第54話 海底神殿に来てまで宝玉を食うとか正気の沙汰じゃねえよ
『久しいなドルザーク』
「うむ、ヴァーングルドも息災なようでなによりだ」
薄暗い海中、いろいろとアレな形をした海底神殿の傍にて。
大事なところを惜しげもなくさらす二人が握手を交わした。男──ドルザーク感動の再会と言いたげな雰囲気を醸し出しながら二人は見つめ合い──
「さあ、さっそく
「ちょっと待てええええええええい!!!」
ふっざけんじゃねえよおい!? ただでさえ羞恥心マッハな格好させられて怖い思いしてまでここに来たのに本題無視して盛ろうとかどんな聖人でも青筋浮かべてぶん殴るレベルだろ!
「む? この人間はなんだ?」
俺の事気づいてなかったのかこの露出魔! 脳みそ全部十八禁に犯されてるのかコイツは……。
まるでそこいらの虫けらを見るような目を向けてくるドルザークは、つまらなさそうに鼻を鳴らしてレジーナに向き直る。そして堂々と、その体に手を伸ばして、
「ごべあっ」
『我が貴様の汚物を受け入れることなど万に一つもあり得ぬ。そもそも貴様のような輩に我の肢体を見られるだけですらおぞましくて仕方ないのじゃ。それ以上粋がって我を愚弄せんとするのであれば今度こそ本当に消し飛ばすぞ?』
レジーナが彼の鼻先に勢い良く振り抜いた拳の圧で、首をヤバイ方向にねじ切られた。水中とは思えない速度で海底に落ち、ドゴンッ、とくぐもった音が響く。
レジーナは食料に巣食った醜い害虫を蔑むような絶対零度の視線を男に向けたまま、握手をした自分の手首を切り落とした。
「いや、ちょっと待って何やってんの」
『手など一瞬で生えるから問題ないのじゃ』
彼女の言う通り、血が漏れる傷口が見る見るうちに盛り上がったかと思うと、ゆっくりと手の形へ変わってゆく。割とグロテスクで、俺は思わず目をそらしてしまった。
『まったく、我が仕方なしに尋ねてみれば勝手に思い違いをして気色悪い笑みを浮かべおって……用事が終わったら始末せねばならぬようじゃな』
「……俺が言うのもなんだけどさ」
あまりにも辛辣すぎないか、あの
問いを投げると、レジーナは当然とばかりに『あの腐れ脳みそは死んで当然なのじゃ。生かしてやっているだけ感謝すべきなのじゃよ』と吐き捨てる。
レジーナがここまで口汚く罵るところなんて見たことなかったから、尋常でない彼女の様子に少し怖くなった。あの男はどんだけヤバイ大罪を犯したのだろうか。
「う、う……ひどいではないか、いきなり首を折るなど」
『むしろ寛大じゃといつになったら気づくのじゃ?』
「…………」
レジーナがひと睨みすると、男は小さく身震いして顔を強張らせた。そして「申し訳ない」とぎこちない謝罪をした後、危なっかしい動きで神殿へと向かう。
「儂の後に続け」
途中で振り向き、それだけ呟いて再び進む。俺はレジーナに手を引かれて、薄汚くそびえる塔のような神殿に近づいて行った。
🐉
それから神殿の中に入った俺たちは、薄暗い迷路のような通路を進み、何度か階段を上った先にある個室に案内された。そこはちょうど宿の一室と同じ程度の広さで、四方の壁には青白いランプが設置されている。
何かを取りに行ったドルザークを待っている間、俺は入り口のある天井を見上げて呟いた。
「海中じゃなきゃできないな、こんな入口……」
『あのバカはこれが独創的で先進的だと思っておるようじゃが……相変わらず悪趣味じゃの』
レジーナの言葉に頷く。俺の視線の先には、大口を開いたワームのような彫刻とその中心に開いた穴があった。
ワームとは、俺の住む町から遠く離れた場所にある砂漠、そこにある迷宮で出現するモンスターの一種だ。俺は以前一度本で見ただけだが、その姿は醜悪極まりなかった。
少し黄色がかった朱色の胴体は歪んだ球体を無理やりにつなげたようなひも状で、表面には海のようなイボが大量にできている。太く縮れた毛がまだらに生えていて、一端には無数の牙が生えそろった口が開いているのだ。
最初見たときはあまりの気持ち悪さにすぐ本を閉じてしまった。そのぐらいの破壊力がある見た目で、それを再現した入り口が美しいはずもなく。
「これでセンスがあると思ってるなら一回脳みそ取り換えた方がよさそうですね」
『じゃろ?』
レジーナがあの男を嫌っている理由がなんとなくわかった。あれは、全てにおいて感性がぶっ壊れた危ない奴だ。基本関わっちゃいけない。
が、俺の前であんなにボロクソ貶すほど嫌いな奴に会いに来たということは、それ相応の理由があるのだろう。それが簡単に済む内容であればよいが……。
そう思っていると、暗い穴の奥から相変わらず全裸の男がヌッと顔を出した。
「持ってきたぞ」
『うむ』
若干レジーナから距離を取っている彼から投げ渡されたのは、小さな宝箱のようだった。レジーナの手前に落ちたそれはひとりでに開き、中から何かが零れ落ちる。
「ほ、宝玉?」
『うむ、その通りじゃ』
見えたのは大きな宝玉だった。美しい白銀のそれは青白い光を反射して薄い青や赤に染まり、妖しく輝いている。
レジーナは手の平に炎を纏って(水中なのにどうやっているんだろう、というのは考えないことにした)それをつかみ、目の前に掲げる。
『ふむ……問題ないようじゃ』
「ずっと閉まってあったからな」
男はすぐに姿を消した。何をしに行ったのかはわからない。
……レジーナの持っている宝玉がどういうものなのか、俺にはさっぱりわからなかった。ただ、レジーナの真剣な目を見る限りかなり重要なものなのだろう。
『クロノ』
不意に彼女が振り向いて話しかけてきた。びっくりして返事をすると、彼女が持っている宝玉を押し付けられる。
これをどうすれば……と聞くと、ただ一言『食べろ』と。
「いやこれ食べられるわけないよね!?」
『安心せい。ちゃんとフルーツ味じゃ』
「そんなの関係ないから!」
なんだよ、真面目な話をしに来たんじゃないのか!? あれだけマジなトーンで話しておいて俺をおちょくるのだけなのか!?
なんかもうイライラしてしょうがない。レジーナは俺を振り回して何がしたいんだ──
「もごっ!?」
『ほれ、早く食うのじゃ』
レジーナが俺の手首をつかんで、宝玉を無理やり俺の口へと押し付ける。滑らかな表面のそれは唇に触れた瞬間グニュッと……え?
「ま、マジで食べられるの……?」
『そうじゃよ。それを食べればお前が欲している情報も手に入る』
「そう、なのか……」
レジーナの圧がすごくて、俺は渋々それを齧る。確かにフルーツ味だった。
結構な体積があるそれは意外にも軽く食べられて、あっという間に減っていく。そして最後の一口を食べきった瞬間、
「ふえっ」
視界が黒く塗りつぶされた。
地底に住む古龍と仲良くなったので、一緒に世界を旅することにした。 22世紀の精神異常者 @seag01500319
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