第2話 スパイ天国のN国
石屋が持った違和感は当然だ。スパイ天国のN国。
当然、宮内庁には石屋のスパイだけじゃなくコミンテルンのスパイが入り混んでいたのだ。このスパイが立ち回り、マスコミへの情報統制をおこなっていた。
都合の悪いことは徹底的に排除する。まさにC国のやり方なんだが、そのために、A宮家の力を使ったが、別にA宮家を守るためのものではない。
これはN国人の皇室への尊敬や忠誠などを奪い、反目することこそ狙いなのだ。
N国は、島国という立地のためか、聖徳太子の17条憲法の通り、人と人との関わりを「和を以って尊しと為す」としているのだ。
確かに、もっともらしい正義が声高に訴えられれば、その過程がうさん臭くても声を上げる人はいない。もし、声を上げてしまえば批判の的になるからだ。弱気者は反論できない。マスコミをはじめすべての者が敵対するからだ。
じゃあ、本当に「和を以って尊しと為す」なのか? 反論する者が周りと比べ圧倒的な力を持っていたとしたら……。
もう一度、先ほどの例を分析してみよう。その訴える正義の人は、その輪の中で一番力を持っている人ではないのか! だからこそ周りが黙っているのだ。黙らされている者たちに力を与えれば、そんな関係はたやすくひっくり返る。そうコミンテルンはN国の国民性を理解する。
MとKへの批判の抑え込みが激しくなっていき、逮捕者などが出始めたとき、都内のあちこちで小型爆弾と思われる物が爆発するようになったのだ。
最初は愉快犯の犯行か、人が近づかないような場所で爆発規模も小さかったが、やがて、それはテレビ局のロビーや派出所をターゲットにしだした。さらに、電気やガスそれに水道などのインフラにも……、爆発も強力で都市生活に支障をきたし、ついに死人が出る事態になっていく。
そして、それに対する犯行声明も発せられたのだ。
犯行声明は、逮捕者の解放、MとKの結婚の反対表明、および皇室廃止要求なのだ。
A国の警察は直ちにこれらの一連の行為をテロと認定し、犯人の拘束に向かったが、犯行組織は、公安の予想を超える規模と武装化で、最新鋭のバズーカ砲からマシンガン、それに装甲車相手では、ニューナンブの警察では全く止められない。都内はあっという間に瓦礫と警察官の死体の山に代わり、すでに対応は公安から市街戦用武装をした自衛隊に代わっていた。
もちろん、自衛隊の武器の提供はA国からである。
コミンテルンのスパイたちが皇室のやり方に反目する人たちに大量の武器とお金を渡してテロを指導する。
最初はスパイがやって見せ、その後、一般の国民だった人たちがやるようになる。一般人だった人たちも世間から注目され、圧倒する武力で相手を黙らせると、自分たちが正義だとその力に酔うようになっていく。
次々と出る勝利声明や正当性を訴える声明に、皇室だけでなく上級国民の好き勝手さに辟易としていた人たちの参加が膨らみ、反対派は一週間で1万人を超え、自衛官や警察など公務員内部からも反目者が堰を切って現れる。それに伴い標的は上級国民の取り巻きという無差別テロに代わっていくのだ。
一端暴力を手にした甘美な味は麻薬のように体に浸透する。
皇室の結婚問題を発端に、N国を二つに分けた内戦(A国とC国の代理戦争)に突入する。
この状況を、高みの見物をするコミンテルンは細く笑んでいた。誇り高き勘違い?民族はこの手に限る。中東のタリバンもそうだ。クデーターが成功し、石屋の影響力を排除した暁には、N国はわがC国の属国になる。
明治以降辛苦を舐めさせられ続けたC国が、積年の恨みを晴らし、天皇を今度こそ戦争責任者として断頭台に送る。そんな大願ももはや目の前だ。
コミンテルンの重臣たちは祝杯をあげて、戦局を見守るのだ。
◇◇◇
市街戦が続き、所々で銃声や爆発音が響く中、セーラー服のスカートをなびかせながら、高杉紫(たかすぎ ゆかり)は靖国神社への境内へ向かって走っていた。
途中には、崩れた瓦礫に、処理が間に合わず投げ捨てられた死体が転がっている。
吐き気を覚えて、立ち止まる。
「何でこんなことになったんだろ?こんな残酷な光景……、トラウマになるよ。銃声や爆発音だけで、口から心臓が飛びだしそう、呼吸がうまくできないよ」
Mは国民からの批判でPTSDになったと発表があったが、この内戦で多くに人がPTSDになったはずだが……。いや、太平洋戦争の時はこのN国全員が生と死の背中合わせの中、PTSDと診断されていただろう。当時にそんな病名はなかっただろうけど……。
そうなった責任者の子孫は、そう言って批判の口封じをする事実をどうとられているのだろか……。
そんな中、紫(ゆかり)が靖国神社に向かうのは、一筋の希望を感じるから。
本日は靖国神社での奉仕作業の予定日だった。もっとも、厳戒態勢の中、あらゆる行事は中止になっている。何で自分が靖国神社に向かうのかもよくわからない。ただ、胸騒ぎがするだけ……。大体、熱心でない奉仕作業に今まで参加していたかどうかも記憶がない。
それだけじゃない、こんな中出かけようとすれば、絶対に止めようとする両親の記憶さえなかったのだ……。
いきなりここに連れてこられたように、この世界での自分の存在を示す記憶が抜け落ちている。知識としてはちゃんとあるのに……。そんな違和感を持ちながら、紫は靖国神社に着いた。
靖国神社は流石に英霊の眠る土地のおかげか、まだこの辺りでのテロ行為は起こっておらず、静かなものである。
いつものように社務所に入り、中の人に声を掛けたけど、中から声が返ってこない。誰もいないのか? 不思議に思いながら、土間から畳の上に上がる。
部屋に入った途端、空気が張り詰め、肌がピリピリする。実はこの部屋に結界が張られているのだが、紫の知ったことではなかった。さらに云えば、紫はこの結界内に入れる条件をクリアした人物だともいえるのだが……。
ガシャン!!
