第26話 ハイネス攻防戦9
ジェムジェーオン遠征軍とバルベルティーニ黒騎士第二軍団の連合軍が、正体不明の3個師団の部隊と衝突してから、30分が経過していた。
「くそっ」
バルベルティーニのトライデント『赤槍』ベリウス・クラウディウス将軍は
バルベルティーニ黒騎士第二軍団は、想定外の苦戦に陥っていた。
クラウディウスの想定は甘かった。
ハイネスの戦場に現れた3個師団の軍勢は、クラウディウス自身が予想していた烏合の衆ではなく、格段に練度が高い部隊だった。
確かに、準備する時間に乏しい急な出陣だったとはいえ、バルベルティーニ伯爵国の最精鋭部隊である黒騎士第二軍団が、ここまで翻弄されることになろうとは、全くの想定外の出来事だった。
敵部隊は複数の
黒騎士第二軍団長のクラウディウス自身さえも、敵の術中に嵌まった。
気が付くと、一緒に戦っていた親衛隊と分断されて、単機で孤立していた。
クラウディウスは周囲を確認した。
敵部隊の
一番近くにいた右側の
クラウディウスは、
「バルベルティーニのトライデントのひとり『赤槍』のベリウス・クラウディウスは、それほど易くないぞ」
クラウディウスは自身の誇りであり象徴でもある長槍オーディニールを構えた。そして、一直線に向かってくる敵に対して、自身の
敵の
クラウディウスの長槍オーディニールも赤く輝いた。
クラウディウスは、敵の
敵の
「遅い!」
敵の
槍先が真っ赤に輝き、敵の
――1機目。
敵の
――2機目。
連続撃破。代償として、クラウディウスの
――この状況はまずい。
クラウディウスの目に、3機目の敵
バランスを崩したクラウディウスの
レーザーガンから閃光を放たれた。
「うっ」
次の瞬間、クラウディウスの
間一髪だった。
辛うじて駆けつけた親衛隊の
クラウディウスの耳に、女性の声が伝わってきた。
「クラウディウス閣下、お怪我はありませんか」
声の主は、クラウディウス旗下の親衛隊長カタリナ・ベルッチ中佐のものだった。
「カタリナか」
「はい。閣下、ご無事ですか」
「誰に対して言っている? 『赤槍』ベリウス・クラウディウスがこれしきの相手に負けるわけなかろう」
「いつものクラウディウス閣下で安心しました」
「敵は?」
カタリナが辺りを伺った。
「姿がありません」
カタリナの言葉を確かめるように、クラウディウスは周囲の様子を確認した。
敵
「引いたのか?」
「どうやら、そのようであります」
クラウディウスの元へ、続々と親衛隊が騎乗する
――敵部隊の決断は素早い。
敵部隊は、まず、こちら側を分断した。そして、分断した部隊が再集結することを見越して、数で不利になる前にこの場を離脱した。激戦のなかで、敵部隊の
戦場を見渡した。
敵と味方、撃墜された
――互角か。
しかし、ここで戦っていたのはクラウディウスと親衛隊の
――厳しいな。
クラウディウスの背筋は寒くなった。
「ここ以外、他の戦場はどうなっている」
「他の部隊も苦戦しているようです。敵
「なに!? ランサー部隊だと」
「は、はい。そのように報告を受けています」
クラウディウスは耳を疑った。
アクアリス大陸における主力兵器である
だからこそ、アクアリス大陸前脚地方で、バルベルティーニの
「カタリナ。ジェムジェーオンで、ランサー部隊のことを聞いたことがあるか」
「いえ、小官は聞いたことがありません」
急に、漠然とした形にならない何かが、クラウディウスの頭をもたげた。
――これは大事なことだ。
はっきりとしないが、その何かが、クラウディウスを駆り立てた。
「どこだ?」
「え!?」
「そのランサー部隊のことだ。カタリナ、俺をその場所に連れて行け」
進んだ先に、この茫洋としたものの正体を掴む糸口がある気がした。
「クラウディウス閣下自らが、赴くのですか?」
「そうだ」
クラウディウスは強い口調で応えた。
カタリナも強い口調で返してきた。
「わかりました。もう少し待てば、さらに親衛隊員が戻ってくるはずです。数が揃うまで待ってください」
「……仕方ないな」
クラウディウスはカタリナの言葉に従うことにした。
