生になるのに積み木や妄想で遊ぶのは幼稚だとして自分のプライドが台頭し積み木や妄想を私から取り上げてしまった。
其処から一週間は耐えられたのだが、私のプライドで創作意欲を押さえつけることがだんだん辛くなってきたので他の方法を使って創作活動に勤しんでみようと一度小説を書いた。
それが意外にも私の枠にはまり、それ以来時間があれば常に小説を書いている。
黙々と小説を書いていると、横の空間においてあるスマホからピロンと小さな音が鳴った。
私はそそくさとそのスマホの元へ駆け寄り、二つ目の空間へと脚を踏み入れた。
二つ目の空間は下にローラーが付いている可愛らしいピンク色をした椅子とよくお店で見かけるような加工した木が使われている勉強机が置いてある一つ目の空間の左の角に存在する空間だ。
勉強机の上には「maw」と灰色の文字で書かれた黒いノートパソコンがちょこんと乗っている。
何時もの慣れた手つきでスマホをスライドさせ、テキストアプリを開く。
やっぱり。私はその場でにこっと微笑んだ。
そう、最近付き合い始めた「山本進太郎」という男からテキストが送られていたのだ。
「やっほー!今からちょっと通話しない??」
私は心の中で「勿論だよ!!」と叫びながら
「おっけーだよ!寂しい時はいつでも私に掛けてね☆」
と送った。
すると数秒後、耳残りしやすいメロディーがこの二つ目の空間一体を包んだ。
私は固唾を文字通り飲む。なにしろ好きな人との通話はこれで二回目。まだ慣れていないのだ。
私は意を決しスマホに表示されている受話器の様なマークを押す。
安心するが少しドキっとするような恰好良い声が私の耳にぎゅうぎゅうと押し付けられているスマホから直接脳内に響き渡る。
「ごめんね、突然電話しちゃって」
彼の一声が私の脳内をホールドする。
突然の抱擁に一瞬気を取り乱してしまい1秒ほど固まった後に返事をした。
「全然いいよ!!頼られてるみたいで嬉しいし」
「紗友里ちゃんが喜んでくれてるなら僕も嬉しいよ!!ところで今週の日曜日空いてる?」
本当に彼は毎度毎度息をするように私の言って欲しいことを言ってくれる。これが俗に言う「以心伝心」というものなのだろうか。
そんなことを考えながら
「空いてるよー!!何するの?」
と返答する。
「小説、好きだったよな?県立図書館で一緒に本読まない?」
彼のその一言で、先ほどまでの幸せな気持ちがケーキの様に分断され、誘ってくれて嬉しいという思いと少しモヤっとした思いの二つが共存し始めた。嬉しいことには変わりないのだが、なんだかモヤっとするものがあった。この思いは一体なんなのだろうか。
私は彼との関係の悪化を恐れて返事をする。
「あっ…うん!一緒に読みたい!」
「…?わかった!じゃあ明日昼一時から図書館ね!」
彼の声から少し疑問の音が聞こえたが、まあ大丈夫だろう。私はそう自分を落ち着かせながら彼との会話のキャッチボールを楽しんだ。
夢心 1 あろん㌁ぼんど @kuri-ku
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