お姉ちゃんは料理下手
エプロンをつけ、野菜などの必要な食材を並べる。
「さぁてと、器具の準備もできたし。……お姉ちゃんにも手伝って欲しいかなぁ……なんて」
ちらっ。と分かりやすく横目でお姉ちゃんを見てみる。
「簡単なことなら別に出来るよ」
「大丈夫。カレーは簡単。私がカレーを代表して言う」
私が一番最初に身につけた料理もカレーだった。
美味しいし。手軽。
野菜を切って、ルーをどばどば。
後はお鍋をぐるぐるぐるぐる。それで完成。
「勝手にカレーを代表しないで」
「すみませぬ。まぁ、とりあえず、まずは玉ねぎから切ってもらおうかな。私はご飯を仕込むから」
「りょ、了解です」
お姉ちゃんは、まな板の前まで歩き、包丁を収納スペースから取り出した。
たくさん置いてある野菜から玉ねぎを一つ取り出し、まな板の上にポンと乗せる。
ポケットに手を突っ込んだなと思ったら、そこからヘアゴムを取り出した。
あぁ。確かに、あの長い髪の毛が混入したらまずいなと、納得する。
無意識に私の髪にも触れてみるけど、結んでないことに気づいたので私も同様にポケットからヘアゴムを取り出した。
そうこうしているうちに、お姉ちゃんは長い髪を手際よく結ぶ。
そしてそれは、下へと垂れる一本の太い線となった。
対して私の髪は多分、ひょこって髪の毛の中から飛び出しているだけだと思う。
髪を結び終えたお姉ちゃんは、まな板に置いた包丁を手に取り、玉ねぎに添える。
ちょっと玉ねぎを持つ手の形に、不安を感じてしまうけど、怪我をしそうな手付きではないので、そのまま見守る。
「お姉ちゃんがんばれー」
「お姉ちゃん頑張ります」
サクっ。
気持ちのいい音を立てて包丁が食い込んだ。
……けど、包丁を入れる間隔が異様に広い。
これじゃあ玉ねぎごろっごろカレーになってしまう。
ジャガイモとかの方が良かったかな。
あ、でもニンジンとかも簡単だな。
……玉ねぎを切らせるのは間違いだったかも。
「どうかな。てんちゃん」
してやった顔でこちらを見てきた。
ダメだよ。とも言えず、私は次の仕事を押し付ける。
「よし! お姉ちゃん、次はニンジンだ! ニンジンを切りましょう。お姉ちゃんには包丁の才能があるようだね!」
お姉ちゃんを落ち込ませたくなくて嘘をつく。
いや、伸びしろはあるんだよ。うん。
誰しもきっと、最初はこんな感じなのだから。
「ほんと? 嬉しい。わかった。次はニンジンね。頑張ろう」
お姉ちゃんが少し子供っぽく笑う。
……可愛い。
「よし。切ります。てんちゃん見ててね」
「見てるよー」
とんとん。
調子の良い軽やかな音を立てながら、包丁を扱う。
褒められて気分を良くしたのだろうか。包丁のスピードが速い。
それにしても……
全然うまく切れてないよ!
いいのは速さだけだよ!
極大のニンジンから極小のニンジンまで、十人参十色とはまさにこのこと。
これじゃ、さっきの玉ねぎの二の舞だよ!
いや、玉ねぎの方がまだマシだよ!
と一通り頭の中で突っ込んだところで、お姉ちゃんが満足げにこちらを見る。
「どう? このニンジンさばき」
「う、うん。それを言うなら、包丁さばきの方ね。いいと思うよ」
「よーし! 次は──」
「お、お姉ちゃん! ここからは私が! 私に任せて!」
「いや、てんちゃんの役に立てるってすごく嬉しいから、私にやらせて」
その気持ちはありがたい。
ありがたいけど、このままだとカレーは死ぬ。
だから、ここからは私がやったほうが──
その時。
ふと、思い出したかのようにお姉ちゃんはこう言う。
「それよりてんちゃん。ご飯の仕込みは?」
………………。
……わ、忘れてた!
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