第5話 聖女様と撮影会
「お疲れ様でーす!」
「お疲れさん」
無事に撮影を終え、俺とセイさんはささやかながらお疲れ会を開いていた。
今日はセイさんがアシスタントをして、初めての撮影だ。毎日は出来ないけど、今日くらいはな。
オレンジジュースを片手に、コンビニで買ってきたお菓子やフライ系を摘む。
疲れた体にこれが染みるぜ。
「おぉっ。コンビニの唐揚げやお菓子って、美味しいんですね!」
「食べたことないの?」
「はいっ。実家では体に悪いからと、全く食べさせてもらえず……その影響で、今でも口に入れるものは全部手作りなんですよ」
なんと。ということは、お菓子まで手作りってことか。
噂では聞いてたけど、本当になんでもできるんだな。流石は聖女様と呼ばれるだけある。
「セイさんって苦手なものなさそうだよな」
「何をおっしゃいますやら。ありますよ、苦手なもの」
「え、何?」
「虫とか苦手です。見ると、『キャーッ!』って叫びます」
「可愛い」
「んぐっ。な、何を言いますかっ! もうっ」
しまった。つい本音が。
ぷいっとそっぽを向くセイさん。
顔を赤くしてるけど、満更でも無さそうだ。
にしても、見た目よし。性格よし。勉強も常に学年1位。それに加えて家事スキルもよし。更にコスプレ衣装も自作って、ほとんど完璧超人じゃないか。
ここまで完璧だと、いっそ清々しいわ。
「後はそうですね……ぁ……」
「ん? どうした?」
「い、いえっ。これは大丈夫です、はい……」
急にどうしたんだろうか。
……まあ、聞いて欲しくないなら、聞かない方がいいか。
「ところで、次のお仕事っていつですか?」
露骨に話を逸らされた。まあいいけど。
スマホのカレンダーを開き、予定を確認する。
「次は……来週の水曜日だな。珍しく時間が空いたから、ゆっくり準備しようと思ってる」
「それでしたら、ちょっとだけ私の事を撮ってくれませんか? もっと色んなコスプレで撮影したいです!」
「ん? そうだな……背景が無地で良ければ、いくらでも撮ってやるよ」
「本当ですか!? な、なら次の週末、全部私に時間をください!」
全部と来たか。思わず苦笑い。
「あ……す、すみませんっ。わがままを言ってしまって……」
「あ、いや。迷惑だなんて思ってないよ。ただ聖女様でも好きなことになると、子供っぽくなるんだなと思って」
「むっ。聖女様はやめてください。私、そんな高尚なものじゃありませんっ」
むー、とむくれてしまった。
学校ではお淑やかに笑うセイさんしか見てこなかったけど、こうして接すると本当に色んな表情を見せるな。
そんな彼女を見てまた笑ってしまい、セイさんにぽかぽかと叩かれてしまった。
◆
そして週末。
金曜の夜から土曜日に掛けて、今日はセイさんを撮影することになっている。
スタジオの一部を白い布で囲っていて、一応小道具やソファー、机なんかは置いてある。
衣装によっては背景が暗い方がいい場合もあるから、隣には黒い布で同じようなスペースを作っていた。
「マナさん、今日は寝かせませんからね?」
「それ、女教師コスで言ってほしい」
「……! え、えっち! えっちです!」
お前から言ったんやろがい。
セイさんはぷんぷんしながらも、嬉々としてコスプレ衣装を準備する。
この一週間で、セイさんは少しずつスタジオに衣装を持ってきていた。
その数、実に100着以上。とんでもない量だ。
「清楚系、エロ系、子供系、ガテン系……本当になんでもあるな」
「えへへ……アニメで気に入ったキャラのコスは、全部作っちゃいました。子供キャラでもついつい……私の体型には似合わないとわかっているんですが、欲求には抗えず」
確かに、セイさんの体型は高校生離れしている。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。トレーニングも欠かしていないから、全体的に引き締まってるし。
そんな体で、子供キャラのコスプレか。
…………。
「いや、似合うと思うぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。マニアには受けそうだ」
「むーーーーー!!」
悪い。悪ふざけが過ぎた。
でも反応が可愛くてついつい。てへ。
「でもここなら、誰にも見られずに写真撮れるぞ。やらないのか?」
「う……」
「せっかく作った衣装なんだ。着てやらないと可哀想だぞ」
「う、うぅ……うー! 着ますー!」
勝った。
恐らくセイさんの性格のことだ、子供キャラコスの写真が出回ることはないだろう。
つまり俺だけが知れる、子供キャラコスの【トワノセイ】の姿……そそるな。
いくつかの衣装を持って控え室に入り、しばらくして出て来た。
「お、お待たせしました、です……!」
宣言通り、子供キャラの衣装を着てきた。
当然採寸はセイさんに合わせてあるけど。
「それ、魔界チルドレンのルシたんか?」
「は、はいです。この子が、私の性癖にどストライクでして……」
金髪ロングのウィッグを被り、側頭部からはヤギの角が生えている。
服は黒のゴスロリ。スカートはロング。
手には小さめの魔法ステッキ。
背中には黒い翼。
足元は編み込みのロングブーツ。
目は魔法陣の刻み込まれた赤いカラコン。
魔界チルドレンの中でも最強ロリにして、主人公の絶対的相棒だ。
「なんだ、似合ってるじゃないか」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
一部、だいぶパツパツだけど。
「じゃ、早速撮影を始めるか」
「よろしくお願いします!」
カメラを手に、いつも通り集中する。
ただ被写体を撮るパーツとして、集中の海に没頭した。
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