明日の予定

 シャッシャと米を研ぐ。

 米を炊くことを、お姉ちゃんの方を見すぎて完全に忘れていた。

 これは早炊きにした方がいいかな。

 そしたら、一時間ほどで炊けてカレーもその頃には完成しているだろう。


 お姉ちゃんは、トントンと超高速で何かを切っているけど、何を切ってるんだろ。すごく心配だ。

 見たいけど、今は米研ぎに集中せねば。


 ……よし。まぁ、こんなもんだろ。

 米が入ったざるの水を切り、それを炊飯器へ──


「ちょ! お姉ちゃん!」


 炊飯器に持って行く段階で目に映るお姉ちゃんの姿。

 野菜をトントンとする音が途絶えたなと思っていたら、今ほど切った野菜たちを鍋の中へと放り込んでいた。

 それに気づいた、私の方を向いて「ふふ」と無邪気に微笑む。


「私、少しでもてんちゃんの役に立てたらいいなって」

「うわぁ。ありがとーーー」


 この笑顔を前にして何も言えない自分が情けない。


「どういたしまして」

「う、うん。じゃあ、ここからは私が──」

「カレールーも一緒に入れればいいよね。どばどばー」

「ちょ。お姉ちゃん。……あぁ。時すでに遅し」


 間に合わなかった。

 私はお姉ちゃんの気が早まるのを止めることができなかったのだ。


 お姉ちゃんは終始、満足気な表情だった。

 その表情を見れば、まぁ。いいっか。って思えるのだった。



※※※※※※



「さぁ! 完成したね。てんちゃん」

「あ。うん。わーい」


 あ。やばいこれ。

 具がゴッロゴロなんですけど。


 やる気満々になったお姉ちゃんは、「つぎ分けも任せて」と嬉々として言ってきて、私も断ることができなかったので、机で待っていたのだが。

 その時にお姉ちゃんが持ってきたものが、この具ゴッロゴロカレーだった。


 匂いは良い。

 見た目が悪い。


 まばらなサイズのニンジン。

 大きすぎる玉ねぎ。

 謎に千切りなジャガイモ。

 肉、丸ごと。


「てんちゃん、頂きましょう」

「あ、うん。そだね」


 「い、いただきまーす」と、私はまず具を避け、ルーとご飯をスプーンに乗せ口に運ぶ。


「あ、美味しい」


 普通に美味しい。

 じゃあ、次はこのでっかい玉ねぎを食べてみよう。


 ……。

 デカすぎて口に入らないので、一旦皿に置いてスプーンで両断する。

 再びそれを口に運んだ。


 あれ?

 なかなかいける。美味しい。

 なんか本当に、シャキシャキしてて、カレーとも相まって、めっちゃ美味しい。


「お姉ちゃん。普通にこの野菜たち、美味しい」

「なにそれ。不味そうって思ってたってこと?」

「い、いやいや。それは違うくって」


 いや、違わないかも。

 対面にいるお姉ちゃんは、どこか不服な顔したが、次の瞬間に何かを思いついたように手をポンと叩いた。


「まぁ。てんちゃん。それよりも、明日って何か用事ある?」


 その問いに、私はカレーを口に運びながら答える。


「明日? んーまぁ、お姉ちゃんと遊ぼうかなー。暇だし」

「そうしましょう!」


 食い気味に肯定される。

 そういえば、今日は寂しがってたみたいだし遊んで欲しいんだろうな。

 これじゃあますますお姉ちゃんが妹みたいになってしまう。


「と言っても何する? ゲームとか?」

「外。外に遊びいきたい」

「どこ行きたいの?」

「水族館! 魚好き!」

「水族館かぁ。長いこと行ったことないなぁ」


 にしても、お姉ちゃんが魚好きなんだな。

 ちょっと意外かも。


「お姉ちゃんはどんな魚が好きなの? 私、イルカかなー」

「イクラ」

「それ、お寿司屋で良くない?」

 

 

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