背後で引き違い戸が閉まった音だ。さっきまで誰もいなかったはず?
「誰かいるの?」
紫が恐る恐る声をかける。だけどそれに答える声はない。
「きっと風でしまったのね」そう思った途端、目の前で閃光が走り、思わずしゃがみこんで目をぎゅっとつぶった紫の耳に、今度は大爆音が響いた。
「しまった。爆破予告があったんだ。社務所の人たちは避難していたのね! 今更、来たこと後悔しても仕方ないけど、わたし、死ぬんだ!」
死を覚悟した紫だったが、爆風による衝撃や痛みはいつまでたっても来なかった。恐る恐る薄目を開けると……。
真っ白の中に自分がいた。光が上下三六〇度から降り注いでいるのか、まったく影が見当たらない。
「ここはどこ? わたしは死んだの?」
そんな問いに答える者も当然しない。「きっとここはあの世なんだわ。痛みを感じなかったのがせめてもの幸い」そう考えて立ち上がって正面に向かって歩き出す。
「確か、お迎えが来るはずなんだけど……」
いつまでも変わらない景色に、そんなことを考えていると、目の前に初めて白以外の影は現れた。その影が目の前で無数に別れ、人型になっていく。
「軍服?!」
「我が魂を揺さぶる愚か者どもよ!! 愚かな歴史をふたたび繰り返すのか!?」
人型が発する怨念のように聞こえる声々に、耳をふさぎうずくまって動かなくなってしまった紫。
「何で、わたしがこんな目に……」
震える紫の肩を温かい手がたたく。その手が今までの不安や恐れを払拭してくれる。こんなに安らかな気持ちになる手って……、手の方に顔を上げた紫の目は驚きで目が開かれた。
そこには遺影でしかみたことがない。紫のひい爺さんが立っていたのだ。
そして、紫の手を取ると、立ち上がらせてくれたのだ。
「紫よ。お前は死んではおらん。わしらのお願いをちょっと聞いてほしかったんで、わしがお前を呼んだんじゃ。ここにいるこれらの者は、靖国に奉られている英霊たちじゃ。今回の皇室のやり方には全員が憤りを感じている。ここにいる何百万人は天皇とお国のために命を投げうったのだ。万系一世と敬われているが、一度は太平洋戦争で途切れかかった家系なのだ。それが繋がったのも我らの犠牲に成り立ったもの、皇室の儀式とは、本来、わしら英霊の鎮魂が最大の義務じゃろう。
権威付けに利用したい輩と手を組み、自らの利益を図る皇室など百害あって一利無し。さらに、公然と私(し)を優先し潔癖さ失うなど、われらとて捨て置けるものではない」
「おじいさん? それってMとKの結婚のことを言ってるの?」
「あれは単なるきっかけだ。おかげで影で隠されていたことが明らかになりつつあろう」
「うん、皇室にあんなに権力やお金があったなんて、教科書とは全然違った」
「そうじゃろ、わしらも、死んで初めて知ったことがある」
「それは……?」
「万世一系などと言っておるが、今の天皇は明治維新の時に西洋列強国の意向を組んだ輩どもがすり替えた天皇の子孫なんじゃ」
「嘘……」
「嘘なものか。それもこれも、わしの2代前の先祖が大願成就の手前で死んだことで、歪めってしまった歴史の結果なのじゃよ」
ひい爺さんの後ろで人型の影が揺れる。輪郭が揺れているところを見ると何か私に謝っているようだ。
「こいつもよろしくと言っているようじゃ。うむ、そろそろ時間も限界のようじゃ。幕末のころの神魂一族(かもすいちぞく)の里に送るので、事情を話して正しい歴史に戻すよう加勢してもらえ。彼らはこのN国を建国以前から守護してきた一族じゃ」
「ひいじいちゃん!! 全然、事情が呑み込めないよ……。神魂一族ってどこにいるのよ?! 待ってよ。私一人でどうしろっていうのよ!!」
「あーあっ? なんでこんなことができたかって? この靖国神社は第一級のパワースポットなのじゃ。そこに爆発で超振動という物理エネルギーが加わり、強力な磁場ができる。その磁場にわれら英霊の霊力を注ぎ込むことで過去と繋げることができるのじゃ・じゃ・じゃ、」
エコーを響かせながら、ひい爺さんの声が遠ざかっていく。
(聞きたいのはそんなことじゃない!! どうやってこんな難しい問題解決するのよ!!
タイムスリップによる歴史改変……、確かに数々の小説で読んだことはある。確かに今の歴史は間違っている。どっちが正しいかよくわからないけど、国を二分して殺しあうなんて絶対におかしい。それを過去にさかのぼって解決しろって……、その原因が天皇のすり替えって云うんでしょ! 予想の斜め上だよ。一介の高校生には手に余るよ~!!)
「その歴史の改変ってチートでもなきゃ無理でしょ!!!! こら神様出てこい!!」
これは、最近の転生ものの読みすぎである。それに興奮したせいか、最後は声が出てしまったようだ。
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