第6話飛行船

マドレーヌが水戸を起こしたのは、彼を護送用の飛行船へと案内するためであった。

「でかっ!!!」

その豪華客船2つ分より大きい飛行船は、空を海で泳ぐ鯨のように優雅に泳いでいる。

「ここから入るのよ。」

いままで乗っていた小さな(この飛行船を見た後ではそう思ってしまうのもいたしかたないだろう)飛行機のまま乗り入れる。

そこでは、たくさんの軍兵たちが敬礼のポーズをして、待っていた。

「南アメリカ大陸担当、マッシ将軍であります。」

その中でも、ひときわ体が大きく、豪勢な服を着ている男がそういった。

「第四位、第十位、第十二位、無事にキーストーンともども到着いたしました!!」

水戸たちも同じく、敬礼の姿勢を保ちながら将軍の場所へと移動する。

「ここから、アメリカ国連総基地までお送りいたします。長旅ご苦労様でした。とりあえず、私たちがキーストーンをお預かりしてお守りいたしますので、ゆっくり館内でお休みください。」

キーストーンを落とさないようにゆっくりと渡す。

「そうですか、では。お言葉に甘えて。」


マドレーヌ、水戸、町にはそれぞれ別室の個室が与えられていた。ホテルのスイートルームのような部屋であった。

マドレーヌは、そこで寝ることもなくすぐに手紙の執筆の準備へと取り掛かる。

自分が妹からもらっていた、任務中なので受け取れなかった手紙を傷つけないように、開封する。

「うーん、マドリーヌのにおい。香水まだ変えてないのね。」

マドレーヌは手紙からわずかに滲む、柑橘系の香水のにおいを存分に頭の中で楽しんだ後、彼女は本文を読み始めた。

お姉ちゃんへ。いつもの書き出しから始まった。

国連軍のお仕事は大変でしょうか。お身体に気をつけて、とはなかなかいかないお仕事でしょうが、どうかご無事でいてください。

彼女はいつも私の体を気遣ってくれる。私をいつもためらいなく最前線に送る周りの男どもとは大違いだ。彼らも最前線で戦ってほしい。

私は、また新しいお仕事がもらえました。映画の主演だそうです。

「ふっ!!!!!はあはあはあ。・・・・・危ないところだったわ。」

妹の活躍がうれしくてつい、過呼吸になってしまうとこだった。前に過呼吸になった時は、同居人が私の子の楽しみを知っていて、助けてくれたが、今なるわけにはいかない。

「ふー。ふー。」

深呼吸で落ち着かせる。そして、妹からの手紙をまた開いた。

悲劇のヒロインのようですが、一生懸命演じようと思います。

また、私は22歳になりました。大学も卒業の年です。おそらく予定通り卒業できると思われますが、気難しい教授の気まぐれもあるかもしれません。誕生日プレゼントとして頂いたネックレスは今も身に着けています。

「あっ!!!!!!!!!」

彼女の妹がネックレスを着ているシーンを想像した瞬間、彼女の呼吸は止まった。

「大丈夫ですか、マドレーヌ様!!!」

部屋の中に護衛兵が駆け込んでくる。どう説明すればいいのだろうか、、、と。彼女は悩みながら気絶した。


気絶してから三十分が経ち、呼吸は落ち着いてきた。

「ご気分はいかがですか?何があったのでしょうか???」

助けてくれた純朴そうな15ぐらいの好青年が心配してくれる。しかし、正直に言えるはずはない。こんな時は、、、

「ふふ。それは、大人の女性の秘密よ、君にはまだ早い。」

投げキッスも付け足しておくと、完璧だ。目の前の青年は真っ赤になって、

「失礼しましたあ!!!」

と、部屋から慌てて出ていってくれる。正直、何が乙女の秘密なのだか知らないが。

きをとりなおして、今度は返事を書き始める。

「親愛なる妹、マドリーヌへ。」

書き始めはこれでいいかな。そう思いながら、彼女の顔はだらしなく緩む。妹マドリーヌへと手紙を書くときはいつもそうであった。

「元気でやっていますか。芸能界の仕事は大変でしょうが、くれぐれも体を壊さないように、、、」

これでは今までに書いた1057通もの手紙の中の30通とまるっきり一緒だ。

「でも、体には気を付けてほしいわね。まあ、強調表現の範囲ね。」

彼女は次の文章を考え始めた。

「こちらは、相変わらず大変です。新しく来た第十位というのが、、、、

こんこん、とノックの音が玄関の方からした。だらしない表情と今までに書いていた手紙を隠す。

「どうぞー。」

すべてを見つかりにくい場所に隠したところで、彼女は外にいる人物を中に入れた。

「はっ!!!」

さっき来た兵隊の一人が玄関の前で立っている。

「夕食が出来上がりました!!!一時間以内に来ていただきたい、とのことです!!!」

ふん、そんなことで幸せな気分に浸っていた私を呼びに来たのか。と、言いたいところを我慢して笑顔を作る。彼には、一応貸しもあることだし。

「そう、ありがとう。でも、まだシャワーを浴びてないの。一時間以内はもしかしたら厳しいかもしれない、と。伝えてくださる?」

まるっきり口から出た誤魔化せだったが、目の前の男は納得してくれたようであった。

「了解しました!!お疲れでしょうから、そう伝えておきます。」

彼が出ていった瞬間、彼女はまた手紙を取り出して、だらしない顔をした。自分が国連軍、という枠組みから抜け、幸せな気分を味合うことのできるただ一つの週一回だけの楽しみだ。誰にも邪魔されたくない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――おまけ 

 人物ファイル 町 小町

性別 不明(おそらく女性)

性格 ロボットのようなしゃべり方をしており、極めて冷静沈着。それゆえに、人と仲良くなりにくい。

戦闘面 弓の名手である。核武装を認められた数少ない人物の一人でもある。











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THE WAR 絶対に怯ませたいトゲキッス @yukat0703

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