魔石3個 エスケープ・エンド①

 あたし、ラキル・マノアーグ。そして、この子は魔石メアリウド。

 魔石と一緒に旅してまだ一日も経ってないわ。おそらくは果てしなく長い旅になると思う――。


 最果ての地ではないけど、こんな大都市圏がこの魔法の国エンデルドラにあるだなんて、地図探策してないあたしには、ビックリギョウテンものの他でもないことよ。


「ほうら、そこの旦那さんも坊ちゃんも来な来な!! このルウレストの都会で車輪を利用しないと後悔するよ〜!!」


 門戸手前で、車輪交通商売してる商人を見かけて、あたしは目まぐるしくなってきた。大都市ルウレストでは、車輪販売して買い手が廻さないと、長距離を渡りきれない大規模な都市空間らしいわ。

 車輪を取り付けたキャビネットは、ラグワーザという曳き鳥が引っ張って移動するシステムなんですって。

 キャビネット付きの車輪を販売して、後はラグワーザをレンタルするんだけど、ラグワーザは一体で5千ウァーク(一万円近い)する高額レンタル料金。

 みんなからの資金が即座に消える金銭管理になるわ。だからあたしは車輪は買わないことにしたわ。


「俺っちが飼ってるラグワーザのセリューを貸してやりゃあ。お代は要らねえ。それならご同行良いだろ? そこの旅の姉ちゃんよ」

「けっこうです。資金は計画的に使う主義なので」

「追われてんだろ? 借金取りみたいなしつこい奴らに。借金取りでなくてもそんな追い詰めた顔してりゃ、この大都市でもあんたみたいなのすぐに見つかるさ」

「あたしのこと知らないくせに馴れ馴れしいわ。あっち行ってよ」

「追っ手に捕まるか、俺っちと同行か、一人旅でコソコソ隠れながら潜むか、どっちが良い?」

「コソコソ潜むからお構いなく」

「『あたしを捕まえてください』という選択肢だぞ。まァ、好きにしたらいいがな」


 あたしの知らない街並みに停滞した男性が立ち去る間際に、あたしは考えなしに呼び止めてしまった。


「あの、待って……」

「ん? なんだい?」

「やっぱりここの地理知らないから教えてください。お願いします」

「車輪料金はキミ持ちだけど、大丈夫?」

「千ウァークもかかるなんて……いいわ。それでお願いします(あぁ〜クスン)」

「そうか。では、俺っちはセリューの預かり場まで取りに行ってくる。それまでに車輪の支度を済ましてくれ」

「ええ。頼みます」


 あたしは、車輪を購入してどこも知らない男性を待った。でも、一向に戻らない。騙されたのかな? いいえ、あの男性は欺かないと思うわ。


「イヤあ、待たせてごめんな。セリューが大人しくしてくれなくてな、時間かかった」

「あたしなら大丈夫ですから」

「今からセリューをキャビネットに繋ぐ。道案内なら俺っちに任せてくれよ。ちゃんとエスコートするぜ」

「まァ、上手なセリフね。頼もしい限りで」

「本名は明かさないが……俺っちはクルゥという。キミは?」


 セリューを車輪に繋ぎながら自己紹介しだしたクルゥ。


「あたしはラキルよ。この際だから家名はなしでね。旅を共にする関係だけなので」

「良い名だな。よし、連結完了。曳き鳥御者はこれでも慣れてる。さぁ、キャビネットに乗ってください、お嬢さん」

「そんなお世辞はいいから早く出してよ」

「エスコートするんだ。お世辞は付きものだろ?」

「クルゥったら口説くの上手よね。フフフ」

「ハハッ。一本取られたな」


 御者役のクロゥの曳くラグワーザ車が、ゲストの旅人であるあたしを乗せて街中を駆け抜けて行った。

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