即座に、移動を開始したいと衝動に駆られたが、これまでの戦いで示された敵部隊の力量を考えると、クラウディウスは強引に意見を通すことはできなかった。
程なく、親衛隊の
自身と合わせて7機になったところで、クラウディウスは先に進むことを決した。
「行くぞ」
ここに至って、カタリナも反対しなかった。
「判りました。私に付いてきてください」
クラウディウスと親衛隊の
その地は、悪夢のような光景が広がっていた。
惨憺たる有様。
あちらこちらに、バルベルティーニブラックに塗装された
クラウディウスやカタリナたちは言葉を失った。
前方から、バルベルティーニブラックに塗装された
味方機だった。
クラウディウスはすぐさま、通信を開いて、
「いったい、何が起こっているというのだ?」
「その声は、クラウディウス閣下ですか」
「そうだ」
「閣下、すぐにお逃げてください」
「どうしたのだ?」
「この敵は危険すぎます」
パイロットの声は、悲痛な叫びに近かった。
同時に、黒い爆風が煙幕となり、一列縦隊の
「私がここで時間を稼ぎます。その隙に、お逃げください」
バルベルティーニブラックに塗装した
爆風のなかから、敵部隊の
刹那、一列の単縦隊列が左右に崩れる。
白い
味方の
巨槍が作り出した波動は、大地ごと引き裂いて、地面から根こそぎバルベルティーニブラックの
敵のランサー部隊が戦場で舞ったあと、残されたのは、動かなくなったバルベルティーニブラックの
クラウディウスたちは目を奪われた。
――螺旋爆颯。
バルベルティーニのランサー
親衛隊長のカタリナも同じ感想を抱いたのだろうか、呟いた。
「あ、あれは、螺旋爆颯……」
疑いようなく、これは螺旋爆颯と呼ばれる必殺の戦術だった。
――しかし……。
バルベルティーニの元黒騎士第一軍団隊長カイザリック・カシウス将軍は、1年ほど前からバルベルティーニで、その姿を消していた。
敵のランサー部隊は、クラウディウスたちと距離を置いて、足を止めた。
中心には、巨槍を担いだ白い
クラウディウスも同じように、敵部隊の中心で巨槍を構える白い
白い
次の瞬間、巨槍をこちらの陣に投げ込んできた。
巨大な円錐状の槍は、クラウディウスたちの目前の大地に突き刺さった。
敵のランサー部隊は動かなかった。
攻撃の意図を感じなかった。
カタリナが巨槍に近づいた。
「クラウディウス閣下」
「どうした」
「これをご覧ください」
カタリナの
「これは」
槍柄に施された装飾。見間違えようか。バルベルティーニのトライデントエンブレムが刻まれていた。トライデントエンブレムの着装は、バルベルティーニ黒騎士団の軍団長3人にしか認められていない。
クラウディウスは自身の長槍オーディニールの柄に施されたトライデントエンブレムを見遣った。
瞬間、脳に雷撃が走り抜けた。
「ははは」
クラウディウスは腹の底から湧き上がる笑いを抑えられなかった。
――間違いない。
まさか、探していた答えのひとつが、ジェムジェーオンの戦場で見つかるとは。
クラウディウスは巨槍を地中から引き抜き抜いた。巨槍を天空に掲げたあと、敵陣のなかに投げ返した。
巨槍は宙を舞い、敵軍の白い
敵のランサー部隊の中心にいた白い
「カタリナ、退くぞ」
「し、しかし……」
「決定事項だ。撤退の発行弾を打て」
「はい」
カタリナが配下の者に命じて、退却の発光弾を打たせた。
戦場に残っていたバルベルティーニの
敵部隊にとってみれば、追撃戦のチャンスだった。
しかし、手を出してこなかった。
バルベルティーニブラックの
白い
向かった先は、ハイネスの戦場の中心だった。
「クラウディウス閣下、報告があります」
カタリナの声だった。
「何だ、報告してくれ」
「敵のランサー部隊に敗れた
クラウディウスは頷いた。
「いま俺たちに出来るのは、一人でも多くバルベルティーニの同胞を収容することだ」
「承知しました」
クラウディウスは、戦場の中心に向かったランサー部隊の姿が小さくなるまで、その背中を目で追っていた。
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