第11話 聖女様とお忍び
セイさんと秘密で歪な関係になり、十日が過ぎた。
セイさんと俺はいつも通り、学校でなあまり話はしない。しても挨拶くらいだ。
セイさんはセイさんのグループで集まり、俺は俺で咲也と一緒に過ごしている。
これがいつも通り。
これが普通の日常。
……なのだが。
「ねえ真日。最近十和田さん、真日のこと見てない?」
「……そうか?」
そう。セイさんがちょくちょくこっちを見てくるようになったのだ。
今もチラッとセイさんの方を見ると、あからさまに顔を逸らされた。
別に逸らすのはいいけど、そんな風にされるとちょっと傷付くんですが……俺、何かやっちゃったかな?
「さあ……気のせいだろ」
「うーん、そうかな……?」
咲也って、こういうことになると鋭いんだよな。あんまりボロ出さないようにしないと。
そっと嘆息して次の授業の準備をしていると、咲也が「ところで」と話しかけて来た。
「【トワノセイ】はどうだったのさ」
「……どうした、急に?」
あ、危ねぇ。思わず反応しちゃいそうだったけど、我慢出来た。偉いぞ俺。グッジョブ。
……遠くで盛大にコケてるセイさんは無視の方向で。
「急も何も、いつもは仕事後に教えてくれるじゃないか。でもセイさんだけは教えてくれなかったし、どうしたのかなと思って」
しまった、そうだった。
セイさんのことについてはどう説明したらいいか分からず、後回しにしてたんだった。
「あ、あー。そうだな……あ、後でにしよう。ここじゃ人が多すぎる」
「そうだね。いやー楽しみだよ。セイさんって結構謎でさぁ。この間もSNSを更新してたけど、すごくご機嫌だったんだ。多分例の撮影からなんだけどさ。あ、知ってる? あの撮影から、セイさんのフォロワーが爆伸びしてるんだよ」
ペラペラペラペラ。
あ、相変わらず、好きなものになるとものすごく喋るな、咲也……。
話に夢中になっている咲也を横目にセイさんを見る。
「〜〜〜〜ッ……!」
「十和田さん、どしたんー?」
「な、なんでもないですよ、瑛ちゃん。はい、大丈夫……大丈夫でしゅ……」
「どう見ても大丈夫なようには見えないんだけど!?」
「ちょ、ちょっとお手洗いに……!」
セイさんは顔を真っ赤にし、いそいそと教室を出て行ってしまった。
「どうしたんだろうね、十和田さん」
「風邪でも引いたんじゃないか?」
「あー、顔真っ赤だったからねー」
お前のせいだけどな。
だけどごめん、セイさん。止められなくて。
咲也は興奮すると口が早くなるタイプのオタなんだよ……。
「いやー、それにしてもこのサキュバニーのセイさん、最高だよねぇ〜」
「ニヤけ顔しんどい」
「キモいより傷つくんだけどっ!?」
◆
放課後、学校の近くのカフェに咲也と行くと、いつも通り窓際の席に案内された。
ここ、見た目が落ち着きすぎて高校生はあまり来ないんだよな。今の時間は客も余りいないし、オタ系の話をするのにもってこいな場所なんだ。
「マスター、ブラック二つ。ホットで」
「かしこまりました」
咲也が慣れたように注文をする。
もうここに通って一年にもなるからなぁ。
席に座って、とりあえずスマホで【MANA】のアカウントからセイさんのアカウントを覗く。
セイさんのアカウントは、基本自撮りとカメラマンに撮影してもらったコスプレ写真を乗せている。
その中でも、俺の撮ったサキュバニーのコスプレは既に10万ハートを超えていて、ものすごい数拡散されていた。
「流石【MANA】さん。男心をくすぐりつつ踏み込みすぎない確度。感服しました」
「やめろ、こそばゆい」
でも俺も、こんなに拡散されるとは思ってなかった。
サキュバニー以外のコスプレも、軒並み数万ハートが付いてるし。
コスプレ以外の呟きも注目されていて、最近では手料理の写真や猫を見た等の小さな幸せのつぶやきも、数千ハートが付く始末。
元々有名だったけど、一気に有名になったな、セイさん。
その一端になれたなら、こんなに嬉しいことはない。
「それで、どんな人だったの?」
「あー、それはだな……」
「わかってるわかってる。僕もそんな詳しくは聞かないさ。いつも通り、ちょっと教えてくれたらいいから」
……まあ、それなら……。
マスターがブラックコーヒーを俺らのテーブルに置き、一口飲んで息を吐く。
ふぅ〜……ん? いつの間にか近くのカウンターに女性が……。
茶色の髪を結わえて、チラチラこっちを見てくるあの人は……。
あれって、もしかして……。
「ま、マスターさん。紅茶セットを。ホットで」
「かしこまりました」
あ、この声。
セイさんじゃね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます