第10話 聖女様のお気持ち

   ◆



「はい! 完成しました!」



 時刻は九時を過ぎ、控え室のテーブルには香りの良い朝食が並んでいた。


 こんがりと焼けたトーストに、ベーコンエッグ。

 根菜がふんだんに使われたポトフ。

 キャベツの千切りにミニトマト。


 今まで見た事がないほど、朝食らしい朝食だった。



「すっげぇ……」

「ふふふ、頑張らせてもらいました。栄養満点なので、残さず食べてくださいね」

「あ、ああ」



 ここまで、されて残すような真似はしない。

 というかこんなに美味そうな朝食を前にして、残すはずがない。


 席に座ると、セイさんも対面に座った。



「それじゃあ……いただきます」

「はい、どうぞっ」



 とりあえずポトフを一口。

 ……あぁ、温かい。染み渡るような美味さ……いい。

 更にマーガリンを塗ったトーストにベーコンエッグを乗せてかじる。

 塩コショウが聞いたベーコンエッグ。それに半熟の黄身が溢れるように零れ、理想的な舌触りだ。

 キャベツの千切りは酸味の効いたドレッシングが掛かっていて、口の中をさっぱり洗い流してくれる。


 それらを総評していえることは。



「美味い」

「えへへ、よかったです」



 食レポなんて出来ないんだ。語彙力のない俺を許してくれ。

 でもこれ、本当に全部うまい。まさかこの短時間で、こんなに美味い料理を作れるなんて。



「ごめんなさいマナさん。本当はもっと凝った料理を作りたかったのですが……」

「いやいや、これだけでも十分だよ」

「いえっ、今日のお夕飯は、もっと美味しいものにしますね!」



 ふんすっと気合いを入れるセイさん。

 セイさんがそうしたいなら、やりたいようにやらせてあげよう。



「それでマナさん。今日のご予定はどうなってます?」

「昨日は夜中まで撮影してたから、今日は休んでいいよ。家に帰ってもいいし、遊びに行ってもいいし」

「マナさんは?」

「俺は撮影の仕込みをしようかな」



 少しずつでも進めて、慌てないようにしたいから。



「そ、それじゃあ、私も手伝いますっ」

「いや、せっかくの休日なのに、悪いよ」

「そんなことありません。私が手伝いたいから手伝うんです」

「そ、そう……?」



 何をそんなに熱くなってるんだろう。わからん。

 でも正直な話をすると、手伝ってくれるならかなりありがたい。

 俺一人ではどうしても時間が掛かる時もあるし、労力が二人分になればそれだけ進みも早いから。



「うーん……わかった。じゃあ細々としたことをお願いするよ」

「任せてください!」



   ◆聖side◆



 朝食後。私が食器を洗っている間、マナさんには休んでもらうことに。


 昨夜も私のせいでソファーで眠らせてしまった上に、学校や仕事での日頃の疲れもあります。

 尊敬する【MANA】さんにしっかり休んでもらい、身の回りのことは私がする。アシスタントとしての務めです。


 ここだけの話、一部のコスプレイヤーさんの中には、マナさんの熱狂的なファンもいます。


 当然私もその一人なのですが……そんな私のせいで、マナさんに風邪を引かせる訳にはいかないのです。



「これでよしっと……ふぅ」



 洗い物も終わり、エプロンを脱ぎます。

 さて、マナさんは……あら?



「すぅ……すぅ……」



 ……寝ていますね。それはもう、ぐっすりです。


 ベッドに横になっているマナさん。

 ずり落ちている布団を被せてあげると、どこか安心したような顔になりました。


 ……可愛い寝顔ですね。ちょっと見蕩れてしまうくらいに。

 そっと前髪を直すと、くすぐったそうにしました。


 眠っている時は可愛らしく。

 スタジオのセットを作っている時は子供のよう。

 そして撮影をしている時は情熱的。


 全てがマナさん。

 全てが、久堂真日君。


 彼を知れば知るほど、私の中にある暖かな気持ちが膨らんでいきます。






 この気持ちは、なんなのでしょう?

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