第5話 ミルコの母親と乃木坂の接点

『うちの父親が少しだけ煙草を吸っていた時期もあったのでその所為なのでしょうね。肺がんになってしまったのは』


と乃木坂は.....屈託の無い様な笑顔で俺に話した。

少しだけ不安そうな声をしたが晴々とした感じで、だ。

俺はその事に.....少しだけ顔を顰めるが。

更に乃木坂は続けた。


『でも私は父親を恨んではいません。.....これは私に課せられた使命だと思っていますから。乗り越えるべき使命です。.....何の使命かと言えば.....そうですね。私が幸せになるべきの、です』


強すぎるだろ。

俺は思いつつ.....両手で頬杖を突きつつ考える。

そして.....電話を切ってから。

改めて俺は77の秘密のヒントを得る為に.....いや。

正確には76の秘密を得る為に単語帳を読んだ。


そこにはこんな事まで書いてある。

私の好きな場所は何ですか、と。

流石にこんなのは分からない。

俺は考えながら顎に手を添える。

しかし、小児がん、か。


「今まで遠ざけて観ていたよな。癌ってヤツを。.....でも乃木坂の件を聞いて.....また.....」


そんな事を言っていると。

背後から声がした。

俺の自室なのに、だ。


何か困っているかね?、と。

俺はビクッとしながら背後を見る。

そこにはムキムキのマッチョがポーズを決めて立っていた。

何やってんだこの人。


「.....何でもないよ。親父」


「.....そんな事はないだろう?.....ミルコ。.....お前は困っているぞ」


「.....何でもねぇって」


「.....ミルコ。我慢せずに俺の胸で泣いて良いんだぞ」


「.....」


親父は平常運転だ。

俺に対して.....そう言いながら歯を見せて笑顔を浮かべる。

この事は.....親父が一番キツいのにな。

親父は.....愛する人を失ったってのにな。

思いながら.....俺は少しだけ悲しげに親父を見る。


「俺はどうしたら良いと思う。親父」


「.....おう」


「.....乃木坂は.....母さんと同じだ。.....癌らしい」


「.....あの和菓子を買いに来てくれた少女だな?.....可愛らしかった」


「.....だな。.....それで俺は.....俺は.....」


気が付けば視界が歪んでいた。

俺の好きな人.....は。

みんな神様が奪っていく。

だから俺は神が嫌いなのだ。

思いながら居ると親父が俺をそっと抱き締めた。


「.....うむ。.....分かるぞ。その気持ち」


「.....」


「.....だがな。母さんと決定的に違う点がある」


「.....何がだ。親父」


「.....母さんは.....倒れる程に手遅れだった。.....だけど乃木坂ちゃんはハキハキして笑顔を浮かべている。.....決定的な違いはそこだ。.....まだ乃木坂ちゃんは元気だ。癌なんてものは吹き飛ばせるぞ」


「.....」


相変わらずだけど。

親父だって相当に悲しい筈なのに。

何故こんなに元気なのだろうか。


そう思える元気さだ。

あの日、俺の母さんが倒れた日。

一番に泣いていたのは親父だからな。


「.....後悔の無い様に乃木坂ちゃんと接するのだ」


「.....親父は変わらずだな。.....本当に変わらずだ」


「ハキハキするぐらいしか無いからな。ハハハ」


「でもアンタのその背中をどれだけ追おうとしたか。.....そんな感じだから」


そう。

本当にそんな感じだから。

幼い頃に和菓子屋を継がなくちゃいけない。

その信念で動いていたら.....親父はこう言った。

和菓子屋は継がなくて良い。


その代わりに必死に大切な物を見つけろ、と。

俺は幸せ者だな、と思ったのだ。

だから俺は親父の為に.....動きたいってその時から思ったのだ。


「.....親父。.....俺な。頑張るよ」


「.....その意気だ。その意気がミルコの素晴らしい才能だ」


「.....有難うな。親父」


そして俺は、頑張れ、と親父に声を掛けられてから。

本当に.....世界が晴々とした。

親父の元に、親父に。

生まれ、出会えて良かった。

ムキムキマッチョで顔は似てないけど、だ。


母さん。有難う。


その様に母さんにもお礼を言いながら.....俺は空を見てから。

そして単語帳を読み。

意を決する様に握り締めた。

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